12・もふもふしました
私は国王とナイジェルと一緒に、城の敷地内にある庭に向かった。
「えっ……」
そこで私はとんでもないものを目にしてしまうのである。
「フェ、フェンリル!?」
そう。
真緑の芝生が生い茂る庭の上で、大きいフェンリルが寝そべっていたのだ。
「ペットというのはフェンリルのことだったんですか!?」
「その通りだ。言ってなかったか?」
「言ってません!」
本当にこの親子は……どっちも説明足らずなんだから。
フェンリルというのは魔物の一種である。
しかし比較的温厚な魔物で、人間を見かけたとしても無闇やたらに襲いかかったりはしない。
こちらが敵対する意志を見せたら別だけどね。
そのため、こうしてペットとして飼う人もいるんだけど……そもそもフェンリルは相手のことを認めない限り、その人を『主人』として認めない。
買うにしても多額のお金が必要となり、そんじょそこらの庶民では手を出すことも出来ないのだ。
そういった理由から、フェンリルなんて飼っているお家は珍しいんだけど……。
「随分元気がなさそうですわね」
私はフェンリルの様子に心配になった。
「むう、そうなのだ。先ほど説明した通り、どんな治癒士に見せても、ラルフが一向に回復せん」
ラルフ……このフェンリルの名前だ。
「そうですか。まあ一度診させてもらいますわね」
私はフェンリルに近付こうとする。
しかしそんな私をさっとナイジェルが手で制した。
「エリアーヌ、僕も行こう」
「あら?」
「ラルフはなかなか人に懐かなくてね。君を攻撃する……なんてことはないが、迂闊に自分の体を触らせることもない。僕が一緒に行けばあるいは……」
随分人見知りの激しいフェンリルなのですわね。
でも。
「大丈夫ですわ。だってあんなに可愛いですもの。きっと触らせてくれると思いますので」
「エ、エリアーヌ!」
ナイジェルの制止を聞かず、私は堂々とフェンリルの目の前まで行く。
「可愛い子ね」
私が話しかけても、フェンリルは一瞥するだけでなにも口を開かなかった。
喋らないなんて……相当症状が酷いみたいだ。
「じゃあ……失礼します!」
私は意を決してフェンリルに手を当てる。
意を決して……と言ったが、「噛まれるかも」と思ったわけではない。
だってこんなにもふもふしているんですわよ!
柔らかそうな毛並みは触っただけで気持ちよさそう。
大柄な体は抱きついても優しく受け止めてくれそうだ。
「わあ」
その私の予想は当たっていたみたいで、フェンリルはとってももふもふしていました。
気持ちいい……。
「……はっ! いけない、いけない。私としたことが一瞬我を忘れてしまいそうでしたわ」
早く治してあげよう。
私は集中して、フェンリルに治癒魔法を発動する。
「おお! 神々しい光だ……!」
と後ろから国王の声が聞こえた。
んん。
これはなかなか厄介な病のようですわね。
私は集中して治癒魔法を使うと、相手のオーラを見ることが出来る。
なにもなければ無色透明。
これに色が付いていたり、濁っていたりすればするほど症状が酷いわけだ。
そして……フェンリルのオーラは濁った赤色?
見ているだけで不安になってくるような色合いだ。
「こんな色のオーラ……初めて見ますわね」
じゃっかん戸惑いながらも、私は治癒魔法を使い続ける。
すると赤色だったオーラが、徐々に無色透明へと近付いていった。
やがて。
「終わりましたわ。これでもう元気になったと思います」
私はフェンリルの治療を完了し、振り返って国王とナイジェルにそう告げるのであった。
「も、もう終わったのか!?」
国王からは驚きの声。
ナイジェルも唖然としているようであった。
「はい。ねえ、フェンリル……じゃなくてラルフちゃん、もう動けるわよね?」
私は優しく語りかける。
するとフェンリルのラルフちゃんは、ゆっくりとその場で立ち上がった。
しかし……久しぶりに立ち上がったためなのだろうか、ラルフちゃんが少しふらついた。
「あら、危ないですわ」
私はすかさずラルフちゃんを支えてあげる。
わあ……もふもふ。
やっぱり気持ちいい。
そして……ラルフちゃんは以前の感覚を取り戻したのだろうか。
そう時間はかからず、私の支えがなくても立つことが出来るようになった。
威風堂々とした佇まいである。でも可愛い。
「な、なんてことだ!? 今までどんな治癒士に見せても、全く回復しなかったというのに……こんな短時間でラルフが元通りになった!?」
「ラルフが立っている姿なんて、久しぶりに見るよ。それにラルフが初対面の人間に、体を普通に触らせるなんて……!」
その様子に二人はさらに驚いているようであった。
これくらいならお安いご用なのである。えっへん。
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!
よろしくお願いいたします!





