親子のように①
コミカライズ版発売の記念短編になります。
時間軸としては、漫画をお読みになっている方は少しネタバレが入るかもしれません。
web版40話まで、書籍版だと1巻をお読みになっている方なら、一番楽しめると思います。
ある日。
「にいに! エリアーヌお姉ちゃん! セシリーと一緒にこれを見にいくの!」
セシリーちゃんが私たちのところに来て、そう言った。
彼女の右手にはなにやら、一枚のビラが握られています。
「これは……?」
「呪術戦隊『プリズム』の演劇ショーなの! プリズムのファンとして、これは見逃せない!」
呪術戦隊……なんか、色々と心配になってくる名前ですね。
セシリーちゃんからビラを受け取ると、五人組の女の子がポーズを取っている絵が描かれていた。
しかも彼女たち五人は、不思議な被り物を身につけていて、顔が見えなくなっている。なんだか不思議な構図です。
「セシリーちゃん、こういうのが好きなんですか?」
「うん!」
目をキラキラ輝かせるセシリーちゃん。
うっ……可愛い。こういう表情を見ていたら、なんでも言うことを聞いてあげたくなります。
「しかも今日の昼頃か……随分、急だね」
隣からナイジェルもビラを覗き込むように顔を出して、「うーん」と唸っている。
「行こー! もし断られたら、セシリー一人で行くの!」
「それは絶対にめっ! です!」
セシリーちゃんみたいな可愛い女の子が一人でお出かけなんて……なにか犯罪に巻き込まれないとも限りません。
しかも……たまに忘れそうになるけれど、彼女はこの国の第一王女ですし、普通の人より誘拐される危険性がてんこ盛りです。
「しょうがないですね。私もこの呪術戦隊というのが気になりますし、一緒に行きましょうか」
私がそう言うと、さらにセシリーちゃんは表情を明るくした。
呪い……呪術士。
その言葉に悪い思い出がある私としては、ちょっと複雑な気分になるけれど、怖いもの見たさといいますか……興味が出てきました。
「ナイジェルは……さすがに無理ですよね? 仕事もあるでしょうし」
「そうだねえ……」
ナイジェルは考え込んでいるよう。
となると、私とセシリーちゃん二人だけでお出かけでしょうか?
そう思っていたら、
「めっ! にいにも一緒に行く! じゃないと、意味がないから!」
とセシリーちゃんがナイジェルの服の裾を引っ張った。
「意味がない? どういうことだい?」
「しのごの言わずに、行くのー!」
ぷくーっとセシリーちゃんが頬を膨らませる。
どこでそんな言葉、覚えたんでしょうか。
「まあ……たまには息抜きもいいか。幸いにも、今は公務も落ち着いているからね。それくらいなら大丈夫だ」
「やったー!」
セシリーちゃんが両手を上げて喜ぶ。
私もナイジェルが一緒に来てくれるとなると、やっぱり嬉しい。
私たちはルンルン気分で、演劇ショーが行われる街の中央広場に向かうのでした。
◆ ◆
『ぬっ! また出たな、呪術戦隊プリズム! 鬱陶しいヤツらだ!』
『この世に悪がある限り! 私たち、プリズムはどこにだって現れるわ!』
『だってそれが……プリズムの使命なのだから!』
演劇ショーの盛り上がりも最高潮。
特設ステージで五人組の女の子(やっぱり顔には被り物が)、そしていかにも悪そうな覆面を付けた男が彼女たちを睨んでいた。
そして戦闘開始。
ステージ上を動き回り、プリズムたちが悪者とアクションシーンを繰り広げていたけれど……!
『ああ! そんな! このパワーは!』
『どこからこんなパワーが出てるっていうの!?』
『このままじゃ負けちゃうわ!』
プリズムの一人が地面に倒れる。
敵に苦戦しているようです。
『会場にいるみんな! 私たちに力をちょうだい! そうすれば、呪いのパワーが溜まるわ!』
少し説明口調すぎるような……と思ってしまうけれど、それを指摘するのは野暮です。
というか、呪いのパワーってなんでしょう。不穏すぎる。
プリズムが会場のお客さんに呼びかけると、みんなは口々に彼女たちを応援する。
「「「「がんばえー、プリズムー!」」」」
そして隣にいるセシリーちゃんも拳を握り、
「がんばえー!」
と彼女たちを必死に応援していた。
「にいに! お姉ちゃん! なにしてるの!? にいにたちも応援しないと、プリズムが負けちゃうよ? それでもいいの?」
「そ、そうだね。頑張れー、プリズム!」
「負けないでください! プリズム!」
──こんな卑怯な敵に負けないでください!
