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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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113/322

113・ボクの欲しかったもの


【SIDE クロード】



「レ、レティシアとエリアーヌは本当に大丈夫なのか!?」


 二人が階段の崩壊に巻き込まれ、落下した後。

 クロードはナイジェルに詰め寄った。


「うん。エリアーヌは結界魔法が使える。地面に激突する時にも、それを張れば大丈夫だと思うから」

「そ、そうか……」


 ナイジェルにそう説明されたが、いてもたってもいられない気持ちには変りない。


 心配そうに貧乏揺すりをしているクロードを見て、ナイジェルはあろうことかクスリと小さく笑った。


「ふふふ。君は本当にあのレティシアって子が好きなんだね。安心しなよ。エリアーヌは彼女を許した。だからきっと、彼女も助けてくれるだろうから」

「だったらいいんだが……」

「今は早く彼女達と合流する方が先決だよ。行こう」

「う、うむ」


 ナイジェルが先を歩くと、クロードは慌てて彼に付いていった。


(ボクがレティシアを選んだから、エリアーヌと婚約破棄することになった。レティシアのことを恨んでなければいいが……)


 しかし身勝手な真似をしてしまったのは自分だ。文句は言えない——とクロードは考える。


「それにしてもナイジェル。君は落ち着いているんだな。エリアーヌのことが心配じゃないのか?」


 歩きながら、クロードはナイジェルに問う。


「心配? まあ彼女のことは信頼しているからね。彼女が大丈夫と言うなら、大丈夫だよ」

「だ、だが! 薄情すぎないか!? エリアーヌも女の子で——」


 そう言葉を続けようとした時、クロードは見てしまった。

 なんともなさそうに口にするナイジェルの右拳が、強く握られていたことに。


(……! そうだ。ナイジェルもエリアーヌのことが心配なんだ。だけど必死にその気持ちを押し止めている。そうすることが、最終的には良い結果になると思っているから……)


 一方のクロードはレティシアの身を案じるばかりで、大局的なものを見ていなかった。

 隣国リンチギハムの王子殿下……ナイジェルはクロードと同じ歳だと聞く。

 それなのにここまで差が生まれるということか。

 クロードはそれに気付き、愕然とした。


「……すまない。君もエリアーヌが心配なんだな。ボクの気持ちばかりを押し付けて申し訳ない」


 クロードは反省する。


 だが。


「ん……? そんなことないけどね。エリアーヌを信頼しているのは本当さ」


 とナイジェルは余裕げに返した。


 彼がそうすればそうするほど、クロードは自分との差をまざまざと見せつけられているようで、情けない気持ちになる。


(……そうえいば昔はよく、隣国の王子殿下……ナイジェルと比べられていたな)


 クロードの教育係が口を酸っぱくして言っていたものだ。


 いわく、ナイジェル殿下は幼い頃から『神童』と呼ばれている。

 六歳にして学院の入学試験の合格基準点に達した。剣の腕前も一流で騎士団長も舌を巻くほど。

 それでいて王族としての誇りも持ち合わせている。社交界におけるマナーも完璧で非の打ち所がない……と。


(対してボクは……物覚えが悪かった。まあ勉強よりも遊ぶことに時間を費やしていたから、当然だったが……。

 そういえばあの頃のボクは、忠告してくる教育係の女性を疎ましく思い、辞めさせてしまったな)


 考えれば考えるほど、ナイジェルと自分との差が分かる……そうクロードは思った。


(だが……そんな完璧な男がエリアーヌのことを、これほどまでに心配している? 聖女としての力を欲しているだけではなさそうだが……)


 ナイジェルの背中を見ていると、不意に興味が湧いてきた。


 それに——先ほど、エリアーヌが足を踏み外そうとした時。

 咄嗟に彼女を支えるナイジェルの顔を見ていると、その気持ちが強くなった。


 ナイジェルと話している時のエリアーヌの様子も、王国にいる頃はお目にかかれないものであった。

 そのため驚いて、変な風に二人を見てしまったことを思い出す。


「なあ、ナイジェル」

「なんだい?」


 ナイジェルの顔がこちらを向く。


「君はエリアーヌとどういう関係なんだ? ただの国民の一人……というわけではなさそうだが」

「エリアーヌは今の僕の婚約者さ」


 その言葉を聞いて、クロードは驚く。


「そ、そうだったのか……しかしエリアーヌは貴族の出でもない。それなのにどうして婚約を?」


 王国では『聖女』として扱われ、王子と婚約する必要があったという事情があるから、別にしてでもだ。


「まあ僕も王族の一人だからね。ただ愛する人と結ばれたいと思うのも、本来はダメなことだと自覚している」


 ナイジェルは話を続ける。


「だけどそれ以上にエリアーヌが魅力的な人だったのさ。それに国民のみんなもエリアーヌとの婚約を認めてくれると思っていたからね。君が逃した魚は大きいんだよ?」


 ナイジェルが挑戦的な笑みを向ける。

 エリアーヌはクロードの元婚約者だ。


 ゆえに複雑な気分になってもおかしくないが……。


(不思議だな。それを聞いても、今のボクはエリアーヌの幸せだけを願っている)


