138・二人だけのファッションショー
時が流れるのは早いもので──ナイジェルとのデート前日となりました。
「ふふ、明日はなにを着ていきましょうか?」
夜。
私は自室の洋服タンスの前で、明日に着ていく服を吟味していた。
なんてったって、明日は久しぶりのデート。どうせならお洒落をしたいですから。
とはいえ、服の種類は少ない。
自分のファッションセンスにそこまで自信がないので、どこでなにを買えばいいのか分からないからです。
「うーん、悩みますねえ。どれがいいんでしょう……?」
と一人でぶつぶつ呟きながら選んでみますが、やはり考えが纏まりません。
どれを選んでもしっくりこないのです。
「あっ、これはどうでしょうか? でもちょっと派手すぎますよね。こんなのを着たら、ナイジェルにはしたないと思われてしまいます」
うーん、やはり私一人では決められそうにありません。
こういう時、アドバイスをしてくれる方がいれば──、
「私の出番ですね!」
と思っていたら。
まるではかったようなタイミングで、メイドのアビーさんが部屋に入ってきたのです。
「ど、どうしたんですか、アビーさん? ノックもなしに……」
彼女は私の質問に答えず、大股でこちらに近寄ってきました。
「エリアーヌ様、あなたのお悩みはよーく分かりますよ。明日のデートで着ていく服について、お悩みなんですよね?」
「そ、その通りですが……どうしてそれを?」
「私はエリアーヌ様のことなら、なんでも知っているのです。水臭いですよ。こういう時こそ、私を頼ってください。エリアーヌ様に似合うお洋服を、見繕ってあげます」
トンッと自分の胸を叩くアビーさん。
結婚式でも、私の花嫁衣装や化粧品を彼女に一任していました。
でもそれだけではありません。
ことあるごとに、アビーさんにはナイジェルとの関係について相談していました。
もちろん、明日のデートについても説明済み。
彼女に任せておけば、大丈夫でしょう。
「そうですね……では、お願いしてもいいでしょうか?」
「かしこまりました!」
その時、アビーさんの目が光った気がしました。
「では、この中のどれがいいと思い──」
「いけません! エリアーヌ様は持っている服の種類が少なすぎます! 今持っているものも、デートに着ていく服としては地味すぎます!」
がーん。
私にしては、肌の露出が多いですし……冒険したつもりでしたが、どうやらアビーさんはお気に召さなかったみたい。
「ほんとに……ナイジェル様といい、私を心配させますね……二人揃って、目が離せません」
「え? ナイジェルがどうかされたんですか?」
「なんでもありません」
きっぱりと言い放つアビーさん。
「さあ、行きますよ」
「ど、どこにですか?」
「衣装部屋です! そこにエリアーヌ様用の服がたくさんあります」
「え、えー? どうしてそんなものが!? 私、聞いたことがありませんが……」
「エリアーヌ様にお似合いだと思う服を、私が趣味で集めておいたのです。そこでしたら、きっと良い服が見つかるかと!」
「有り難いですが……もっと良い趣味を持ちましょう、アビーさん」
「私のことはいいんです!」
そう言って、アビーさんが私の腕を引っ張る。
私は彼女に言われるがまま、衣装部屋に向かうのでした。
……そしてちょっと後悔しました。
「まずこの服! ブラウン色を中心に取り入れたコーデとなっています。シルエットもふわっとした感じです。今の季節にもピッタリですし、街の人々の視線を独占出来るでしょう。ナイジェル様にもきっと気に入っていただけます!」
「この服はちょっとえっちなものになっています! なにを恥ずかしがっているんですか! これくらい着ないと、ナイジェル様を悩殺出来ませんよ? ……え? 悩殺はしたくない? エリアーヌ様は恋愛に関して奥手すぎます!」
「メイド服もお似合いですね。その猫耳バンドもキュートです。ああ……こんな同僚がいたら、私は毎日、可愛がっていることでしょう。まあ私にはエリアーヌ様がいますので、問題ないですけどね! 眼福眼福……」
……次から次へと服を着させられ、私は目を回していた。
「ア、アビーさん……最後の方は、ちょっと面白がっていませんか?」
「…………」
あっ、さっと目を逸らしました。図星のようです。
「それに……メイド服を着て、街中なんて歩けませんよ」
「私はいつもこれで出歩いていますが?」
「アビーさんは別です! これでナイジェルの隣を歩いていたら、あらぬ誤解を受けてしまいます」
王子様がメイドと不倫しているぞ!
……とスキャンダルになるかもしれません。
「……最初に着た服がよかったかもしれません。比較的落ち着いた雰囲気ですし」
「んー、まあ悪くないとは思いますが……ちょっと刺激が足りません。私としては、たまには冒険して欲しいものです。これはどうですか?」
「それは露出が多すぎます!」
胸元がぱっくり開いていて、中身が零れ落ちてしまいそう。
それにスカートも短すぎます。これでは、お尻が見えてしまわないでしょうか?
こんなのを着て街中を歩いていたら、恥ずかしすぎて前なんか向けません。
「仕方がありません……では、そのおとなしめの服にしましょうか。まあ清楚なエリアーヌ様にピッタリとも言えますし」
「ありがとうございます。私のためにわざわざ選んでいただいて」
……色々と文句は言ったかもしれないけれど、私はアビーさんへの感謝の気持ちでいっぱいだった。
それにこうして言えるのも、私とアビーさんの仲があってのこと。
やっぱり、アビーさんはお城のメイドだけれど──同時に私の大切なお友達です。
「明日着ていく服は決まりました──しかし」
再びアビーさんの目が光る。
「まだまだエリアーヌ様用の服コレクションは残っています! 時間が許す限り、他の服も試しちゃいましょう!」
「え、えーっ!?」
咄嗟に逃げようとするけれど、アビーさんに腕をがしっと掴まれる。
ううー、まだまだ続きそうです。
でも──アビーさんとこうして、ああでもないこうでもないと言い合うのは心から楽しかった。
それから私達は夜が更けるまで、二人だけのファッションショーを開催していたのでした。