いつの間にか、私はプリズムたちに感情移入していました。
そして私たちの声援が届いたのか……。
『くあああああ!』
今度は敵役の人が声を上げ、地面に倒れ伏せる。
『くっ、なかなかやるな、プリズムよ。しかし! 我々はこんなところで滅びぬ! この世に闇がある限り、我々は諦めぬ!』
『待ちなさい!』
プリズムが追いかけようとするが、それよりも早く、敵役の人は舞台外に走り去ってしまった。
『また逃してしまったわ……』
『でも、戦いには勝利出来たわ! みんな、ありがとね! みんなのおかげで勝てたわ!』
こうして呪術戦隊プリズムは最高の盛り上がりのまま、終幕となったのでした。
◆ ◆
「すごく面白かったですね……!」
演劇ショーを終え、会場にいるみんなが散り散りになっていく中。
私はセシリーちゃんに興奮気味に声をかけていた。
「なの! やっぱりプリズムは最高なの! また今度も行くの!」
「ちなみに……次の演劇ショーはいつなのかな?」
恐る恐るといった感じで、ナイジェルはセシリーちゃんに問う。
「一週間後なの!」
「い、一週間!? すぐすぎないかい?」
「にいには、まだまだプリズムを分かっていないの。だってプリズムの敵は世界中にいるんだよ? プリズムたちは、大忙しなんだから!」
「は、はあ……」
ナイジェルが苦笑いしている。
なにはともあれ、セシリーちゃんも大満足のようで良かったです。
それに……。
「一週間後にプリズムたちの活躍をまた見られるんですね! セシリーちゃん、次も一緒に行きましょう!」
「もちろんなの!」
にぱーっとセシリーちゃんが可愛らしい笑みを浮かべる。
「エ、エリアーヌも随分プリズムにハマっちゃったみたいだね?」
「当然です!」
ナイジェルの言ったことに、私は前のめりで答えた。
最初はセシリーちゃんの付き添い。
だけど今日の演劇ショーを見ていくうちに、徐々にプリズムの魅力が私にも伝わってきました。
気付けば、私はセシリーちゃんと同じように、プリズムを本気で応援していたのですから。
「呪術士という宿命を背負いながらも前を向く不屈の精神。そして困っている人がいれば、どこにだって駆けつける。最高のヒーロー、それがプリズムです。そして友情……時々、恋物語……こんなに全てが詰まっている物語は、なかなか他にはないですよ!?」
「そ、そうだね」
つい熱弁してしまうと、ナイジェルは明らかに私の迫力に押されていた。
「ま、まあエリアーヌとセシリーが楽しんでくれたなら、僕も嬉しいよ。特に事件も起こらなかったし……」
確かに。
ナイジェルとセシリーちゃん、この国の王子と王女が揃っているのです。
しかもろくに警備も連れてきませんでしたし、なにか起こってもおかしくありませんでした。
まあなにがあっても、私とナイジェルがいれば、大概のことは切り抜けられると判断したためなんですが。
それに。
「僕の変装もなかなかのものだろう? ほら、誰にも気付かれていないみたいだし」
とナイジェルが得意げな表情をした。
今のナイジェルは眼鏡をかけていて、いつもより服装も地味。
いつものままの姿できたら、騒ぎになってしまいますからね。軽い変装をして、ここまで来たというわけです。
とはいえ……。
「おい、あれ……」
「ああ。やっぱりナイジェル殿下だよな? どうしてこんなところにいるんだ?」
「たまの休日くらい、好きに過ごさせてやろう。それに……どうやら本人は気付かれていないと思っているみたいだし……」
周りから、ひそひそとそんな声が聞こえてくる。
うん。
やっぱり気付かれますよねー。
「どうしたんだい? なにか言いたげだけど……」
「な、なんでもありません!」
でもナイジェルのこんな表情を見ていると、指摘もしにくい。
まあ……このままでいいですか。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。あまり長居するのも……」
「待って!」
帰ろうとするナイジェルを、セシリーちゃんが呼び止める。
「あそこのアイスクリームをセシリー、食べてみたいの! あれを一緒に食べるの!」
「えっ? あ、うん」
セシリーちゃんがナイジェルの腕を強引に引っ張る。
彼女の指差す方には、アイスクリームの屋台がある。
ナイジェルも彼女の天真爛漫さにたじたじです。
「仕方ないね……エリアーヌも食べるかい?」
「はい!」
頷き、私もナイジェルたちの後に続きました。
当作品のコミカライズ二巻が明日(1/28)にとうとう発売となります。
よろしくお願いします!
 





