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ドグラスの恋人作り③

 時刻は夕暮れ。

 辺りが橙色に包まれた中庭は、幻想的とすら感じました。


 だけどそんな中──ドグラスは一人でテーブルの前にぽつーんと座っていました。


「寂しげですね」

「はい」


 私の言ったことに、アビーさんが首を縦に振る。


「……アビーさん。一つ、言ってもいいですか?」

「どうぞ」

「アビーさん、見る目なさすぎません?」

「……っ!」


 アビーさんの胸に矢がぐさっと刺さった──ようなイメージ図が浮かんだ。


「言い訳のしようがありません。まさかこんなことになるとは……」


 最初の一人はともかく──二人目は清楚系ビッチで、三人目は素性すらよく分からない女性……。

 これではドグラスが恋人を作るなんて夢のまた夢です。


 まあ最後の一人は、彼なりに気に入っていたようですが──とても恋人という感じではありませんしね。


『ラルフは面白半分で見にきただけだったが、ドグラスのヤツ……ちょっと可哀想ではあるな』


 ラルフちゃんが前だけを真っ直ぐ見て、そう口にした。



『その恋人作りとやらに付き合ってやる!』



 そう息巻いていたドグラスの顔を思い浮かべると、私も心が痛みます。


「私……ちょっと行ってきます。アビーさんとラルフちゃんは取りあえず、ここにいてください」


 私はその場から飛び出し、ドグラスの方へ歩み寄った。


「ドグラス」

「なんだ?」


 私が名前を呼ぶと、ドグラスはそう返事をした。


 だけど視線を合わせようとしてくれません。

 変なヤツを紹介しやがって……と怒っているんでしょうか?


「その様子だと、やはり私たちのことには気付いていたようですね」

「はっ! 当たり前だ。隠れるならもっと上手く隠れろ。まあ指摘するのも面倒くさいから、そのままにおいたが……」


 ドグラスと言葉を交わしながら、私は一歩ずつ彼に近寄る。


 ドグラスは今日のことを気にしていないのかもしれません。

 どうして急にやる気を出したのかは分かりませんが、本気で恋人を作ろうとしていたとは思えなかったからです。


 だから今日の出来事はドグラスにとって、ただの暇潰し。

 恋人なんて作れなくても、いつもと変わらない顔をしているかもしれません。


 でも相変わらずドグラスは前を向いたまま、私の方を向いてくれない。

 だからどんな表情をしているのかが分かりませんでした。


「ドグラス──本音を聞かせてください。あなたは恋人を本当に作りたいと思っていますか?」


 もし本気なら、今度は私も真剣にドグラスの恋人を探す。


 そういう意味での問いでしたが……。


「……さあな。分からぬ」


 ドグラスの寂しそうな声。


「だが、好きな人というのは自然に出来るものだと思う。今日のような真似を否定するわけではないが──無理やり作ろうとするのは、やはり我の性に合わん」

「では欲しくないと?」

「……それが分からぬ。しかしそれを汝にいくら言っても、分かってくれないだろう。我の気持ちをな」


 ちょっと拗ねた声のドグラス。


「……ドグラス、一ついいですか?」

「なんだ?」

「ナイジェルがいなければ──もしかしたら私はドグラスのことを好きになっていたかもしれません」

「はあ!? 汝、なにを? 本気で言ってるのか!?」


 ここで初めてドグラスが私の顔を見てくれた。


 その表情はちょっと嬉しそうでした。


「え、ええ。それほどドグラスは魅力的な()()です。恋に落ちてもおかしくない──そう思えるほどに」


 ドグラスには欠点がいっぱいある。

 事あるごとに私をおちょくろうとしてくるし、女性に対するデリカシーもない。


 だけど──私はそんなドグラスのことが大好きです。


「だからもっと自信を持ってください。今日のことで、どうか自信を失わないでください。何故なら──私は自信満々なドグラスが大好きなのですから」


「…………」


 口を閉じ、考え込むドグラス。


 しかし。



「ガハハ! 汝も分かっているではないか! そうだ。今日来た女共の見る目がなかっただけだ! 自信をなくす? そんな訳がない。何故なら──汝が魅力的だと我を認めてくれているのだからな!」



 と豪快に笑った。


「その通りです」


 そんなドグラスを見て、私はほっと胸を撫で下ろした。


「向かい側に座っていいですか?」

「無論だ。『まっちんぐ』とやらの続きだな」

「続き? 始まりなのでは?」

「違いない」


 私はドグラスに対面に腰を下ろす。


「紅茶でも飲みましょうか──あっ……でも、もう冷めているみたいですね」


 結構時間が経っていますからね。当然のことでしょうか。


「少し待っていてください。すぐに代えの紅茶を……」

「いい。冷めた紅茶を飲むのも一興だろう。それに──なにを飲むのかはあまり重要じゃない。大事なのは()()飲むかだ」


 立ち上がろうとする私を、ドグラスはそう制した。


「ふふ、そうですね」


 その後、私はドグラスと今日の反省会をしながらお茶会をした。


 とても楽しい時間だったことは言うまでもありません。



 ◆ ◆



 ──どうして我はこんなにむしゃくしゃしている。


 アビーが用意した三人と顔合わせを終えた後、ドグラスはそう思った。


(それもこれも、エリアーヌが変なことを言うからだ。あやつが挑発してくるから……)


 無論、エリアーヌにはナイジェルがいる。

 彼から彼女を奪う気など、毛頭ない。


(しかしだからといって、エリアーヌが我のことをなんとも思っていないのは……それはそれで腹が立つ)


 結果的にこのような茶番に付き合うことになってしまった──とドグラスは思った。


 ドグラスはやりきれない気持ちを内に抱え、しばらくその場から動かなかった。

 

(あの草陰でエリアーヌたちが、こっちを覗いているのは分かっていたからな。今の我の表情を、エリアーヌたちに見せたくない)


 だからエリアーヌが来ても、彼は決して振り向こうとしなかった。


 しかしその考えも崩れる。

 エリアーヌがとんでもないことを言い出したからだ。



『それほどドグラスは魅力的な()()です。恋に落ちてもおかしくない──そう思えるほどに』



 エリアーヌのその一言によって、一瞬で気が晴れた。



 ──ふっ、我も単純だな。



 エリアーヌにそう言ってもらえただけで、心が弾む自分がいることに気が付いた。


(こんな気持ちになるのは初めてだ)


 やれやれと思う。


 エリアーヌが代えの紅茶を取りに行こうとする。だが、ドグラスはそれを止めた。


 何故なら──少しでも長く、彼女と一緒にいたかったからだ。



「ドグラス? 私の顔になにか付いていますか?」



 エリアーヌの顔をじっと見ていると、彼女にそう問いかけられた。


「くくく、なに。よくよく見ると童顔だと思ってな。セクシーさの欠けらもない」

「な、なに失礼なことをおっしゃるんですか! ドグラスなんて嫌いです!」


 ぷいっと視線を逸らすエリアーヌ。


 しかしすぐにドグラスの方を見やって、「ふふふ」と楽しそうに笑った。


 そんな彼女の表情を目にして、ドグラスも楽しそうに笑うのだった。

これにて短編『ドグラスの恋人作り』は終わりです。


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よろしくお願いいたします。

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