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七十一話

「そんな……セリスさんも――」


 と、死を決意したセリスさんは剣を掲げ声を高らかにして走り始めた。


「みんな! 行くぞ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 全員汚染された状態であるにも関わらず竜殺し達は各々武器を持って果敢にバイオコープスヒュドラと、その背後にいる司祭達に向かって戦いを挑んでいく。

 町の広場は戦いに寄って崩壊し、家屋が壊されて行く。

 そんな中で戦いに参加していない竜殺し側の人々が倒れている町民達を抱えて少しでも生き残れる様に移動させていく。


 けれど、バイオコープスヒュドラは見た目と違って非常に素早く、ヴェノの毒ブーストが切れた俺では本気のセリスさん達の動きに付いていけない。

 アレで満身創痍って言うのだからどれだけ強いのか……ヴェノ、名のある魔物がどれだけ化け物なのかがわかる。


「う……」


 バイオコープスヒュドラの尻尾の一撃を受けて竜殺しの一人が吹っ飛ばされてピクリとも動かずに仰向けに倒れている。

 まさか……死……!? 

 俺が……この町に来たから、こんな事態になってしまったのか?


『いや、我が強制憑依召喚に抗ったからだ。汝が気にする事ではない』

「ユキヒサさん、聖竜様」

「ムウウウ」


 アルリーフさんがムウを媒体に出来る限りのアロマヒールで竜殺し達を援護している。

 そんなアルリーフさんが俺の肩をゆすってきた。


「しっかりしてください!」

「けど……これは、俺が……居たから、俺の所為で……人が……」

『我らの所為で……』


 誰かを助ける事にうぬぼれていたのかもしれない。

 俺達が関わった所為で……ニスア村の人達は元より、リフエルの町までも……。

 パン! っと頬に僅かな痛みが走る。


「ユキヒサさん、聖竜様、目が覚めましたか? 自身を責めるのはやめてください」

「けど……」

「ユキヒサさんも聖竜様も悪い事などしていません。こんな事を仕出かしたのは……私の村でしたらエルバトキシンと聖世界樹教です。悪いのはこんな事を平然とする者達であり、事が露見したからこそ起こった事。ユキヒサさん達でなくても彼等はいずれ最悪の形でやりました」


 ハッキリとアルリーフさんは……ヴェノの先祖が敵を相手に担架を切った時とそっくりだと思える表情で言い切った。


「セリスさんは真実に気付いたからこそ、ああして死地に飛び込んで行きました。私達がすべきことはセリスさん達の願いを聞き届けて町の人達を安全に逃がす。そして……あの化け物と黒幕を力を合わせて倒す事です」


 間違っていますか? と、アルリーフさんは俺に言い寄る。


「ムウ!」


 ムウもアルリーフさんの言う事が正しいと頷いた。


『……そうだな。まずは人々が少しでも生き残れる様に安全な場所を確保し、あのふざけた魔物を仕留め、術者を始末する事にほかならん』

「ああ……そうだったな」


 うろたえている暇なんてない。俺達だって出来る事がある。


「はあああああああああああああああ!」


 そう、決意を固めて避難誘導を始めようとしたその時、セリスさんがバイオコープスヒュドラの隙を突いて司祭に向かってルミナスブレードを放っている。

 ガキンと音を立てて防壁に遮られたが、大きく亀裂を生んで司祭のベールを大きく切り裂いた。

 返す刃を当てようとした所で、司祭はセリスさんの剣を……素手で止めた!?


「な――」


 当のセリスさん自身も驚きの表情をしている。

 だってセリスさんってこの中で一番強い人だろ? そんな人の必殺技を片手で止められるのか?


