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158・神界突入

 エリアーヌとセシリーのぬいぐるみを手にすると、その二つが急に輝きを放った。

 そして部屋中が真っ白になったかと思うと──次の瞬間には、僕は長い通路の上に立っていたのだ。

 城の中ではない。こんな場所はなかったはずだからだ。


「ということは……ここが《白の蛇》のいる場所?」


 問いかけるが、女神からの交信はない。

 壁が透明になっていて、外側は水になっているようだ。どこか不思議な場所。


《白の蛇》とエリアーヌ、そしてセシリーの姿は未だ見えない。

 しかしこの通路の先に二人がいる──何故だか、僕はそう確信していた。


「考えている場合じゃないね。早く二人を助けにいかないと」

「待て」


 ──走り出そうとすると、声が聞こえる。


 すると人型の光が現れ、やがてそれは一人の男となった。


「君は……」

「あのぬいぐるみを使って、ここまで来たのか? 全く……女神は余計なことをしてくれる」


 それを聞いて、僕の中で一つの考えが思い浮かぶ。


「君が……もしや、あのぬいぐるみを作った人形師? 名前はヨルだったね」

「…………」


 彼はなにも答えなかったが、その沈黙こそが肯定を意味しているかのように、今の僕には感じた。


「二人をどこにやった。二人を返せ」


 声を厳しいものとし問うが、ヨルからの答えは相変わらずない。


 彼は顔から感情をなくしたままで、黙って僕を見ているだけだった。

 人によっては不気味に見えるだろう。


 しかしどうしてだろう──ひどく悲しい目をしていると感想を抱いた。


「どうしてここに来た。たとえ来たとしても、あの二人を助ける術がないと分かっているだろう?」

「そうだと思わないよ。やってみなくちゃ、分からないんじゃないかな」

「無謀な自信は己を滅ぼすぞ。そして──世界もな」


 そう言って、ヨルは右手を前に差し出す。するといつの間にか、ヨルの手には光の剣が握られていた。


「ここは通さん」


 ヨルがそう言って、地面を蹴る。あっと思った次の瞬間には、ヨルの顔がすぐ目の前にあった。

 僕は咄嗟に神剣を抜く。そしてヨルの剣を受け止めた。


「お前のことは知っている。聖女のお荷物だろう? この空間では彼女に頼ることは出来ない。果たして、そんなお前が僕に勝てるのかな?」

「負けないよ。いや──負けられないんだ!」


 攻撃の手を緩めず、僕は剣を振るい続ける。

 まるでダンスを踊るかのごとく、僕達は剣で語り合っていた。



 ──強い。



 心の中で感嘆する。


 ヨルの動きは速く、それを目で追いかけるだけでも至難の業。

 さらに動きが変速的だ。こんな流派、どこにも存在しないだろう。ありとあらゆる流派を網羅した僕だからこそ、それが分かる。


 だが。


「ほほお? なかなかやるではないか。正直、一瞬で勝負がつくと思っていたぞ」


 ヨルがしゃがみ、僕の両足を狩ろうと一刀を放つ。

 しかし僕は横っ飛びし、それを回避。地面に着地した瞬間、力任せに剣を横薙ぎに払った。


「似たような男と戦ってきたからね!」


 ──マリアやドグラスと模擬戦をした時のことを思い出せ。


 あの二人に比べれば、こいつの動きなど出鱈目に剣を振り回しているだけの子ども同然だ!


 しかし。


「やむを得ん。お前と遊んでいる暇はない」


 ヨルはそう言って、僕と一旦距離を取る。


 次の瞬間──彼を中心として光が爆発する。


 そして視界が開けた時には──ヨルの姿は様変わりしていた。



「あまりこの醜い姿にはなりたくなかったんだがな」



 今まで以上にヨルの声からは感情が欠如していた。

 上半身の服は弾け、ヨルはその背中から黒い翼を生やしていた。


「き、君は……っ」

「僕は《白の蛇》に長年仕えてきた天使──いや、堕天使だ」


 端的にヨルが説明する。

 それを聞いても、僕には驚いている暇すらなかった。


「お前達、人間とはそもそも体の造りが違う。どう足掻いても、お前は僕に勝てないんだ。さあ、そろそろ終幕といこう」


 彼の指先から夜の闇よりも深い色をした弾丸が発射される。

 この世の憎しみを凝縮したような──そんな弾丸だ。


 それがぐんぐんと向かってくる光景を──僕はただ黙って眺めることしか出来ない。


 分かる。これが直撃すれば即死。

 しかし……今からじゃ、もう避けられない!? 


 僕の額に弾丸がめり込もうとした瞬間、



「なにやってんのよ」



 そんな女性の声と同時、その弾丸が弾ける。

 後ろを振り返ると、そこには少し勝気で、どこか呆れているような表情をした一人の女性が立っていた。


「君は……」

「なにぼーっと突っ立ってんのよ。あんた、分かってんの? あんたがやられれば、エリアーヌもやられんのよ? 分かってんなら、もっとしゃきっとしなさい」


 ──レティシアだった。

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