127・幸せ
2巻発売中です。
はい、私です!
エリアーヌです!
今日はナイジェルとの結婚式。
私は花嫁姿に身を包み、ナイジェルもいつもと違って白の正装!
テンションが上がること、この上ありません!
……と私にしては、かなりテンションが高めであることは否めません。
でも仕方がありませんよね。
だってこんなに最高の日を迎えたのですから!
——魔王を倒した後。
私はふらぁっと血の気がなくなっていくような感覚を抱き、そのまま倒れてしまいそうになりました。
「エリアーヌ!」
だけどすぐにナイジェルが私を支えてくれたおかげで、地面にすっ転ぶということはありませんでしたけれどね。
「大丈夫か!?」
「え、ええ……ちょっと疲れたみたいです。魔力も使いすぎたみたいですからね。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ?」
「そうか。それならいいんだけど……」
そう言うナイジェルだったが、表情は不安そうなままだった。
そのことを今でも鮮明に覚えている。
遅れて——女神の声も聞こえてきた。
『《道》が出来たことにより、あなたは私の力を百%引き出すことが出来るようになります。
だけど……私の力は人の身によっては強すぎて、これに慣れるのには時間がかかるでしょう。
今回はその片鱗だけでしたが、あなたは私の力に触れました。だからいつもよりはちょっと疲れるかもしれません。
あ——安心してくださいね。命には別状がありませんから』
なんてことを言っていました。
それから私は最後の力を振り絞って、ドグラスと念話をして迎えに来てもらって……ってところで意識が途絶えた──というわけです。
「そこからの一年は、それはそれで大変でしたね……」
この一年が既に懐かしく感じる。
ナイジェル達と後処理を済ませて、リンチギハムに戻ってからは、さあ大変!
私がナイジェルの婚約者だということが、とうとう大々的に発表された。
そしてそこから本格的な王妃修行が始まったのです。
とはいっても、社交界のマナーだったり教養は、幸いにも王国にいた時に身につけていたのであまり苦労はしてしませんでしたけれどね。
しかし私みたいな平民が婚約者になるにあたって、反発した人も少なくありませんでした。
ナイジェルの婚約者の位置を狙っていたご令嬢も多いと思うし、それは仕方のないこと。
さらに……女神の力を引き出すため、特訓!
そのおかげで、私は大昔の始まりの聖女と同じように、世界全域に結界を張ることも出来た。
これでますます世界が平和になりますように——そう願いを込めて。
……という感じでこの一年は順調なことは順調でした。
ですが、忙しいのはナイジェルだって一緒。
なかなか一緒にいられる時間が取られないことが分かり、私は彼とこう約束を交わした。
『落ち着くまでは、会う頻度を少なくしましょう。このままでは私もナイジェルもやることが、中途半端になってしまいます』
……と。
一瞬、ナイジェルは暗い顔をしたけれど、彼も同じように考えていたのか……最終的には私の提案を受け入れてくれた。
まあ別に全く会わなかったわけではありませんけれどね。
月一くらいで、ナイジェルと落ち着いて過ごす時間を作っていましたし……。
だけどたまに彼と食事をご一緒した時は……。
『エリアーヌに毎日会えないなんて、なにかが間違っている! 僕の中のエリアーヌ成分が足りない! もっと君を愛でたいのに! 僕は寂しい……』
と情熱的に言ってくれていた。
そして時には「エリアーヌが僕の前から、いなくなるなんて!」とも言っていたけれど、大袈裟すぎなんですよ、彼。
だけど……寂しかったのは私だって同じ!
この一年を乗り越えれば、また状況が変わってくる……そう自分に言い聞かせることによってなんとか耐えてきたけれど、やっとここまで辿り着くことが出来た。
私にしてはよく我慢した方です。
「エリアーヌ……いつもキレイだけど、今日の君はさらに美しい。君とこのような場を開けることになるなんて、夢のようだ……」
ナイジェルが私の手を取り、うっとりした瞳を向ける。
それを他のみんなが微笑ましそうに眺めていた。
──なんだかこの充電期間に、ナイジェルがさらに情熱的になっていませんか!?
でも彼も相当我慢していたということでしょう……そう私は納得することにした。
「ナ、ナイジェル! 恥ずかしいですよ。みなさんもいますのに……」
「ん? それじゃあなにかい? エリアーヌは嬉しくないのかい?」
「そんなわけ——ありません! 私の方こそ嬉しいです!」
愛する人と結ばれ、周囲の人々も祝福してくれる。
これだけ嬉しいことなんて、もうないかもしれません!
本来ならもっと私も喜びたいんですから!
「ふふ……衣装選びや化粧はわたくし、アビーがやらせていただきました。ナイジェル殿下にも喜んでいただけているようで、メイドとしてこの上ない喜びです」
私の傍らで、ちょっとお疲れの様子のアビーさんが口にした。
彼女……この日のために、私に似合う服だったり化粧品を探して、国中を奔走していたようですからね。
こうなるのも仕方ありません。
その結果——驚くくらい、キレイになったと自分でも思う。自画自賛なのです。
「お姉ちゃん、キレイなのー」
「おお……今は亡き妻と結婚した時のことを思い出す」
『エリアーヌ、美しいぞ。ラルフも褒めてやろう』
一緒に来たセシリーちゃんと国王陛下、ラルフちゃんも賞賛してくれる。
もう……っ。
こんなに幸せで私、本当にいいんでしょうか!?
