表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

170/310

161・僕は君だけの──

「魔王の闇の力よ。この手に宿りたまえ」


 それを言葉にした瞬間──目の前と頭が真っ暗になる。

 視界が完全に遮断された中、こんな声が聞こえてきた。



〈ほお、ようやく妾の力を頼る気になったか?〉



 それは聞いているだけで、頭がぐちゃぐちゃになってくる。


 憎い憎い憎い憎い。


 この世の全ての憎しみを一身に受けたような感覚。

 頭は痛さを通り越して、すっきりしている。


 しかし思うように体を動かせない。

 途切れそうになる意識を、僕は必死に繋ぎ止めていた。


「ナイジェル!」


 彼女の姿は見えない。だけど声だけが聞こえる。

 だけどその声を聞いているだけで、彼女に対する愛しさが膨らんでいく。



〈貴様はなにを捨てる?〉



 魔王の声が、僕に語りかけてくる。


「僕は……」

〈今の状況、分かっているだろう? 聖女を見捨てれば、世界は救われる。しかし逆に──世界を見捨てれば、聖女は救われる。つまり聖女と世界を天秤にかけられているのだ。貴様はどちらを選ぶ?〉


 それはここに来る前、女神に──そして魔王に尋ねられた質問だ。

 いや、さらにずっと前──ドグラスはこういう状況がいつか訪れると思って、僕に問うた。



 王子として──僕の取るべき選択肢は分かっている。

 エリアーヌを見捨てることだ。

 王族というのは時に、自分の大切なものや人を捨ててでも、民を救わなければならない。


 そして──自分自身の命ですらも、犠牲にしなければならない時がくる。

 今がまさしくその時だ。

 僕はみんなの理想の王子様として、エリアーヌ一人だけを犠牲にしなければならない。

 しかし──。



「僕が選ぶのは──エリアーヌ……だ」



 僕の取った選択肢は──王子としてふさわしくないものだった。



「ナイジェル、お気を確かに持ってください!」


 僕は今まで、ワガママを言ったことがない。

 ならばこれは、僕にとっての初めての反抗期なのだろう。


〈くくく、面白い答えだ。考えが変わったか?〉


 魔王が愉快そうに笑う。

 闇の力を強く渇望したためか──正常な判断を下すことが出来ない。

 自分でも感じたことのないほどの、憎悪や嫌悪感が湧いてきた。


「やめてください、ナイジェル! あなたは王子でしょう? ここで私を選ぶということは、有り得ません!」


 そう言われて、ちょっとむっとしてしまった。


 違う。

 僕がしたいのはそうじゃない。


「僕は──」


 頭の中のもやもやを振り払うかのように、僕はこう叫ぶ。



「君だけの理想の王子様になりたいんだあああああああ!」

 


 みんなの理想の王子様になんて、なれなくてもいい。


 ただ僕は──たった一人、愛する人だけの王子様になりたい。


 だって男というのは、そういうものだからだ。

 惚れた女の理想の王子様になろうとする──。



「ナイ──ジェ──っ」



 ああ──エリアーヌの声がどんどん遠くなっていく。

 闇に染まっていく僕では、もう彼女の手は握れないのかもしれない。


 しかし──。



「違う」



 一言、そう呟く。


 果たして、国を見捨ててエリアーヌの手を取ることが、彼女だけの理想の王子様になるという意味なのだろうか?


 ──違うだろ、ナイジェル?


 お前はそんな、器の小さい男だったのか?

 こんなことをして、エリアーヌは喜んでくれると思っているのか?


 ──全て否だ。



〈貴様はなにを捨てる?〉



 あの時──そして今、魔王が僕に問いかけてきた言葉。

 僕はそれに対して、何度だってこう答えてやる。



「なにも捨てない。欲張りだと思われてもいい。全部全部──僕はこの手から大切なものを、一滴たりとも零すつもりはない!」



 それが彼女の理想の王子様だと思うから──。


 頭の中のもやを斬り裂くかのように、剣を払う。

 すると、今まで真っ暗だった世界が急に白く輝き出す。

 そして目の前には、僕が愛した女性がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

シリーズ累計145万部御礼
Palcy(web連載)→https://palcy.jp/comics/1103
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000355043

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新7巻が発売中!
hev6jo2ce3m4aq8zfepv45hzc22d_b10_1d1_200_pfej.jpg

☆新作はじめました☆
「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