13・もふもふしました、ぱーと2
治癒魔法でフェンリルのラルフちゃんの病気を治しました。
「おとなしい子ですね」
私はラルフちゃんの毛並みをそっと撫でる。
ん~、やっぱりフェンリルって最高!
さらさらしていますし、なにより触っていて気持ちいい。
ナイジェルは『人に懐かない』と言っていたが、ラルフちゃんを見る限りそうとは思えないんだけど?
こうやって触っているのに、抵抗する気はなさそうだし。
しばらくラルフちゃんの毛並みを堪能していると、
『くすぐったいのである』
とラルフちゃんの声が聞こえてきた。
「あら、やっぱり喋れるのね」
『……!?』
私が返事をすると、ラルフちゃんは驚いた様子。
『汝……ラルフの声が聞こえるというのか?』
「聞こえますわよ。だって私『治癒士』ですから」
くすくすと笑う。
「エリアーヌ……? 君は誰と喋っているんだい?」
その様子を見て、ナイジェルが声をかけてきた。
……はっ! しまった!
私は魔物や動物の声が分かるんだけど、普通の人には聞こえなかったのですわね。
フェンリルと喋れることが嬉しすぎて失念していた。
「え、えーっと……治癒士は魔物や動物と心を通じ合わせ、その上で治癒する必要があります」
「ふむふむ?」
「だから慣れた治癒士とかは、その過程で魔物や動物と喋れるようになる……ことがあります。だからラルフちゃんと喋ってました」
「なんと!」
ナイジェルの代わりに、真っ先に国王陛下が驚きの声を上げる。
「エリアーヌ殿はそんなことも出来るのか!」
「は、はい」
「では、ラルフはなんと言っておる? それから……病気で苦しい目に遭わせて、申し訳なかったと伝えて欲しい」
「あ……ラルフちゃんの声は私しか分かりませんけど、国王からラルフちゃんへの声は届いていると思いますよ。ねー、ラルフちゃん」
と私は視線をやる。
すると。
『もちろんである。彼の声はしっかりと聞こえているのである。安心するといい』
とラルフちゃんから返事が返ってきた。
私しか聞こえないけどね。
『病気については気にしなくてもいい。忙しい中、彼が必死に看病してくれたのは分かっているしな。彼に感謝する気持ちこそあれ、批難する気など毛頭ない』
「え、えーっと……心配するな。看病してくれてありがとう、と言っていますわ」
ラルフちゃんの声を、国王に伝える。
「お、おお……! それは良かった。いやはや、ラルフにそう言ってもらえると気が楽になる」
国王は嬉しそうだった。
ラルフちゃんと意志が通じ合ったことに、どうやらとても感激しているらしい。
ふう……なんとか誤魔化せましたかしら。
「…………」
ジーッ。
ナイジェルがジト目で私のことをめっちゃ見ていた。
あちゃー……あれは疑っている目だよ。
「あっ……! よかったら私、ラルフちゃんをもふもふさせてもらってもいいですか!? フェンリルと仲良くすることが夢でしたので!」
話を逸らすように、私は国王にお願いする。
とにかく! このことはまた後で反省会をしよう! 今は話題を変えることが先決だ!
「もちろん良いぞ。ラルフが良いというのならな」
『良い。汝はラルフの恩人だ。よかったら、乗ってみてもよいぞ』
「い、良いんですか!?」
思わぬ申し出に、さすがの私も声を大にしてしまう。
「じゃあ失礼しまして……」
私が乗ろうとする仕草を見せると、ラルフちゃんがその場でしゃがんでくれた。
優しいのですわね。私の身長じゃ、こうしないとラルフちゃんに跨ることも出来ませんから。
私は恐る恐るラルフちゃんの背中に乗った。
「わあ!」
ラルフちゃんがゆっくり立ち上がると、そこには見たことない景色が目の前に広がっていた。
いや、さっきと場所は変わってないけどね!
視点が高くなって、新鮮な気分になるのだ。
『ゆくぞ。振り落とされるなよ!』
「お、お手柔らかに」
とはラルフちゃんはそう言ったものの、私に気遣ってか、ゆっくり庭の周りを散歩してくれた。
「さっきの台詞、なんだったの?」
『茶目っ気だ』
ラルフが淡々と言った。
まあまあの高さがあってちょっと怖い。
だけどラルフちゃんの安心感がすごいためか、不思議と恐怖よりも楽しさが遙かに勝っていた。
もしここから落下したとしても、ラルフちゃんだったら助けてくれそうですし……。
「ひ、人に懐かないラルフが初対面の人間を背中に乗せるだと!? エリアーヌはよほどフェンリルに懐かれる素質を持っているようだな。ははは!」
国王が驚きを通り越して、最早笑っていた。
笑うしかないのだろう。
「ナイジェル、そなたもそう思うな?」
「え、ええ……優秀な治癒士だと思っていましたが、まさかここまでとは。ますますエリアーヌの評価を上げなければならないようですね」
国王とナイジェルがなにやら喋っているが、どうやらまだ彼は私への疑念が取れないよう。
ナイジェル。
細かいことを気にする男は、モテないですわよ?
……なーんて、言えるはずないんだけど。
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