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132・惚気話はお互い様

「……ということがあったんです。レティシアはどう思いますか?」


 説明をし終えて。

 私はレティシアに感想を求めました。


 だけど彼女は深く溜め息を吐いて、


「……はあ。やっぱラブラブなんじゃないの。まさかここまで破壊力のある惚気話を聞かされるとは思ってなかったわ……」


 と呆れたように言った。


「の、惚気話だなんてそんな──」

「はいはい、分かった分かった。惚気話じゃないのね」


 レティシアは投げ槍にそう言った。


 うーん、やはり勘違いされています……惚気話では決してない──ですよね?


「それでそのぬいぐるみは結局どうしたわけ?」

「取りあえず、私のぬいぐるみはセシリーちゃんに渡しました。彼女が欲しがっていましたので」


 ナイジェルが私のぬいぐるみを持っていたら恥ずかしいけれど──セシリーちゃんだったら、ギリギリセーフなのです。


「そしてセシリーちゃんのぬいぐるみは、私の部屋に飾っています。朝起きると、セシリーちゃんのぬいぐるみが目の前にあって、元気が出るんですよ?」

「なんだかんだで、あんたも楽しんじゃってるじゃない」


 レティシアはそう口にするけれど──セシリーちゃんのぬいぐるみ、これまたクオリティーが高い。

 元々ちっちゃいセシリーちゃんが、ぬいぐるみになってさらに小さくなっている。

 そのくせ、頭のところが胴体に比べて大きい。そのアンバランスさがこれまた愛おしかった。


「だって……頭のところを軽く押したら、こてんって倒れるんですよ!? すっごく可愛くないですか!?」

「はいはい」


 相変わらず、レティシアの返事は適当。


「……そういうあなたは、もし自分のぬいぐるみがあったらどうするんですか?」

「わたし?」

「ええ。あなたのぬいぐるみなんてあったら、クロードがすごく欲しがりそうですけどねえ。どうします? クロードがあなたのぬいぐるみを大切そうに持っていたら──」

「しばき倒すわ」


 即答でした。


「そんなことされたら、恥ずかしいったらありゃしない! 土下座しても許さないんだからっ!」

「あなたも私と同じようなものじゃないですか」


 そう言って、私達はお互いの顔を見合って──笑った。


 まさかレティシアと、こうして笑い合える日が来るとは思っていませんでした。

 なんだか感慨深いです。


「あんたの惚気話はこれくらいにしておいて」

「惚気話じゃありません」

「そういや、リンチギハムでは王位継承が本格的に始まるのよね? ナイジェル、どうなのよ?」


 私の言葉を無視して、レティシアがそう話題を変えた。



 王位継承──。

 国王陛下も結構なお歳。まだ元気なうちに、第一王子であるナイジェルに王位を譲ってしまいたいらしい。

 そのことについて、現状誰からも反発は出ていませんが、王位継承までに色々とやることも多い。

 そのため、最近のナイジェルは大忙しなのです。



「──だから、私も彼と二人きりになれる時間がなかなか取れず……」

「ははーん、やきもきしているわけね。ナイジェル殿下とデートでもしたいわけだ」

「いえいえ、今は大事な時期ですからね。ナイジェルにとって、私が負担になってしまってはいけないでしょう」

「ふーん。相変わらず、あんたんとこは真面目ね。クロードだったら、そんなの気にせずわたしをデートに誘いそうだけど……」


 そう言って、レティシアは溜め息を吐く。


「でも、ナイジェルの対抗馬とかいないの? 第一王子だからといって、絶対にその人が王位を継ぐわけじゃないと思うけど……えーっと、王子はナイジェルだけじゃないのよね?」


 確かに、他の国では王位を巡って争いが起こることも多いそうです。

 だからレティシアの疑問はごもっとも。


 しかし。


「『ナイジェルがいるから』って、他の王子は彼と争う気がないそうです。なのでスムーズに王位は継承されるでしょう」

「まあ、ナイジェルとやり合おうって人は、なかなかいないでしょうね。生半可な連中じゃ、彼の足元にも及ばないだろうし」


 とレティシアは肩をすくめる。


「私も他の王子とは、あまり関わり合いが少ないんですけどね。色々な理由で城を離れている人が多いですから。あっ、でも──」


 私はポンと手を打ち、こう続ける。


「第二王子が、近々王都に帰ってくるらしいです。名前は確か……ゲルトさんといいましたか。私が帰る頃には、もうお城に着いているでしょう」

「そうなんだ。その人とも、あんまり喋ったことはないってわけ?」

「ええ」


 私はそう頷く。


「一言二言、会話したくらいです。だけどナイジェルに負けず劣らず、優秀な方だと聞いています」

「まあ、ナイジェルみたいなお兄ちゃんの背中を見て育つんだもんね。優秀って聞いて、納得だわ」

「そうですね。ですが、ちょっと個性的な方で……」

「個性的?」


 レティシアが首をひねって、言葉を続けようとした時でした。



「レティシアーーーー! 助けてくれー!」



 城の中から、そんな悲鳴にも似た声が聞こえてきました。


「あれは……」

「クロードだわ」


 そう言って、レティシアは席を立つ。


「ごめん、エリアーヌ。クロードがわたしの助けを呼んでいるみたい」

「だ、大丈夫ですか!? 助けが必要なら、私も一緒に──」

「そうね……まあ助けは必要なんでしょう。きっとパンでも焦がして、あたふたしているだろうから……」


 とレティシアが疲れたように、肩をどっと落とす。


「パンを焦がす……? どうしてそんなことになっているんですか?」

「最近、クロードったら料理の修行中なの。なんでも、わたしに美味しいパンを食べさせたいそうよ」


 なるほどです。


 だけど……クロードは世間知らずのおぼっちゃま。

 簡単な料理を完成させることも、一苦労でしょう。


「……でしたら、私はお邪魔ですね。レティシアも彼と二人っきりの方がいいと思いますし」

「そ、そんなこと思ってないわよ!」


 頬を朱色に染めて、否定するレティシア。


 私のことを散々言ってたくせに、レティシアもクロードとラブラブです。本人にはそのつもりはなさそうですが。


「ほんとっ……自分一人で一通り家事が出来るようになりたいって、なんで急に言い出したのかしらね……洗濯魔導具もまともに使えないのに」

「あなたに負担をかけたくないのでしょう。もっとも、クロードと結婚すればあなたも王太子妃。家事なんてする必要はないかもしれませんが……」

「はあ? する必要がない? そんなの嫌よ。なんのために花嫁学校に通ったと思ってんのよ。今では洗濯・料理、なんでもござれよ?」


 とレティシアが得意げに言った。


「とにかく、悪いけど今日のお茶会は終わり!」

「ええ。私もリンチギハムに帰ろうと思います。今日も楽しかったです」

「わたしも楽しかったわ、またね」


 手を振って去っていくレティシアに、私も頭を軽く下げて応えた。

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