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162・大勝利!

 ナイジェルの目に光が宿る。


「ナイジェル……ご無事ですか?」

「うん。心配かけて、ごめんね」


 そう微笑むナイジェルは、いつもの彼でした。


「もう一度言うよ。僕は君だけの理想の王子様になりたいんだ」


 彼は一旦、私から手を離し、両手で剣を持つ。

 その剣の刀身は真っ黒に染まっていた。邪悪な気も変わらないまま。

《白の蛇》が方向転換し、私達目掛けて猛進する。


「そのために……僕は君もリンチギハム──みんなを守りたい。こう思う僕はワガママなのかな?」

「いえ、そうは思いません」


 だって──それがナイジェルですもの。



『な、なんだと……? その力はまさか……!?』


 ヨルの戸惑いの声。

《白の蛇》が向かってくる。けれど、今度は逃げない。真っ向から立ち向かう。


 ナイジェルが剣を大きく振り上げ、


「はあああああああ!」


《白の蛇》を斬り裂く。


 すると《白の蛇》の体が徐々に黒く染まっていく。

《白の蛇》は少し苦しむように体をくねらせましたが、徐々に落ち着いていった。


「消えて──いない」


 そして同時に、《白の蛇》が一から生まれ変わったような──そんな感覚を私は抱きました。

 やがて体──そして、その体に纏っていた炎も黒く染まった《白の蛇》は、私達から興味をなくしたのか、その場から離れていった。

 私も自分の胸元に灯っていた炎を見ると、その色は白いままでした。

 これはつまり……《白の蛇》が作り替わったことにより、私との命の繋がりもなくなったということでしょうか。



『そうか……それは魔王の力か。神々とは程遠く、使い方を誤れば世界が滅ぶほどの強大な力──それがあったか』



 そんなヨルの声は、おかしなくらいに気の抜けたものでした。


「ナイジェル……魔王というのは?」

「うん。気付いたのは、僕もここに来る直前だ」


 とナイジェルは口を動かす。


「魔王を斬った時、きっとこの剣に魂の一部が乗り移っていたってことなんだろうね。最近、頗る体調が悪かったのも、よくよく考えればこいつのせいなんだろう」


 確かに剣をよく見ると、見たことのある邪悪な力が感じ取れます。

 どこで見たのか──それはもちろん、ベルカイム王城の地下。

 魔王を目の前にして、私達はこの圧倒的な力に恐怖を覚えたものです。


「魔王は何度も僕に語りかけてきた。欲望に忠実になれ──なにを捨てる──そういった類のね。その声を聞いていると、何故だか僕の心が闇に染まっていった」

「だから一時、リンチギハムではなくて、私だけを選ぼうとしていたんですね……」

「うん。だけど同時に、これは僕の心の片隅にある本心だった。きっと魔王はそれを増幅させていたに違いない」


 でも──とナイジェルは続ける。


「なにも捨てる必要なんてない。だって、どちらも手にすればいいじゃないか。この力があれば、それが実現出来る──と思ったんだ。とはいえ、本当に魔王の力を使いこなせられるのかは一種の賭けだったんだけどね」

「しかし私達はその賭けに勝ちました」

「そうだね。これが最高のハッピーエンドだよ」


《白の蛇》は私達の周りを、ゆっくりと泳ぎ始める。

 それはまるで、私達を祝福しているかのようでした。


「ヨル──」

『……ここまできて、ブラフを吐いても意味がない。そうだ。《白の蛇》は作り替わった』


 ヨルは全てを諦めたのか、妙にすっきりしたような口調でこう続ける。


『人間にも、お前みたいなヤツらがいるとはな。全てを飲み込んだ上で──世界は美しいとキレイごとをほざく。それだけならただの愚か者だが、お前はそれを体現してみせた。魔王の力なんてものを引っ張ってこられた。そんなことをされれば、こっちはお手上げだ』

「どうだい? 君も少しは人間を見直したかな?」

『……どうだろうな』


 ナイジェルの言葉に、ヨルはさらにこう返す。


『しかし……もっと早い段階で、お前達と出会っていれば、なにかが変わっていたのかもしれない。僕はもう消える──なにもかも遅いんだ』


 こんなことになる前に、私達がヨルに出会っていれば──。


 そんなことを思ってしまうが、人生というのは一度きり。そんなIFルートは有り得ないけれど──ちょっぴり惜しくなりました。


「ああ、見てください──ナイジェル。みなさんの大切なものが……」


 ナイジェルとヨルが言葉を交わしている最中、私はそう声を発します。

 近くを浮遊していた、リンチギハムの人々のバッグや財布。時計台。

 それらが光の粒子となって、天に昇っていきました。 


「きっと……元ある場所に戻ったんだよ。ヨルの言った通り、本当に《白の蛇》は作り替わったんだ」

「よかった……」


 セシリーちゃんもまだ目を開けないけれど──私は彼女の手をしっかり握っている。

 一度零れ落ちたかと思っていたものは、なにもなくなっていなかったのです。


「でも……ここからどうやって、戻りましょうか? 女神の力がなければ、私達人間はこの空間から出られなかったのでは……」

『安心しろ。《白の蛇》が黒に染まったことにより、この空間のルールも変わった。直にお前の力も元に戻るだろう』


 唯一の懸念は、ヨルが払拭してくれた。


「やけに優しいんですね? 心を入れ替えましたか?」

『くくく、僕が心を入れ替えただと?』


 ヨルが笑いを零す。


『言っただろ。なにもかもが遅いんだ。《白の蛇》の脅威は確かに去った。しかしお前等には、もっと相手をしないといけない邪悪があるじゃないか』

「それはどういう──」

『まあ、これはこれでいいだろう。どちらにせよ、世界消滅の目的は果たされるのだ。惜しむべきは、その瞬間を僕は見られな──』


 不吉な言葉を最後に、ヨルの気配は完全に消えてしまった。


 私達がもっと相手をしないといけない邪悪……?

 世界消滅の目的は果たされる……?


 一体なにを──。











「がああああああああああああああ!」


 その時。

 ナイジェルが獣のような咆哮を上げ、苦しみ始めた。

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