表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

未練王の墓①

10万字は書きたいなあ


 静謐な間に老婆が一人。

 床には大きな星が描かれ、その中央に座す彼女はいかにも<占い師>といった風体だ。天井からは月明かりが差し、手元の水晶を照らしている。その水晶を彼女はジッと見つめ、動かない。


 それがどれ程続いただろうか。

 月明かりも水晶への気遣いをやめ去ろうとしていた時、彼女は大きく目を見開いた。


 そして、数瞬後、


「キェェェェェッ!!」


 老婆の絶叫が響き渡った。


「ど、どうされましたかババ様!」


 その声を聞きつけた者たちが一斉に部屋へと入ってくる。誰もがババ様と呼ばれる老婆の元へと一直線に向かう。尋常では無い様子に狼狽えながらも、回復魔法を行使出来る者が彼女を癒していく。


「ま……」

「ま? ですか?」

「まおうが……」


 天井を向き、よだれを垂らすババは絞り出すように言葉を紡ぐ。


「まおうが、あらわれた」


 ◇


 最初に会った時の寝間着を着たエーデルと僕は、冒険者用の宿泊施設である<ヤドヤ>の一室で顔を突き合わせていた。部屋にある唯一の寝具に腰掛け、エーデルが欠伸しながら問う。


「それで、今日は何をするんじゃ?」

「……この前クロエさんが言ってた無償クエストだよ」


 先日起こした騒動の責任を取るため、僕たちは報酬のなしでクエストを受けなくてはならなくなった。面倒だからと言っていい加減にはやらない。それが見つかった時に受ける被害を考えると、きちんとやらない選択肢はないのだ。


「面倒じゃ……」


 枕に顔を埋めるエーデル。


「……お酒飲めなくていいの?」


 僕がそう言うと、エーデルは片目でチラリとこちらを伺う。色々と足し引きをした結果、僕らは酒場に借金をこさえる事となってしまったのだ。それに、パーティ結成初日であんな騒動を起こしたものだから、ギルドには少し目をつけられている状況だ。しっかりと仕事をしなくちゃいけない。


「……何をすれば良いんじゃ?」


 観念したエーデルは僕に問う。

 クエストは既に受けているが、その前にエーデルに確認しないといけない事があった。


「その前に、エーデルのステータスを教えて欲しいんだ。僕らがパーティでやっていくには多少は知っておかないとね」


 エーデルはだるそうに立ち上がると、無防備に文机の上に置いたステータス・カードを、


「ほれ」


 お腹をポリポリと掻きながら、こともなげに僕に向かって投げた。突然の行動に驚き、僕は何回かお手玉をしてから受け取る。


「い、いいの? 見ちゃって?」

「何を言ってるんじゃ、見たいと言ったのはお主じゃろ」


 首を傾けて不思議そうにする。

 そうか、エーデルには説明し忘れていた。


 有名な話にこんなのがある。

 その昔、ステータスを国全体で導入し、個人の資質を目に見えるようにした国があった。これで個々人が得意分野を活かしながらも競争が発生し、より良い国なると考えられた。しかし、そう上手くいかなかった。


 ステータスだけで人を判断するようになってしまったのだ。ステータスが低ければ、全てを否定されるそんな世の中。期待されていた競争も努力による向上だけではなく、他人を蹴落とす足の引っ張り合いが起こる始末。


 そして、最たる悲劇は親と子の間で起こった。自分の子どもはこんなステータスではない、と嘆き子を捨てる親が出てきたのだ。最悪の場合は言わずもがな。


 その教訓としてかは不明たが、ステータスは無遠慮に曝け出すものではない、とされるている。ステータスを閲覧するには本人の魔力認証が必要だし──エーデルは使ってすらいないが──ギルドですら有事の際以外には各個人のステータスを見る事はない。冒険者とはステータスではなく、やってきた行いによって評価されるのだ。


「だからステータスはあんまり大っぴらにするものじゃないんだ。必要な部分だけ見せてくれればそれで充分なんだよ」


 たぶん、最初はこんな感じで、長くパーティを組もうと思ったら、お互いにステータスを見せ合うのかな? まぁ、僕は正式にパーティを組む事が初めてなので、このやり方であってるかはわからないが。


「良い。そもそも儂には何が書いてあるのかさっぱりじゃ」


 エーデルはそう言って、ごろんと寝転がってしまった。「SSSが最高値で──」と僕が説明するものの、彼女は足を上げて、膝を上下に揺らしてぱたぱたと遊び始める。完全にステータスを自分で読み取る事を放棄しているな。


「……わかったよ。見させてもらうね」


 僕は少し緊張しながらエーデルのステータス・カードを見る。人のステータスをこうやってみるのは初めてなのだ。


「……っ!?」


 エーデルのステータスが凄すぎて僕は目を丸くする。ステータスは軒並みSやSSランク。魔力量に至っては最高値であるSSSランクを弾き出していた。嬉しい事に耐性も驚く程高く──耐性はレベルが上がっても変化しない──僕の状態異常魔法の影響を受ける事はなさそうだ。


 レベルは500とめまいがしそうな程高い。このステータスならそうそう困難に直面する事も無いのに、このレベルなのは魔族は生まれた時から高いのかもしれない。それとも、彼女がそこまでの修羅場を……とも考えたが、膝を抱えてコロコロと転がる姿を見ていると、どうも想像出来なかった。


「ありがとう。それとこれ、僕のステータスだけど見る?」


 エーデルに返却すると同時に、いちおう僕のステータス・カードも差し出す。


「大丈夫じゃ。それより、早く本題をじゃなぁ」


 頬を少し膨らませ、プリプリしだすエーデル。


「そうだね。ごめんごめん」


 僕はエーデルにクエストの説明する。

 今回僕たちが挑むのは、とある高名な魔法使いがアンデッド化した事により発生した<未練王の墓>と呼ばれる、<ダンジョン>に巣食う魔物を討伐する事だ。


 ダンジョンとは魔物の作り出す幻想、と言われている。複雑な構造の建物もなんのその、突如発生して僕らの日常を脅かす。淀んだ魔力が溜まると発生しやすい、と言われているが未だ詳細な原理は解明されていないらしい。わかっているのは最奥に居る主を倒す事によって無くなる事と、主はダンジョンから出られないと言う事だ。


 つまり、未練王は未だに討伐されていないという事。それも最低でも数百年に渡って。当然過去に討伐は敢行されたが、結果はことごとく失敗。正直、魔王よりも強いんじゃ無いかと言われている。アンデッドは未練があればある程強力になっていくため、どれ程の未練を残しているのか僕には想像出来なかった。


 そんな未練王の墓なのだが、危険度はかなり低く設定されている。何故なら、数百年経っても特に害がないからだ。中に巣食う魔物も弱く、定期的に間引きをしていれば地上に出てくる事もない。未練王を無理に倒しに行って被害を出すより、放置出来るなら放置してしまえと言う精神だ。


「まぁ、要するに雑用かな。新人でも十分に務まるクエストだし、気軽に行けるものだよ」

「仔細はわかった。さっさと行って片付けるのじゃ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