熱砂戦線・その油田を防衛せよ
「今日も平和ですね。小隊長ー」
戦車に待機している兵士がメンテナンスを行いながら、各部の機能をチェックしていた。
戦車は他の国ならもう廃棄寸前の旧型。しかし値段の安さと整備のしやすさ、そして戦車を運ぶ専用のトランスポーターを使わないでも長距離を走れるという特徴から世界の紛争地域で活躍しているものだったりする。
「馬鹿を言え、この油田を狙って愚かな奴らがしょっちゅう砲撃してくるだろうが。ここを壊されると金にならなくなるぞ。金にならないとPMCからの訓練とか戦車の砲弾すら手に入らなくなっちまう」
小隊長と呼ばれた男はそう言いながら背後にある石油プラントをみていた。
精密機械の塊、巨大なタンク、そこから掘り出される原油が精製され、パイプラインを通り、海岸の都市へと運ばれ、タンカーで国外へ持っていかれ、金に代わる。
例え、ここが元々は神聖な聖地であろうとも石油が取れる油田である以上、それを守るのが仕事だったりする。
「地上の戦車部隊へ。上空警戒部隊から警報だ。敵の接近を確認した。戦車が20両。随伴装甲車が20両。それと面白いことにLCACホバークラフトなんてレアものを見かけたぞ。砂漠で使うような代物じゃねえだろうに」
「はあ?!総員戦闘配置!来るぞー!イカれた馬鹿が特攻だ!」
鳴り響くサイレンと共に戦闘準備を展開していく防衛戦力。戦車部隊は前面に展開していき、自走砲や榴弾砲は砲撃準備を開始する。ミサイルは歩兵が持つものぐらいだが、旧型の対戦車ミサイル、対空ミサイルはそれぞれ準備されていたりする。
「観測機より砲兵各位へ。キルゾーンアルファに敵勢力が侵入。砲撃開始せよ」
敵も同じ旧式戦車を主体とするために砂漠でも軽快に走り回っていく。それを狙い、砲弾が降り注ぐ。
爆音、破片が突撃してくる戦車たちを吹き飛ばしたかと思えば旧型戦車では通常はあり得ない移動しながらの砲撃という奇策が弾幕を張る。当たるか分からない、とにかくキルゾーンを抜けることを最優先としていた。
「観測機から総員へ。L-CACの積み荷はタンクローリーだ!奴ら火船攻撃してきやがった。絶対に近づかせるな!」
可燃物満載のL-CAC、ホバークラフトとしての機動性を活かし、砂漠でも無理やり走り回る目的は自爆攻撃、戦車だけでも厄介なのに自爆用の燃料を積み込んでいる奴らを相手にするストレス、防衛側の戦車部隊にも焦りが見えてきた。
「こちら、ウィングマン01、L-CACの積み荷にランチャーを叩き込む。ただし、戦車は何とか頼むぞ」
その無線通信を行ってきたのは本来は中古の非武装の輸送ヘリ、強引に攻撃力を得るために、歩兵に携帯型ランチャーを持たせて、戦闘地域の上空へと現れた。
言葉通りにヘリのドアが開き、側面に乗り込んでいる歩兵が無理やり、L-CACに次々と携帯型ランチャーが浮ぎこまれていく。もともと誘導性のない上に、移動目標に対して、こちらも移動しながらの砲撃。如何にL-CAC自体が大きくとも中々当たらないが、ラッキーヒットというべき、一撃がタンクローリーに直撃。それに合わせて、他のタンクローリーも爆発していき、その爆発力はヘリの操縦も困難にさせていく。そして制御を失ったヘリは地上へ落ちていく。
「ウィングマン01、コントロール不能、コントロール不能!」
なんとか不時着し、乗り込んでいた兵士は逃げ出すと、ヘリは爆発炎上する。
「ヘリ乗りどもの気迫に負けんな!戦車屋の意地を見せろ!」
ヘリの決死の反攻をみて負けじと気迫を見せる戦車部隊の乗り手たち、自分の身を守る装甲への被害は無視して、突撃していけば同じように特攻覚悟で戦車同士をぶつけ、進路を妨害していき、至近距離で砲撃するという狂ったような攻撃すらも見せていけば、決死の覚悟で稼いだ時間は無駄にならず、増援の部隊が現れてくる。
中には貴重品扱いでエース向けに用意させた対戦車ヘリも飛来してくれば、もはや襲撃してきたほうには勝ち目はなく、敵部隊は全滅することとなった。
そして戦場にいる全員は忘れている。すべての兵器を動かすのには膨大な量の燃料を使うことに。特に戦車やヘリはがぶ飲みとまで言われるほど燃費が悪く、この国は2つの意味での血を、流している。
かつての大戦であった発言、油の一滴は血の一滴。
そして戦車などを操縦する技能をもつ兵士の流す血の一滴。
この砂漠は色々な意味で血を飲み干して、なお乾き、飢えているのかもしれない。