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陰キャな兄と不登校の妹


 「今日カラオケ行こうぜ!」


 「いいね」


 「えぇ〜私も」


 無事に終えた始業式のあと、初々しい2年ということもありクラスが騒がしい。

 俺は1人教室をたち帰路へとついた。せっかく2年になり教室が変わり、クラスも変わったというのに未だに喋る友達ができない。

 これじゃあ妹とした約束が果たせない。


 はあ。俺はため息交じりの息を吐き、気づけば家へと到着していた。


 「ただいま」


…………


誰の返事もなく俺はリビングへと足を踏み入れる。そこには、ぼさついた髪をヘッドフォンで束ね、テレビと睨めっこでゲームに全神経を注ぐ少女がいた。…妹だ。


 妹はクリアしたのか、コントローラーを置きヘッドフォンを取る。そしてようやくこちらに気付いた。


 「ボッチ兄おかえり。学校どうだった?」


 妹の言葉が胸に刺さった。


 「おい、ボッチは余計だろ!」


 「仕方ないじゃん。ボッチなんだから」


 「不登校のお前には言われたくない」


 「で?彼女は?」


 「……」


 何も言い返せない。そんな会話をする俺たちにインターフォンがなった。


 「誰?友達?」


 「俺に友達がいないのはお前が一番知ってるだろ!」


 「そうだった…」


 と、てへっと可愛げに笑う妹。くっ、可愛いじゃねーか。


 「じゃあ、誰?」


 可愛げに首を傾ける妹。どうせ宅急便だろ。

 俺は受話器を取り耳に当てた。


 「どちらさまですか?」


 「私、赤城って言うんですけど」

 

 どこかで聞いたことのある名前。まさか…


 「影山一人くんはいますか?」




 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 俺の名前は「影山一人」東京の高校に通う高校二年生だ。名前の通り恋人おろか友達すらいない俺。いわゆる陰キャラというやつか?いやボッチか?どうでもいい。すなわちロクでもないキャラというこだ。そんな俺だが今日から無事2年生。友達がいなくても昇格できる学校にマジ感謝。


 学校では極力人と関わらないようにしている。邪魔な人間関係は俺の時間を減らすだけ…そう考え生きてきた俺だが、ある日を境にこの考えは崩れることになる。そう、丁度1年前去年の入学式。





 「ただいま」


 入学式が終り家に帰る。クラスでは打ち上げの話がされていたが何故か誘われなかった。まぁいい。時間と金の無駄だ。


 「……」


 誰の返事もなく俺はそのままリビングへ入った。

 リビングに行くとやはり妹がテレビと睨めっこしていた。

 妹の名は「影山不矩」。学校には行かずいつも家でゲームばかりしている。俗にいう不登校。

 だが、こいつは他の不登校よりよっぽどタチが悪い。


 「おまえテスト…」


 「ん?100点だったよ」


 俺は不矩の答案用紙を見る。


 国語、数学、社会、理科、英語全て100点だった。

 そう。こいつは成績には全く問題がないところだ。そのせいか教師は何も口出しできず、両親からは呆れられている。


 「お前な……俺みたいになるなよ」


 「ボッチ兄の何が悪いの?私はいいと思うけど」


 ボッチは余計だが、よく照れずに言えるな…


 「そんなことより久しぶりにゲームやる?」


 最近は受験期間で忙しかったしな。


 「いいぜ。俺が勝ったら明日学校行けよ」


 「じゃあ私が勝ったら……」


 不矩は面白いことを思いついたと顔を微笑ませる。


 「この3年間のうちに恋人作って!」


 「は?はああああああああああああ〜〜〜〜〜〜!!!」


 そう言って不矩が取り出したのは、シンプルな野球ゲームだった。だがこの野球ゲームとても奥が深く面白い。


 1打席、1打席バッターが回ってくるたび手に汗を握る緊張感。その球筋を読み取る反射神経と動体視力。なにより相手がどの球を投げるか、どうバットを振らすかの高度な心理戦。これほどまでに作り込まれた神ゲーを俺はしらない。


 俺と不矩はコントローラーを握り画面を凝視する。今までの通算成績は俺が圧倒的黒星。ただでさえ負けているのにそこに罰ゲームのプレッシャー、勝てる確率は少ない。コントローラーを握る力が自然と強くなる。


