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119・悔しい。絶対に許さない

 私が玉座の間に着くと、そこには魔族らしき存在に体を持ち上げられているナイジェルの姿があった。


「ナイジェル!」


 呼びかけ、すぐに彼のもとに駆け寄ろうとする。


 しかし魔族はニヤリと口角を上げ、


「聖女か……くくく、一足遅かったな。こいつに付与されていた魔力は私が頂いた。もうこいつは用済みだ」


 そのままナイジェルの首を、強引に折ろうとした。


 だが。


「うおおおおおおっ!」


 ナイジェルは喉が張り裂けんばかりに声を出し、魔族の手からなんとか逃れようと藻掻もがく。

 それに一瞬怯んだ魔族。私はその隙を見逃さず、魔族に思い切り体当たりをかました。


「……ふんっ。鬱陶しい」


 私の攻撃なんて、それこそ虫が当たったようなものでしょう。

 ですが、ギリギリで保たれていた均衡を崩すことが出来ました。


 ナイジェルは力を振り絞り、魔族から離れる。

 自分の喉に手を当て、苦しそうに咳をした。


「一体なんのおつもりですか? こんなことをして、タダで済むとお思いで?」


 王族のようにマントを羽織り、大きさも私の二倍くらいはあるでしょう目の前の魔族。

 だけど私はそれに怯まず、ナイジェルを支えながら魔族を睨み返した。


「もう、お前等は用済みだ。鍵は全て揃ったのだからな」

「鍵?」

「魔王様復活のな」


 余裕げに魔族は口にする。


「上級魔族であるフィロメロを我が体に取り込み、そやつから魔力たっぷりの女神の加護も回収した。これだけの魔力があれば、我が体を犠牲にして魔王様を復活させることが出来る」


 そう言った後、魔族は私達に背を向ける。


「さあ——祭りの始まりだ。聖女相手に戦うのは、無駄に魔力を消費してしまう可能性があるのでな。貴様等に構っている暇はない」


 魔族はそのまま玉座の下——魔王が封印されていた部屋に足を進めようとする。


 ダメっ!


「エリアーヌ! 僕のことはいい! そいつを止めろ!」


 ナイジェルも手を伸ばすが、それが精一杯みたい。すぐには動けないでしょう。


 今すぐにでも彼に治癒魔法をかけてあげたい……そう思うが、踏みとどまる。


 それは後からでも出来る。

 今の優先事項は……()()()を止めること!

 ここで判断を誤ってはいけません!


「行かせません!」


 私は魔族の前に結界を張り、そいつの足を止めようとする。


「本当に貴様は鬱陶しい真似をしてくれる」


 魔族は手をかざし、結界を力づくで壊そうとした。

 私もそれに負けじと結界に注ぎ込む魔力を多くするが……ダメっ! このままじゃ突破される!?


「あなた達は……何様のつもりですか?」


 右手を前に突き出し、それを左手で支える。

 魔族の力と結界が拮抗する中、私は声を投げかけた。


「たくさんの人々の命を奪おうとして……それに罪悪感はないのですか? あなた達は自分がよければ、それでいいのですか?」

「なにを言い出すかと思えば——その通りだ。そもそも貴様等が異常なのだ」


 声の調子を変えずに、魔族は続ける。


「貴様がこの国でどういう扱いを受けていたか……大体察しが付く。それなのにわざわざ戻ってきて、この国を救おうとしている。おかしな発想だ。貴様になんの利益がある?」


 魔族の問いかけにすかさず反論したいが、今は言葉を紡ぐ余裕が私にはない。


「おかしいのは貴様等の方だ。魔王様が復活すれば、すぐに考えも変わるに違いない。これからは自分の命を守るだけで必死になる……そういう時代がくる」

「ああっ!」


 パリンッ!


 硝子が割れるような音と同時、私達はその衝撃波で後方まで飛ばされる。

 すぐに立ち上がり、魔族を止めようと思ったが……怯んだ一瞬の隙に、魔族は姿を消してしまっていた。

 魔王が封印されている場所に向かったのでしょう。


 呆然とし、その場に立ちすくんでしまいますが……。


「エ、エリアーヌ! すぐにあいつを追いかけないと! 魔王が復活してしまえば大変なことになる!」


 ナイジェルの声で、現実に引き戻された。


「え、ええっ! でもナイジェル……あなた、お怪我を……」


 先ほどの魔族との戦いが激しかったためなのでしょうか……ナイジェルは所々に傷を負っていた。


 血も流していて、立ち上がるだけで必死そう。

 治癒魔法をかけるけれど……これで完全に疲労が取れるわけではありません。

 私もさすがに治癒魔法を使い続けたせいなのか、ナイジェルを完全に癒すことは……無理。


 だけど……。


「大丈夫っ! 僕達が行かなければ、この国……いや、世界が終わってしまう! 僕の命をしてでも、あいつの思い通りにさせちゃいけないんだ!」


 満身創痍の状態で、ナイジェルは歩き出そうとした。


 彼の言っていることはごもっともです。

 本当なら休ませてあげたい。でも現状、ナイジェルがいなくて私一人で行っても、あの魔族を止めることが出来ないでしょう。


 だから。


「……分かりました。すぐに向かいましょう!」


 私は決心して、ナイジェルと共に魔族を追いかけた。


 地下の階段を駆け下りながら……。


「ナイジェル……私、悔しいです。あの魔族は人の命をなんとも思っていません。あんな邪悪な存在……私、許すことが出来ません」

「僕もエリアーヌと同じ考えだ。絶対にヤツは僕達が止めてみせる!」

「はいっ!」


 ナイジェルに手を引っ張られ、転がり落ちるような速度で地下室の最下層に向かう。


 彼の手の温かみが、自然と私に勇気を与えてくれた。

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