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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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140・サーカス

 サーカス会場に到着。

 私達は二人分のチケットを渡してから、指定の席まで移動する。


「うわあー、高いの!」

「セシリーちゃん、危ないからあまり身を乗り出してはダメですよ」


 でもセシリーちゃんがはしゃぐのも、ちょっと分かります。


 私達の席は、このサーカス会場でも最上段のところ。 

 ここからでしたらステージの様子が一望出来る。

 席もふかふかですし、これだったらお尻が痛くなることはなさそう。


「始まりますよ……!」

「始まるの!」


 やがて周りの照明が落とされ、私達はステージに注目した──。



 まず行われたのは、綱渡り。



「あんなに高いところから落ちたら、死んじゃうの! 止めないといけないの!」


 セシリーちゃんがステージを見て、そう慌てる。


「ふふふ、大丈夫ですよ。あの人達は特殊な訓練をしていますから」

「ほんとなの?」


 と彼女は心配そうに、首をかしげる。

 もし落ちたら、間違いなく大怪我──最悪死んでしまうことも有り得るでしょう。


 しかしそんな悲劇は起こりません。

 だってこれがサーカスというものですから。


 ……ですよね?


「ちょ、ちょっと不安ですので、いつでも結界魔法を張れるようにしておきましょうか」

「それがいいの!」


 セシリーちゃんの表情が少し和らいだ。


 だけど私達の心配は杞憂に終わりました。

 サーカスの人は綱渡りを見事成功。

 会場は拍手喝采。綱渡りを成功させた人も、手を挙げて拍手に応えていた。


「すごいの! セシリーもやってみたいの!」

「それはダメです! セシリーちゃんは特殊な訓練を受けていませんから」

「じゃあセシリーもくんれんやるー」

「帰ったら、お付き合いしますね」


 ……まあ、落ちても絶対に怪我をしない高さからだったら、やってもいいかもしれません。

 念のために結界魔法で安全ネットを張りますけれど!

 過保護なような気もしますが、それくらいはやらないと私の心臓が持ちません。



 そして時は進み──次はライオンによる火の輪潜り。



 これも一歩間違えれば大事故だけど、ライオンはひょいっとジャンプして火の輪を潜ってみせた。


「おお〜!」


 セシリーちゃんが感嘆の声を上げる。


「お姉ちゃん、すごいね! セシリー、あれもやってみたいの!」

「あ、あれは危険だからやめておきましょう。セシリーちゃん、火傷しちゃいますよ」

「のの……」


 しょんぼりとセシリーちゃんが肩を落とし、指を咥える。

 むむ、この調子だとまだ諦めきれていないようです。

 だけど私はセシリーちゃんの保護者として、彼女が危ない目に遭わないようにしっかり見張って──。



「うわああああ!」



 と思っていると、突如ステージから悲鳴が聞こえた。


 そちらに視線を移すと、火の輪を潜ったライオンが興奮し、補助をしていた人に襲いかかったのです!


「いけません!」


 私は立ち上がり、すぐにライオンとその人の間に結界を張る。

 ライオンは結界にぶつかり、きょとん顔。だけどまだ興奮がおさまらないのか、雄叫びを上げた。


 それにより、今まで楽しくサーカスを観覧していた方々は悲鳴を上げる。会場から逃げようとする人も現れました。

 さらにこの突然の出来事に、サーカスのスタッフも対応出来ていないよう。

 なんとか宥めようとしていますが、ライオンはますます興奮していくばかり。


「仕方がありません……セシリーちゃん! 少しここにいてください!」

「分かったの!」


 セシリーちゃんが頷く。

 彼女はたまに無茶なことを言うけれど、いざという時にはちゃんと言うことを聞いてくれる女の子なのです。


 私は人混みを掻き分けて、ステージ上に駆けていった。


「お、お嬢ちゃん! 危ない! 近付くな!」


 ステージに上ろうとすると、サーカスのスタッフが私を止めようとしてくるが、お構いなしにライオンに近付く。


「もう大丈夫ですよ。いっぱい人がいて、怖くなったんですよね?」


 ライオンに優しく話しかける。

 するとライオンは今まであれだけ興奮していたのが嘘のように、その動きを止めた。


 私はそのままさらに歩み寄り、ライオンの頭を撫でる。


「よしよ〜し。リラックス、リラックス。可愛いですね。私がいるから、怖いことなんて起こりませんよ〜」


 もふもふ。


 ラルフちゃんには劣りますが、この子も結構なもふもふ具合!


 顎の下を撫でてあげると、ライオンも気持ちよさそうに私に身を寄せた。

 私もこの機会を逃してたまるものですか! と言わんばかりに、ライオンの体に顔を埋める。

 幸せな時間が流れました。



「な、なんだ? あれだけ興奮していたライオンがおとなしく……?」

「もしかしてあれって、聖女様じゃないのか? 聖女様は猛獣ですら手懐けるのか」



 あらら。

 会場のお客さんも、私の正体に気付いたみたい。


「そろそろ頃合いですね。すみません、いきなり乱入して」

「い、いや! 助かった! おかげで怪我人を出さずに済んだ!」

「いえいえ──では、サーカスの続き。楽しみにしています」


 そう言って、私は颯爽とステージから降りる。

 そして周囲の視線を受けながら、元の席に戻った。


「お姉ちゃん! カッコよかったの!」


 とセシリーちゃんが目を輝かせて、褒めてくれた。


「ありがとうございます。でもあのライオンさん、とても可愛かったですよ」

「ラルフとどっちが可愛い?」

「うーん、甲乙付け難いですね」


 まあ──私としてはラルフちゃん推しですけれど!



 その後、サーカスは滞りなく進行し、無事に大フィナーレを迎えました。



「サーカス、楽しかったね! また来たいの!」

「はい! 最高でした!」


 途中ちょっとしたトラブルはあった。

 でも私もいつしか、拳を握りしめてサーカスに熱中してしまいました。



 ──もしナイジェルと来たら、彼はどんな感想を口にするでしょうか?



 そんな好奇心が湧いてくるけれど、すぐに首を横に振る。


 いけません。

 今はセシリーちゃんとの楽しいお出かけ。

 ナイジェルのことを考えるのは、彼女に失礼でしょうから。

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