115・魔族の侵攻
大きな震動のせいで、私はバランスを崩し転びそうになってしまった。
「エリアーヌ!」
そんな私をナイジェルが手を伸ばし、支える。
「ドグラス……なにが起こっているんですか!?」
彼に支えられながら、私はドグラスと念話を続ける。
『魔族が王都に攻めてきたのだ! ヤツ等、結界魔法を無理矢理突破して……』
「そ、それは本当ですか!?」
声を荒らげてしまう。
なんてこと……。
私が王都に張った結界はあくまで時間制限付きのもの。だから結界が消滅する前に、私はなんとかして始まりの聖女の力を得ようとしたのです。
「あと一日は結界は持つはずでしたが……」
しかし結界消滅に近付くにつれ、その効力はだんだん弱くなってくる。
それは事前に分かっていたこと。
だから魔族は自分達でもギリギリ結界が突破出来るくらいになって……今回のように攻撃を仕掛けてきたのでしょう。
とはいえ、その際には魔族側の戦力が削られてしまう。
ゆえに結界が完全に消滅してから、魔族は行動する可能性が高いと踏んでいましたが……。
「エリアーヌのその様子だと……もしかして、魔族がこの国に?」
「はい」
頷くと、近くにいるクロードもレティシアも目を大きく見開いた。
「あまりゆっくりしている場合じゃなさそうだね」
ナイジェルの目がより一層真剣味を帯びる。
「エリアーヌ。早く僕に女神の加護を付与してくれ。そして……女神と交信し、始まりの聖女の力を得なければ」
「分かりました」
私は今までと同様、ナイジェルの背中に手を当てて加護を付与する。
ナイジェルの体が光り輝く。
その輝きは薄暗い地下を真っ白に染めてしまうほど。
「女神様。《道》は作りました。どうか私達に力をお貸しください……」
両手を組み、祈りを捧げるように交信しようとする。
……。
…………。
だが——女神からの返答はない。
「女神様! 始まりの聖女の髪を手に入れました! 《道》は出来たのです! 魔族もこの国を攻め入ってきました。早く……」
しかしいくら必死に呼びかけても、なんの言葉も返ってこなかった。
「エリアーヌ……」
ナイジェルが不安そうに私を見る。
どうやらあの夜とは違い、彼の意識も途絶えていないみたいです。
でもそれは、やはり女神との交信が上手くいっていないことを示しているかのよう。
——どうして!?
前と同じ条件は整えた。始まりの聖女の髪も手に入れた。
それなのに……どうして女神は返事をくれない?
さすがの私も焦りを隠せません。
「や、やばい! ここは危険だ!」
クロードが声を張り上げる。
確かに……こうしている間にも城全体が震え、上から瓦礫が降ってくる。
今にもここが崩壊してしまいそう。
「とにかく! ここからは早く脱出しないと! 外の様子も気になる!」
「は、はいっ!」
混乱している私に発破をかけるように、ナイジェルが声を上げる。
どうして女神と交信出来なくなったのかは分からない。
でも……今はそのことをゆっくり考えている場合でもありません。
こうしている間にも、魔族の総攻撃を受けて、王都は大変なことになっているでしょうから。
「急ぎましょう!」
後ろ髪を引かれる気持ちながらも、私は一旦ナイジェルに付与していた女神の加護を解除する。
女神の加護は多大なる力を与えてくれるけれど、体への負担は大きい。
これからの戦いも考えると、ここであまり連発はしたくないのです。
「レティシア、こっちだ!」
「う、うんっ」
クロードがレティシアの手を引く。
いくらレティシアが一流の呪術師とはいえ、彼女が可愛らしい女の子であることには変わりない。
不安そうなレティシアとは対照的に、今のクロードはとてもたのもしく見えました。
彼の両足は恐怖で震えているけれど、それでもレティシアだけは守ろうという強い意志を感じた。
「どうして女神と……」
「そのことについては、上に戻ってから考えよう。今はここから脱出することが先決だ」
考える私に、ナイジェルは力強い言葉をかけてくれた。