「おう、エリアーヌ。準備は終わったか。うむ……なかなかのものだな。我が今まで見た誰よりも美しい」
「あら、ドグラス」
そうこうしていると、ドグラスも腕を組んで部屋に入ってきた。
「あなたも今日は正装を身につけているんですね」
いつも民族衣装みたいな服を着ているので、こういうきっちりしたドグラスもなんだか新鮮。
「まあさすがに今日くらいは……な。汝に恥をかかせるわけにもいかぬ」
「心遣いありがとうございます」
「それにしてもエリアーヌよ——何度も言うが、とてもキレイだ。ナイジェルがいなければ、我が貰ってやってもいいんだがな」
ニヤリと口角を吊り上げるドグラス。
え、えーっ! 突然の告白!?
あたふたしていると。
「ダメだよ、ドグラス。エリアーヌは僕のものだ。誰にも渡すつもりはないからね」
「ガハハ! 冗談だ。汝から彼女を奪うつもりもない。悔しいが、汝に勝てる自信もないからな」
ドグラスは豪快に笑い、ナイジェルの肩をポンポンと叩いた。
もうっ……!
相変わらずドグラスも悪戯好きです。
「ではそろそろ式の始まりです。ナイジェル、エスコートしていただけますか? みなさん、もうお待ちでしょうし」
「分かった——とその前に」
ナイジェルはその場で膝を突き、頭を垂れた。
そして右手をさっと差し出し。
「エリアーヌ——改めて言う。これからの人生、僕と一緒に歩いてくれるかい? 僕は君を絶対に幸せにしてみせる」
「愚問ですね——私の方こそ、よろしくお願いいたします。共に幸せになっていきましょう」
ナイジェルの手を取って、顔を上げさせた。
すると彼は口元に笑みを浮かべ。
「ありがとう。エリアーヌに改めてそう言われると、天にも昇る気持ちだ」
「一体何回目ですか——いえ、違いますね。そういうことはもっと言葉に出して、おっしゃってくださいよ。私も、もしかしたら不安になるかもしれませんから」
私の言葉に、ナイジェルはなにかを察したかのように目を見開き、こう即答した。
「あれ? ——言ってなかったっけ?」
「言——いましたね」
私も答えて、ナイジェルと笑う。
彼には何度も「愛している」と囁かれていますからね。
不安になるかもしれないなんて嘘。
今更、ナイジェルの愛を疑うはずがありません。
「じゃあ……行こうか」
「はい」
ナイジェルに手を引かれ、式場へと向かう。
フィリップとヴィンセント様もお呼びしていますからね。今頃、式場のご飯に舌鼓を打っている頃でしょうか?
ちなみに……式場の料理のいくつかは、私が作りました!
自信作です!
さすがに料理長が止めてきたけれど、強引に厨房を占拠したのです。
……なーんて話を二人にしたら、どんな顔をするでしょうか。
きっと「次期王妃様がなんてことを」としかめっ面をするでしょうね。ふふふ。
やがて私とナイジェルは式場に足を踏み入れ、みんなの前に姿を現した瞬間——温かい拍手が式場を包んだ。
私はみんなに見守られながら、ゆっくりと式場の舞台に向かっていく。
——真の聖女である私は追放されました。
そう——始まりは国外追放と婚約破棄。
あの時はさすがに動揺してしまったけれど……今の私はこんなに幸せ。人生、なにが起こるか分かりませんね。
——だからこの国はもう終わりです。
いや、違う。
終わりなんてものはない。
どんなに辛いことがあっても、死なない限りは明日がくる。
時には辛いこともあるかもしれないけれど……そうやって続いていく人生の中で、こうやっていつかは良いことがあるかもしれません。
私はそのことを強く意識した。
「ナイジェル」
「ん、なんだい?」
歩きながらナイジェルの名を呼ぶと、彼の顔がこちらを向いた。
そんな彼に対して、私はとびっきりの笑顔で——
「私、幸せです!」
《完》
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ご覧の通り、ひとまず「真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです」の本編についてはこれで完結となります。
国外追放&婚約破棄から始まるエリアーヌの物語を最後まで描ききれて感無量です。
ここまで来ることができましたのは、応援していただいたみなさまのおかげだと思っています。本当にありがとうございます。
ただ……エリアーヌの人生はまだまだ続いていきます。
みなさまのお声などがございましたら、番外編や新章を始めさせていただこうかとも思っています。
なので(非常に悩んだのですが!)、ひとまずは完結設定にはせずに「連載中」のままにしておきます。
また……宣伝にはなるのですが、書籍版の2巻が本日発売となりました。
大好評シリーズの本作品を、ぜひお手に取りくださいませ。
ご清聴、ありがとうございました。