 「準備はいい?」


 「ああ」


 「それじゃあ」


 「「ゲームスタート!」」まさか、この試合が俺の人生を大きく変えることななるなんて。



 試合は一進一退の攻防だった。俺と不矩はコントローラーを必死に握る。

 9回裏2アウト満塁のチャンス。点差は9対8。ここで俺が打てば、サヨナラ勝ち、打てなければゲームセット。


 「私カーブ投げるよ」


 「さっきから何回それ言ってんだ?さすがに引っかからんぞ」


 「なんで私たちは嘘つくと怒られたり嫌われたりするのに、大人は平気でついてるんだろうね?」


 不矩はぽちぽちとコントローラーを押し球種を確認しながら、そんなことを口走る。


 「なんだ?皮肉か?」


 「別にっ!」


 ボールが飛んでくる。これは……フォーク?!


 俺はあえてバットは振らずそのまま見送る、がギリギリストライクゾーンに入りカウントされてしまう。


 「っく。あのな、大人がつくのは嘘かじゃなくて建前だ」


 「何が違うの?」


 「嘘は自分を守るため、要は自分のことしか考えていない偽りだ」


 「じゃあ、建前は?」


 「建前は自分を守りつつ相手も悪い気持ちにさせず、目的の違いを伝えることができる。自分のためでも相手のためにもなる偽りだ。つまりは人間関係をうまく作るには建前をだな…」


 「ふ〜ん。隙!」


 「あ、ちょっ!」


 不矩は俺の話を最後まで聞かずボールを投げてくる。振り遅れたバットは球にもかすらずそのままミットに収まる。


 「せこっ」


 「にひひ〜」


 状況は最悪。2アウト2ストライク。次ストライクを取られればその時点で俺の敗北は決定する。コントローラーを強く握る。そんな真剣な俺の表情を見てか不矩は飄々とした態度で俺に話しかけてくる。


 「なんでボッチ兄は恋人も友達も作りたがらないの?」


 「別に必要ないと思うからだ」


 「なんで?」


 「友情とか愛情とかあるかわからないもの信じて考えるより、明日の朝ご飯を考える方が楽しいからだ」


 「なにそれ?」


 「要は友達なんか求めて生きるほど俺には余裕がないんだよ。てか早く投げろよ」


 「彼女作んないと青春送れないよ?」


 「お前が言うか?それに俺は別に青春はほしくない、ほしいのは静かな人生。

これが一番の青春だと思うが?」


 「なにそのひねくれ」


 「ひねくれじゃなくて開き直り。あと青春という思い出は時にトラウマを植え付けえおそってくるぞ。人生の先輩からのアドバイス」


 「ふ〜ん」


 不矩はまだ投げてこない。


 「おい、ふー早く投げろよ」


 「でもさ、私はお兄ちゃんのこと…好きだよ」


 「え?……」


 時が止まったような錯覚に陥る。不矩は今なんて… 

 俺は画面から目を離し、不矩を見つめてしまう。

 瞬間、不矩の口が歪む…まさか。


 気づくのが遅く、気づいた頃には画面にゲームセット〜と表示されていた。点差は9対8で俺の負け。


 「いや、反則だろ。てか、なに?ブラコン?」


 「なわけないじゃん。これも作戦」


 「てことで」と俺の腕を取り笑みを作った。


 「3年間の間に彼女つくること」


 無邪気に笑っている不矩に初めて殺意が湧いた。陰キャの俺に彼女?絶対に無理だろ…断りたい。だが、影山家ルール第3条「互いが了承した罰ゲームは必ずやり遂げる」により俺に断る権利はない。

 こうして俺は3年間の内に彼女を作ることになった。




 「はあ」


 ため息がこぼれる。あの約束からもう2年未だ話せる友人もいない。


 1年間もの間結局クラスの誰一人とも会話ができず。無駄でいていい生活を送れたが不矩との約束を思い出すと肩が重い。俺は憂鬱な思いで学校に向かう。この時の俺はまだ、クラス1の美少女が家にくることは知るよしもなかった。


 



 

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