131・ナンパされるのはちょっと困ります
「セ、セシリーちゃん!?」
そう、フランツさんの手に握られていたのは──私のぬいぐるみと同じような形の、セシリーちゃんぬいぐるみだったのです!
私はフランツさんから、セシリーちゃんぬいぐるみを受け取る。
「どうです? それはまだ試作品なんですが──それもエリアーヌ様に差し上げます。よく出来ているでしょう?」
「確かに……」
ついマジマジとぬいぐるみを眺めてしまう。
セシリーちゃんはナイジェルの妹。この国の第一王女でもあります。
彼女はとってもキュートな見た目をした女の子。セシリーちゃんが頭に付けている赤いリボンも再現されていて、思わず見惚れてしまいます。
まるでセシリーちゃんがそのままぬいぐるみになったよう──そう思ってしまうほどでした。
「こ、これは頂いておきましょうか。だってセシリーちゃんぬいぐるみは試作品なんでしょう? 部屋に飾ってみて、感想をお伝えしますね」
「ありがとうございます! レポート、お待ちしていま〜す!」
しめしめといった感じで、そう声を発するフランツさん。
「ということは、エリアーヌぬいぐるみも貰っておいて、問題はなさそうだね。これは僕が──」
「いけません」
私の姿をしたぬいぐるみを持とうとしたナイジェルの手を、私がすかさず掴む。
それとこれとは話が別なんです!
「ははは! エリアーヌ様は本当に可愛らしい。そんなに美人なんだから、恥ずかしがらなくてもいいのに〜」
そんなやり取りを見て、フランツさんは愉快そうに笑っていた。
「なんなら、ぼくっちが付き合いたいくらいだよ。あっ、エリアーヌ様。よかったら今度、ぼくっちと遊びにいきません? いいお店、知ってるんですよ」
「ありがとうございます。ですが──すみません。私はナイジェルと結婚している身。あなたの誘いには乗ることが出来ません」
即答する。
しかしフランツさんは、諦めきれなかったようで、
「いやいや〜、遊びに行くくらい、いいじゃないですか? いくら結婚しているからといって、息抜きは必要でしょ? 周囲の目が気になるなら、人払いしますよ。それが出来るくらい、ぼくっちには金も権力もある。決してエリアーヌ様に迷惑はかけません」
と食い下がってきました。
うーん、困りました……。
これが道端のナンパなら適当にあしらうのですが、なにせ相手はナイジェルのご友人。
あまり無碍に扱うわけにもいきませんから。
そう思っていると──。
「フランツ」
ナイジェルが私を守るように、フランツさんの前に立ちはだかる。
「君は相変わらず軟派すぎるよ。女性なら誰彼構わず声をかける癖、治した方がいいよ」
「……っ!」
一瞬、フランツさんは顔を歪ませる。
しかしすぐに表情を元に戻して、こう反論する。
「は、はっ! こんなの、ただの挨拶みたいなものじゃないか。嫉妬深い男は嫌われるよ? だから……」
「君にとっては、そうかもしれない。だけど、エリアーヌが困っているじゃないか。もう一度言う。そういうのはやめた方がいい」
「……ちっ」
とフランツさんは小さく舌打ちをして、またも軽薄な口調でこう言った。
「さ、さっすが王位継承が間近ってなったら、君も言うようになったね〜。君こそ、そういう真面目なとこ、治した方がいいと思うよ。女の子にモテないからね〜」
「忠告、ありがとう」
自分のことをバカにされているというのに、ナイジェルはそれをさらりと受け流した。
そうです──。
私のこととなると時には強情になるのに、それが自分のことになると途端になにも言わなくなる。
それがナイジェルという男です。
「偉くなったもんだね。今度会う時は王様かな? じゃあ用は済んだから、ぼくっちはそろそろ帰るよ。またね〜」
最後にそう言い残して、フランツさんは逃げるように部屋から去っていった。
先ほどまで賑やかだった部屋が、一気に静かになる。
「……ごめんね。エリアーヌ。フランツ、悪いヤツじゃないんだけど学生時代からなんというか……女癖が悪くって」
「おモテになりそうですもんね」
そして……女癖が悪いというのも納得です。
「それに問題ありません。自分で言っていた通り、あの人にとっては挨拶みたいなものだったんでしょうから」
と私は気丈に振る舞う。
でも──ナイジェルが昔の友人相手だというのに、あんな風にちゃんと言ってくれたのがちょっと嬉しかった。
それに。
「あの方はあなたのことを『女にモテない』と言っていましたが、決してそうではないと思いますよ。もしそんな風に見えているなら──あなたは高嶺の花すぎて、女性からしたら近寄りにくいだけだったのかもしれません」
「そうなのかな?」
「はい。もっとも──」
私はさらにこう続ける。
「私からしたら、ナイジェル以上の男性はいませんけれどね。その……私はあなたのことが大好きですから」
「ありがとう! 僕もエリアーヌさえいれば、それでいい!」
とナイジェルが私を抱擁する。
う〜……私ったら、なんて恥ずかしいことを!?
でもナンパされたこと以上に、ナイジェルが「女にモテない」と言われて、腹が立ったのです。
「で、ではそろそろ公務に戻りましょう。私も今日は教会に行って祈りを──あっ」
少し名残惜しい気分はあったけれど、ナイジェルから体を離す。
そしてその時──テーブルに置かれていたぬいぐるみに目がいった。
私の姿をしたぬいぐるみです。
「いらないと言ったのに……どうやらさっきのごたごたで、持って帰るのを忘れたみたいです」
「そうみたいだね」
ナイジェルがそのぬいぐるみを、大事そうに抱える。
「これはあとで僕からフランツに返しておくよ。責任を持って預かっておく」
「本当ですか? まさか自分の部屋に飾って──」
「そ、そんなことしないよ」
さっと視線を逸らすナイジェルでした。
松もくば先生によるコミカライズ3巻が、本日発売となりました。
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