 とクロードは本心から思う。


「もしかして……エリアーヌのことが惜しくなったとか?」


 ナイジェルが鋭い視線をクロードに向ける。


「そ、そんなことはない! 今のボクはレティシア一筋だ。エリアーヌには悪いかもしれないが、今はレティシアのことしか見えていない」

「そうだろうね。今の君を見ているとそう思えるよ」


 柔らかな表情になるナイジェル。


 レティシア。

 彼女の顔を思い浮かべるだけで、クロードは幸せな気持ちになった。


(彼女は自分のことを呪術師だと言っていたが……まあそれでも気持ちは変わらない)


 何故だか、彼女の話し方が変わっている。

 しかし逆にそのことによって、素のレティシアが見れた気がして、嫌な気持ちにはならなかった。


 今までレティシアは仮面を被っているような感覚は、クロードも抱いていた。

 それがたとえ彼の前でも……だ。


 そんな彼女が仮面を脱いで、自分と接してくれている。

 クロードはそのことをただただ嬉しく思った。


「まあ……でもね」


 ナイジェルの視線が再び鋭くなる。


「たとえ君がエリアーヌのことを惜しくなったと思っていても……僕は君に負ける気はないんだからね。その時は正々堂々と勝負しよう」

「そ、そんな勝負をするつもりはない。それに……万が一、そんな事態になってもボクは君に勝てる気がしないよ」

「そうかい」


 そう言い、ナイジェルはクロードから視線を逸らした。


「……君は本当にいいね」


 前を向いて歩き続けるナイジェルに対して、クロードが言葉を投げかける。


「エリアーヌの気持ちをちゃんとつかんでいる。ボクは……不安になるばかりさ。本当にレティシアはボクのことが好きなのか……? って。

 今までこんなことは考えたこともなかった。だが、王国がこんな目に遭って、レティシアの内面も変わって……否応がなしにそんなことを考えてしまうんだ」


 それに——クロードは思う。


 これはクロードの勘だが、レティシアのナイジェルを見る目が普段と違う気がするのだ。

 そりゃあナイジェルは隣国の王子殿下だ。他の者を見るのとはまた違うだろう。


 しかしそれとはまた別に、ナイジェルを見るレティシアの目が熱っぽいような……そんな印象を抱く。


(まあナイジェルはカッコよくて、頭も良さそうだからね。こんな王子としての自覚もないボクなんかより、ナイジェルの方が魅力的に見えるんだろう)


 クロードはそう自嘲した。


 しかしナイジェルは、そんなクロードの内面も読んだのか。


「……そんなことないと思うけどね?」

「え?」

「レティシアは君のことが好きだと思うよ。それは僕が保証する」


 ナイジェルが自分の胸をポンと叩く。

 それを見て、クロードは思わず乾いた笑いが出てしまった。


「はは、なにを根拠に言ってるんだ。励ましてくれなくてもいいんだぞ」

「そんなつもりはないけどね。事実を言っただけだよ」


 ——なんだそりゃ。


 だが、彼が冗談を言っている様子でもない。


(ならばどうしてナイジェルは……?)


 混乱していると。


「あっ、あれ。もしかしてエリアーヌとレティシアじゃないかな?」


 ナイジェルが指差す方へ目をやると、二人の女性がこちらに手を振っている様子が見えた。

 二人ともどこか怪我を負った様子でもない。


「あ、ああ……! 間違いない! レティシア達だ」

「言っただろ? エリアーヌなら心配ないって」


 ナイジェルの顔を見ると、彼もほっと胸を撫で下ろしている様子であった。


(やっぱりナイジェルもエリアーヌのことが心配だったんだ……)


 正直……ここに来るまでに話していて、あまりにもナイジェルとの差が大きいためか、彼を同じ人間とは思えなかった。


 しかし今の表情を見て、ナイジェルも同じ人間だ……と。

 いつか彼に追いつき、そして追い越せるような王子になりたい——クロードは切に願った。


「行こう」

「ああ!」


 クロードとナイジェルは階段を駆け下り、レティシア達のもとへ向かっていった。

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「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです
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