109・偽の聖女は仮面を外す
書籍版が2月2日に発売されます。
活動報告とこのページ一番下部に表紙画像を貼っていますので、ぜひご覧くださいませ!
早速クロードと国王陛下に頼んで、私は玉座を調べることになった。
「やはり……ここになにかが巧妙に隠されているようですね。妙な違和感を感じます」
玉座を触りながら、私はそう結論づけた。
「じゃあエリアーヌ。ここに魔王封印のなにかがある……と?」
「ボクにはなんら代わり映えのない玉座にしか見えないがな」
ナイジェルとクロードが口にする。
現在——玉座の間には私、ナイジェル。そしてクロード……さらには国王と何人かの騎士もいる。
彼等は一様に私に目を向けていた。
「ええ。ただ……かなり巧妙に隠されているようです。おそらく魔法かなにかでロックされていると思うんですが……」
「エリアーヌでも分からないのかい?」
私は首を縦に振る。
「おそらく、これを仕掛けたのは魔族でしょう。ここをあまり調べられると、都合が悪いので、このように隠蔽したと考えられます」
私でも、よくよく注意して見てみないと分からなかった。
今まで誰も気付けなかったのも、不思議ではない。
「しかし……エリアーヌでも無理だったら、もうお手上げじゃないか」
クロードが肩を落とす。
「ああ、クロード王子の言う通りだ。現状、エリアーヌ以上に魔法に長けた者はこの国……いや、世界にもいないんだろうから」
「時間をかければ分かるかもしれませんが、みなさんご存知の通りあまり時間がありません。せめてこの違和感の正体だけでも分かれば、話は別かもしれませんが……」
みんなで頭を悩ます。
だけど、やっと見つけた手がかり。
ここで諦めて、また振り出しから……というのは避けたい。
「ですが、悩んでいる暇もありません。私はもう少しここを調べてみます。クロードと国王陛下には、宮廷魔術師の方をお呼びして……」
と言葉を続けようとした時であった。
「その必要はないわ」
玉座の間に、強気な女の子の声が響き渡る。
みんなは一斉に声の方を振り向く。
「レ、レティシア!」
クロードが真っ先に駆け寄り、こちらに歩いてくる女性——レティシアのもとに駆け寄る。
「レティシア。もう体調の方は大丈夫なのかい? 顔色は随分良くなったみたいだけど……」
「エリアーヌ。ちょっとわたしにも見せてくれるかしら」
レティシアがクロードの言葉を無視し、私に問いかける。
私が頷くと、レティシアは玉座に近寄り、そこに手を当てた。
「……やっぱりね。これは魔法じゃなくて呪い。それによって、入り口が封鎖されている」
「入り口が封鎖?」
「ええ。わたしの見立てでは、その呪いが鍵になっている。これを解除することが出来れば、地下に続く道は開かれるはずよ」
レティシアは迷いない口調でそう言った。
なるほど……呪いですか。
私は呪いについては専門家ではありません。どうしても、呪術師の方に比べて劣るのです。
だけど……アルベルトの一件から分かる通り、レティシアは呪術師。
しかもその中でもかなり優秀な部類。
だからこそ、玉座に仕掛けられた呪いも看破することが出来るのでしょう。
「レティシア……その喋り方どうしたんだ?」
後ろからクロードが恐る恐る問いかける。
確かに……私の記憶では、レティシアはもっと砂糖をふんだんに使ったお菓子のような、甘ったるい喋り方をしていた。
でも……今はそのことを追及している場合でもない。
「わたしの力じゃ、呪いを解除することは不可能だわ」
レティシアはクロードの問いを無視して、続ける。
「呪いを仕掛けてきたのは、この国を支配していた魔族……とも考えられるけど、きっとそれは違う。ヤツ等に、死んでもなお発動し続けるような呪いを作ることは出来ない」
「ということは……?」
「きっと、もっと強大な存在。その怨念が封印場所を人間達に悟られないように、これを仕掛けた……んだと思う」
もっと強大……上級魔族以上となれば、後は始まりの聖女か魔王?
でも始まりの聖女が呪いを使えるものとも思えないですし、魔王の線が固そうですね。
だんだん核心に近付いていくような感覚でした。
「ともかく、これはかなり強力なもの。わたしでは解除することが出来ない。でもエリアーヌなら……」
「ええ」
そうと分かれば話は早い。
私は目を瞑り集中して、一瞬で呪いを解除した。
「よし、これで呪いは……あら? 床のこことここが不自然に色が変わっています。まるで後から付け足したみたい。もしかして……」
私は試しに、床に手を当て魔力を送り込んでみる。
するとなんてことでしょう。
床が光を放ち、やがてそれがなくなった時には地下へ続く階段が現れたのです。
「当たりだったようですね」
覗き込んでみると中は暗く、階段は長く続いているようでした。
さらに奥から今まで感じたことのない魔力や怨念も感じる。
足がすくんでしまいます。
でも……この中になにかがあることは間違いなさそうです。
「レティシア、ありがとうございました。あなたに言われなければ、呪いだと気付かなかったでしょう」
「どういたしまして」
レティシアが素っ気ない様子で、ぷいっと私から顔を背けた。
「どういうことだ……? レティシア、どうしてエリアーヌでも気付けなかったものに君が気付ける? しかも呪いって……」
「ああ、簡単よ。だってわたし、呪術師だから」
どうするんでしょう……と見守っていると、レティシアはあっさりと口を割った。
「……は?」
クロードはぽかーんとした表情。
どうやら理解が追いついていないようです。
「ふふふ、どうしたんですか。あなた、その様子だと呪術師だということは隠していたのでは?」
「もうどうでもよくなったのよ。それに……そんなことを言っている場合でもなくなった」
そう口にするレティシアの表情を見ると、以前とは様変わりしているように思える。
前はもっと子どもっぽい表情だと言うんでしょうか……でも今は覚悟を決めた大人の顔になっていた。
「私はそちらの方が好きですよ。最初からそうしておけばよかったのに」
「……ほーんとにね。わたし、なにを考えていたんだろう。こっちの方が楽なのに」
と苦い表情のレティシア。
「まあ……あなたが言った通り、でも今はそんなことを言っている場合でもありませんね。早速この中を進んでみましょう」
「エリアーヌ、僕も行くよ」
一歩前に踏み出すナイジェルを見て、私は頷いた。
「……正直、儂にはなにが起こっているか分からぬ。しかし大事なことであることは間違いなさそうだ。良ければ、王国自慢の騎士も何人か連れて行った方がいいのではないか?」
国王はそう提案してくれるが、
「いいえ、結構です。心遣いは嬉しいですが、中でなにが起こるか分かりませんから」
と丁寧に断る。
……とは言ったものの、本当のところは足手まといになると思ったから。
さすがに私、そしてナイジェルでも、みなさんを守りながらは難しいのです。中は狭そうだし、動きにくくなる可能性もありますしね。
「じゃあナイジェル。早速……」
「待って」
私が地下へ進もうとすると。
レティシアが胸に手を当て、真っ直ぐな言葉でこう言った。
「わたしも連れて行って。足を引っ張らないようにするから」





