163・最後には正義と愛が負けました
「ナイジェル!?」
私はすぐにナイジェルの名を呼ぶが──彼はさっと手でそれを制す。
神剣の闇がナイジェルの体全体を覆います。彼は体をくの字に曲げて、苦しそうな表情を見せました。
治癒魔法──ダメ!
まだ聖女の力が戻っていません!
「ほほお? 忌々しい聖女か」
混乱していると、ナイジェルの口が動いた。
しかし──その声はナイジェルとは似ても似つかない邪悪なもの。
だけど確かに彼の口から声は出ています。
「あなたは──」
「ようやく、こやつの体を乗っ取れた。清々しい気分だ」
その声を聞いて、今ナイジェルの身に起こっていることを察します。
魔王です。
魔王が簡単に力を貸してくれたことに、少し違和感を抱いていたのは事実。
ナイジェルも実際やってみない限りは、どうなるか分かっていないようでした。
だから……。
「妾が貴様等の味方になったと思ったか? 正義と愛が最後に勝ったのだと? ──バカか。妾はそういう存在ではない」
牙を隠して、ナイジェルに一旦力を譲渡した。
そして隙を見計らって、神剣を伝いナイジェルの体を乗っ取ろうとしているのです。
「おやめなさい! 早くナイジェルから離れなさい!」
「命令するな」
ナイジェル──魔王が前に手を突き出す。
彼の双眸は妖しく赤く光っていた。
「ああっ!」
すると私は見えない力で、後方に吹っ飛ばされます。
このようになっても、私はセシリーちゃんの手を離しません。
魔王はケタケタと笑い、
「全てが好都合だ。女神の力があれば、話は別だったが──まだ戻らぬのだろう? ならばそれまでに、貴様を殺すとしよう。ただで死ねると思うな。死んだ方がマシだと思うほどの苦痛を一瞬で味わわせてやろう」
そう言って、ナイジェルの体を乗っ取った魔王は神剣──いえ、魔剣を振り上げ──。
「めーーーーーーーーーっ!」





