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七十三話

「わ、わぁあああああああああ!」


 ヴェノの警告を聞いて、急いで逃げ出す者が数名。


「逃げるな! これは脅しだ! この程度で私達が敗れるはずがない! 所詮はこけおどし、町も浄化している様に見せているに過ぎん。そして……」


 ヴィレイジュはピューイと口笛を吹く。

 するとバイオコープスヒュドラがヴィレイジュの元に駆け寄り……背中が割れる?

 そこにヴィレイジュは入り込んだ。


「この決戦兵器の中に入ればどんな攻撃も術者に当たる事は無い!」


 バイオコープスヒュドラの口からヴィレイジュの声が響く。

 なんか魔物の死体を繋ぎ合わせて作った搭乗ロボットみたいだな。


『我も汝の記憶の中で見たぞー面白い発想であるな』


 いや、ワクワクするなよ。戦闘に意識を集中しろ。


『もちろんしておる。唱えるのにここまで時間が掛るのでは魔力が足りても実用的では無いな』


 五分の猶予って……詠唱五分って事なのかよ。

 内情知ると情けない。つーか……毒を使えよ、毒竜。


『うるさい。竜殺し相手にやった汝の小細工と一緒だ。我が毒を使ったらこの地が瘴気所ではなくなるだろうが!』

「さあ、決戦兵器! 竜殺し達を堕落させたあの凶悪なドラゴンを仕留めろ!」

「ギャオオオオオオオオオオオ!」

「おお……さすがはエルフェ様! 素晴らしい! みんな! エルフェ様に続けー!」


 ヴィレイジュの操作を受けてバイオコープスヒュドラがヴェノに向けて瘴気の混じったブレスや魔法を幾重にも放ってくる。

 が、その攻撃は事前にヴェノが唱えていたイグドラシルに阻まれる。

 賛同した者達が合わせて周囲の竜殺しや町の人々へ危害を加えようとしているが、同様の結果になった。


「おのれ! 世界樹を騙る邪悪なドラゴンめ!」

「この罪! 万死に値する! エルフェ様! 早く!」

「私に命令するな! そんな事わかっている! いつまでもこんな防御結界が持つはずがない!」


 焼け石に水とばかりにヴィレイジュ達は精一杯の抵抗をしている。

 けど、俺にはわかる。

 ヴェノの唱えたイグドラシルはヴィレイジュ達の攻撃にビクともしていないと言う事が。


「これは、なんとも凄い……ああ、世界樹様……貴方様の意志を、私達の信仰は間違っていなかった」


 セリスさん達は合わせて祈っている。

 その祈りを吸収してヴェノの唱えたイグドラシルは強固な守りをより頑強な物に変えていく。

 そんな攻防が起こっている最中……五分が経過して魔法が完成した。


「さて……五分過ぎたな。それではヴィレイジュ、貴様の罪、その身に刻むが良い! 超威力撲滅魔法『ソドムとゴモラを滅ぼせし神罰』」


 ヴェノが魔法を発動させた直後、暗雲が空に突如現れ、雲を貫くほどの円柱型の……光の柱と表現出来るバチバチと音を立てる雷が一直線に降り注いだ。


「こんな魔法など、この兵器の防御能力で――」


 ヴィレイジュがバイオコープスヒュドラに命じて防御魔法を発動させた様だけど、ヴェノが唱え

た魔法はそんな防御をモノともせず一瞬で破壊、バイオコープスヒュドラを貫いた。


「な、ぐあああああああああああああああああああ!」

「ぎゃ――」

「が――」

「そん――」


 ヴィレイジュの悲鳴が聞こえ、近くにまだ残っていたヴィレイジュ側に着いた連中が一瞬で塵すら残さず消し飛ばされた。

 その雷が降り注ぐ者を焼きつくす業火として燃え盛るが、魔法イグドラシルがアルリーフさん達は元より、セリスさん達竜殺しを守っている。

 カッと、一〇秒ほどでヴィレイジュが乗ったバイオコープスヒュドラは全身が焼かれ、塵すら残さず消え去っていく。

「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁ……」


 ヴィレイジュの絶叫は途中で完全に消え去り、後には大きな焼きつくされた大きな穴しか残されていなかった。


「ほっと」


 魔法を終えたヴェノが配慮したのか、穴が空いた場所に奥から石が出て塞がっていく。

 同様にバイオコープスヒュドラが壊した町の建物もある程度修復された。


「ふう……スッキリした。我もここまでの魔法を使えて満足である」


 なんかやり遂げたみたいな感じでヴェノが言いやがったぞ。

 俺は見てるだけだったけど、やり過ぎじゃないのか?


『大丈夫だろう。町も出来る限り元に戻した』


 そんなもんかなぁ……。

 さてと、問題は片付いた訳だし、ヴェノ、今度は俺に施された魔法を解く番だ。

 傍観者でいさせられる方の気持ちは分わかるだろうから、早く魔法を解除しろ。

 元の世界に戻るなら少し考えるが。


『ふむ……では解析を……ぐ……魔力が消えていくぞ』


 何!?


『このままでは……うああああああああ』


 バシュッと音を立てて光りと共にヴェノが消えて俺と入れ替わる。

 俺の手にはカルマブレイズが握られている影響か、落下自体はゆっくりだった。

 幸い、どうにか着地。


「ユキヒサさん!」

「ムウウウウウウウウウウウウウ!」


 アルリーフさんとムウが駆け寄ってくる。


「やりましたね! 聖竜様も!」

「ムウウウウ!」

 パァっとヴェノが唱えた魔法で作られた世界樹は光りとなって散っていく。


『うむ……しかし、ヴィレイジュを倒すと同時にカルマブレイズからの魔力供給が切れてしまった』

「また聖竜様の姿にユキヒサさんはなれないのですか?」

「えっと、アルリーフさん? 俺とヴェノは別人なんだけど?」


 もしかしてアルリーフさんってヴェノが人化した姿が俺だとか思ってないよね?

