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102・王子殿下らしくない

 あれから。

 私は無事にこの国に結界を張り終えました。


 ようやく一息吐けるようになったので、私はひとり城内を眺めながら探索していた。


「昔からあまり変わっていませんね」


 でもよく考えてみれば当たり前の話です。

 だってまだ追放されてから半年も経っていないのですからね。


 でも……もっと経っているように感じる。

 楽しかったけれど、追放されてからはそう感じるくらい怒濤の日々だったのです。


 こうして歩いているだけでも、昔のことを思い出す。

 あまり良い思い出はないけれど、懐かしいやらなんやらで複雑な気分になっていると……。



「エリアーヌ」



 後ろから呼びかけられる。


 私は立ち止まり、声のする方へ振り返った。


「あら、クロード王子ではないですか。こんなところでなにをされているんですか?」


 私はわざと他人行儀な話し方をする。


 クロードがゆっくりとした歩調で、こちらに近付いてきた。


「その……なんだ。まだちゃんと伝えていなかったと思ってな」

「ちゃんと?」

「ああ。レティシアのこともそうだが、この国に結界を張ってくれてありがとう。()には世話になりっぱなしだ」


 ……えぇ?


 変な声が口から出てしまいそうになりましたが、寸前のところで止める。


「そして今まで君の聖女としての力を疑って、すまなかった。ボクは間違ったことをしていた」

「どうしたんですか。あなたらしくないじゃないですか。私にそんなことを言うなんて」

「……ボ、ボクも色々変わったんだっ」


 急に照れ臭くなったのか。

 クロードは腕を組み、ぷいっと視線を逸らす。


 そんな子どもっぽい仕草に、思わず噴き出してしまいそうになった。


「一応言っておきますが……別にやはりこの国が良いと思って、戻ってきたわけではないですからね。この国が魔族に制圧されてしまえば、世界中が大変なことになってしまいます。だから仕方なしなのです。そのあたりは勘違いしないでくださいね」

「も、もちろんだっ」


 本当はそれだけの理由じゃなかったけれど……あまりクロードを良い調子にさせておくのも()だったので、わざとそう言葉を選んで言った。


「それにしてもクロード。先ほどはあなた、一体どうしたんですか? 陛下に反論していたではないですか。以前なら有り得なかったのに……」

「…………」


 私の質問に、クロードは口を閉じた。

 そして、どこか言いにくそうにしながらも、再度口を動かす。


「……ボクもこのままじゃいけないと感じたんだ。いつまでも子どものままでは、国どころかレティシアひとりを守ることすら出来やしない。エリアーヌを追放してから、それを強く実感した」

「……へえ」


 つい感心してしまう。

 クロードもそんな殊勝な考えが出来るようになるなんて……驚きました。


 彼は頬を掻きながら、さらに続ける。


「リンチギハムの王子殿下は立派なものだな。ボクと同じくらいの年齢なのに、あんなに立派に国の代表をしている」

「ナイジェルのことですか?」

「そうだ。リンチギハムの国王陛下が、彼に今回の出兵を任せたのも頷ける話だ。すごいと思う」

「ふふふ、あなた。ナイジェルのこと、絶賛ですね」

「あれほど王子としての力の差を思い知らされたからな。感心するのも無理はないだろ」


 少し不満げに唇を尖らせるクロード。


「だが……いつかはボクも王子として、リンチギハムの王子殿下に追いついてみせる。どれだけ時間がかかろうともな」

「そんな簡単にはいきませんよ。ナイジェルはあなたが思っているより、さらにもーっと立派な方ですから」


 私が言うと、クロードは首肯した。

 クロードの口からとはいえ、ナイジェルのことを褒められるとなんだか嬉しい気分になった。



 ——今、私は彼と婚約しているんですよ?



 ……一瞬それも打ち明けようと思ったが、やっぱり止めた。

 そこまで言う必要はないはずだ。


「私に言いたいことはそれだけですか?」

「いや……もう一つある」


 クロードが表情を一層真剣なものにする。


「エリアーヌ。この国に魔王が封印されているというのは、本当の話なのか? にわかに信じ難い話だったが……」

「本当です。そうでなければ、魔族がこの国にわざわざ固執する意味もないでしょう?」

「その通りだが——これからどうするつもりなんだ? 結界は時限式のものなんだろう? 結界が解かれればまた魔族が攻め入ってくる。この二週間の間に、なにか考えは……」

「ええ、大丈夫です。私も無策でこの国に戻ってきたわけではありません。魔王復活を防ぐ手段は……()()があります」

「あて?」


 クロードが首をかしげる。


 だけどその()()はか細いもの。本当に存在しているのかどうかもはっきりしないし、たとえ手繰り寄せたとしても復活を阻止出来るか……と言われると「絶対」とは答えることが出来ません。

 とはいえ、現状はこのか細い糸をなんとか辿って行くしかない。


「そのことについてもクロードに手伝ってもらうつもりでした。クロード、魔王復活を阻止するためには……」

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