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一刻は、また旅に出た。
探し物は、もうない。
今度の旅は、あてどない旅だった。
気になる雲の下へ。
気になる建物の中へ。
気になる看板の先へ。
あるいは地図を持って、本や雑誌や旅行ポスターで見かけた、一度訪れてみたい、気になる土地へ。
ただただ、気の向くままに。
動かない懐中時計と共に、一刻は、旅を続けた。
時を止めた世界の中で、一刻の時間だけが、流れていった。
青い空の下の町を旅した。
白い空の下の町を旅した。
太陽に向かって進んだ。
横顔に陽を浴びて進んだ。
そうして、やがてまた、太陽に背を向けて歩き始めた。
旅の終着点にしようと決めていた、その場所へと向かって。
気ままで遥かな旅路の果てに、戻ってきたのは、あのオレンジ色の町だった。
一刻は、しばらくの間その町で過ごした。
そうするうちに、再びあのときの公園広場にたどり着いた。
それからは、ちょくちょくその場所に寄るようになった。
あるとき、一刻は、公園広場のベンチに座って、昔に見たのと同じ空を見上げた。
オレンジ色のその空を、飽きるまで眺めたあと。
一刻は、少しだけ歌を口ずさんで、目を閉じた。




