熱砂戦線・その油田は血を招く
その国に現れた異邦人によって見つかった油田。
その国の伝統的な信仰と油田による発展をめぐり、平和を愛していた国民は血で血を洗う内紛へと進んでいく
油田、それは砂漠の民にとっては外貨獲得につながる生命線である。
油田、それはエネルギーを生み出す神からの恵みである。
そして油田は抗争の火種となる悪意のあるパンドラの箱だった。
その国の国民は長い間、歴史と伝統を守りつつ、質素な生活をしていた。
水はオアシスなどから調達し、部族間のもめ事は長老同士の話し合いで解決していった。
そんなある日、外国の調査団とやらがやってきた。
なんでも、この砂漠の石油が眠っているというのだ。
これで水が、これで外貨が、他国のような優雅な生活が送れるという願い、国民への教育も出来ると皆喜んでいた。
そして、それは皮肉なことに国を2つに分けることとなった。
石油が埋蔵されているのは現地の古い伝承にある聖地だったからだ。
曰く、創造の神デジンが世界を作る前には世界は混沌に満ち溢れていた。
曰く、創造の神デジンは世界を作り上げ、残った悪しき混沌をその聖地に封じ、自らもまた、混沌を封じる要として聖地にて殉じた。
曰く、それ以来、聖地を荒すものは如何なるものでも死をもって贖わねば許されることなく、死してもなお、冥界にて永劫の苦しみを味わうであろう。
と。
そんなことを知らない外国の者たちは埋蔵している石油は如何に有能な産物で貴重で、国を潤すことかと説いて回った。
そして部族は2つに割れた。
1つは創造の神デジンの災いに触れることを許さぬという原理主義者。
もう1つはこれは創造の神デジンによってもたらされた福音であり、混沌とは石油の色ではないかという改革論者。
双方ともに争い、部族が手に手を取っていた平和な国は石油の発見という、たった1つのことで戦地へとなっていた。