 一応、経緯に関してある程度話をしていたからわかっているはずなんだけど。


「あ……すみません。そう言う訳ではなく、まだ聖竜様の仰る強制憑依召喚が解けた訳ではないって事なんですね」

『そうなるな。そして……』


 ヴェノがこっちに近寄って来るセリスさんの方に意識を向けさせて来る。


「コーグレイがドラゴンだったとはな……」

「ですから、えっと色々と事情があるので言いますけど、俺自身はドラゴンじゃないですよ?」

「だが先ほどの事を見れば……いや、そうでは無いな」

「まだ戦いますか? これだけの被害を出しましたけれど」


 するとセリスさんは静かに首を横に振る。

 それは竜殺し達も同様の様だ。

 と言うか……リフエルの町の人達もぞろぞろと集まって来てるぞ。

 これは……ヤバイか? ここまでの騒動を起こした元凶な訳だし。


『逃げるか? しかし、この包囲網ではな……』


 腰を落として辺りを見渡していると……。


「そう警戒しなくて良い。コーグレイ、みんな貴殿に怒りを覚えて集まっている訳ではない。そうだな……まずは祈らせてくれ。それと謝罪をさせてほしい」


 セリスさんを筆頭として竜殺し達、そしてリフエルの町の人々の半数以上が俺達に向かって祈りを始めた。


「な、なにこれ?」

「えーっと……」

「随分と騒ぎを起こしやがったな」


 そんな所でウェインさんがルリカさんと一緒にやってきた。


「あの……これは一体?」

「そりゃあお前……アレだけ派手に聖竜として姿を現した挙句、世界樹を作り出して町を救ったらそうなるだろうよ」

『む? どう言う意味だ?』

「それはどう言う意味なんですか?」


 俺とヴェノがそれぞれ小首を傾げていると、アルリーフさんが軽く咳をした後、セリスさんも立ち上がって答える。


「まずは聖竜教、文字通り人々を救うドラゴンを信仰する宗教です。その神様に匹敵するドラゴンが町を滅ぼそうとした邪悪な存在を、人々を救いながら倒しました。まさに神様の降臨です」

「次に聖世界樹教、私達の経典にある伝説の奇跡の魔法にイグドラシルと言う瘴気を払い、倒れた者を癒し、人々を守る……唱えられた者がいたら聖人として崇められる伝承が存在するのだ」


 更に追加とばかりにルリカさんが人差し指を立てて補足する。


「で、この町にある三つ目の宗教であるオーヴァール教は聖竜教と聖世界樹教の定義が合わさった様な宗教でね。なんでもとあるドラゴンの名前から捩った宗教名だそうよ」


 オーヴァール教……そういやヴェノの名前はヴェノ=イヴェバールだったよな?


『そうだが……我の名字が似てるからという気か?』


 ヴァールとバールって発音似てるだろ。少し異なるかもしれないけど、聖竜教と聖世界樹教と定義が近いとなると……捩ってそうなっても不思議じゃない。


「挙句、敵を屠る時に使われた魔法は神話に語られる、まさに神罰……術者がドラゴンだったとしても、今回の戦いを見聞きした者は聖人の再来を信じるだろう」


 あー……つまり、ヴェノが使った魔法の数々とカルマブレイズの奇跡がいろんな信仰に引っかかったって事ね。


「本国に連絡し、竜殺しの家族に呪いを掛けていた黒幕はエルフェ殿……いや、真の名はヴィレイジュと言う古いエルフだったと伝えよう!」

「「「おおー!」」」


 竜殺し達は俺達に祈りながら声を上げる。


「じゃあ俺達を殺すとかは……」

「私達をなんだと思っているのだ! ここまでの事してくれた挙句、世界樹を呼び出せるドラゴンを討伐など出来様ものか……むしろ罰せられる立場に私達はある」

『我の気を利かせた魔法がこんな所で役立つとはな、唱えて正解だったであろう?』


 はいはい。

 だが、お前が使いたかったから唱えたと言う事を俺は知っているんだからな。


「いや……気にしなくて良いよ。むしろセリスさん、早く妹さんの呪いを解除しに行かなきゃ。ヴィレイジュの仲間とか派閥の関係者とかがまだいるかもしれないんだし」

「こんな所でも私の方を心配するとは……貴殿はどこまでお人よしなのだ」


 あ、なんかセリスさんに呆れられてしまった。


「聖人様の再来だー!」

「聖竜様ー!」

「伝説の再来だー!」


 感極まった人々が俺に向かって集まって胴上げをしようとして来る。


「うわ! ちょっと待って!」

「わー!」


 なんか凄い事に成って来ちゃったぞ!?


「あ、ちょっと」

「ムウ!?」

「聖竜様と同行している方々ですね! 一緒に行きましょう!」


 そんな訳で、勝利に酔いしれるリフエルの町の人々は俺を見越しにして各々の教会に巡回しながらお祭り騒ぎになった。

 そんなお祭り騒ぎの途中で儀式的な式典になり……俺は改めてセリスさん達と話をする事になった。

 まあ、祈りの像が感染源って事で聖世界樹教の像は現在撤去されていて昨日は封鎖されている。

 ヴェノが後で調べてその機能を検索してくれるって話だけどさ。

 ちなみにウェインさんが患っていた病もどうやら聖世界樹教の像が感染源である可能性が高いそうだ。

 病を発症する数日前に縁あって、知り合いと聖世界樹教の像の近くへ来ていたらしい。


書籍版の「毒使いの逃亡者」2巻が発売されました。WEB連載版ともども応援よろしくお願いします!

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