『む……?』


 パラッとベールが落ち、司祭の顔が明らかになる。

 そこには皺の入った老齢のエルフらしき人物が蔑む様な眼でセリスを睨んでいる姿だった。


「ここまで来たのは及第点だ。だが、そこまでだ! 私が弱いと思ったか愚か者! 下等な人間め!」


 ゴスッと司祭はセリスさんの腹を殴りつける。

 するとセリスさんはまるで冗談のように5メートルくらい吹っ飛んだ。


「うぐ……く……」

「残念だが私を倒せば全てが収まると思ったのだろうがそうはいかないぞ? ああ、セントユグド国で有数の猛者と呼ばれる者を嬲るのは楽しめると言えば楽しめるか、ふふふふ……」


 皺の入った爺の癖に完全に調子に乗ってやがる。

 いや、セリスさんより強いならお前が竜殺しの代表をしろよ。

 と言う所でアルリーフさんの背負っていたカルマブレイズが今までに無いほどの光を放ち始める。


「うわ!?」

「な、なんだ!?」

「む!?」


 その眩い光に司祭がこっちに視線を向ける。


「そ、その光りは聖剣!? バカな!?」


 セリスさんを嬲り殺しにしようとしていた司祭が目に見えて狼狽し始めた。


「剣が……」


 ふわりと聖剣は浮かびあがり、アルリーフさんの背から離れ……俺の目の前に移動する。

 ……もしかしてこれは持てって事か?

 ゆっくりと手を伸ばす。


「行け! アイツ等を一刻も早く殺せ!」

「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 司祭がバイオコープスに命じて俺達を殺さんと突撃させる。

 バイオコープスは命令に応じるままに俺達の方に向かってきた。


「コーグレイ!」

 スッと、俺はカルマブレイズの持ち手を掴む。

 すると……とある光景が浮かび上がってきた。



 それはどこかの実験施設の様な、それでありながら奥の壁は樹木の様な場所だった。

 そして、その場所に急いで駆けつけてきたのはアルリーフさんの先祖にしてヴェノが信じた開拓の夢を語った男……俺達が知る姿よりも少しばかり老けて見える。

 相対するは偉そうなエルフ。


「待て! ヴィレイジュ!」

「ふふふ……まさかここを嗅ぎつけられるとはな」

「お前は何をしているのかわかっているのか!?」

「もちろん、わかっている。折角再生した世界樹……その恵みを最大限利用しなくては人々の発展は無い。この場にいる者達はそれを理解している。より豊かな暮らしを人々は望んでいるからこそ、悠長にしている貴様から離れていくのだ」


 どこまでも自身が正しいとばかりに胸を張ってエルフは吐き捨てる。


「世界樹の恵みを大事にするのは間違いない。けれど、それは違う! その技術は世界樹を枯らし、暴走させる事に繋がるんだ! これ以上世界を傷つけて何になる! ヴェノの犠牲をなんだと思っているんだ!」

「ふん! 何をたわけた事を……あのバカなドラゴンは豊かになった国を見たいのだろう。だからそれを速めてやっているに過ぎん」


 バッと指で合図を出したエルフに従ってその周りの連中は……機材のスイッチを起動させる。

 すると後ろにあった樹が光り輝く。


「はははははは! わかったか! これが新時代の始まりなのだ!」

「やめろ!」


 急いで駆け寄ろうとした開拓の夢を語る男だったが、ヴィレイジュは止める気配は無い。

 変化はすぐに現れた。光が黒い邪悪な光りとなって明滅し始める。


「何!?」


 ぐらぐらと地震の様に辺りは揺れ始め、計器の全てが針を振り切っている。


「止めろ!」

「と、とまりません! 臨界に達します!」


 邪悪な光が辺りを埋め尽くし、開拓の夢を語った者達を初めとした全ての人々が弾き飛ばされる。

 その光の中で……ヴェノによく似たドラゴンの影が何処かへと飛び去って行った。

 唯一の救いは爆心地にいた人々を守る様に残された光が動いた事だけ。

 瘴気と呼べる代物が国に蔓延し始め、どうにか生き残れた人々は避難を余儀なくされた。

 そんな中で……盗人猛々しくヴィレイジュは自らの派閥の者達と口裏を合わせ、全ての原因を開拓の夢を語った男に擦り付けた。


「この非道な計画はコイツが主導で進められた!」

「違う! お前達がやった事だろうが!」

「何を言う! 私達は被害者だ! にも関わらず責任を擦り付けようとは! とんでもない奴だ! 夢を語る夢想家め! お前の所為で世界中で住処を追われた人々が出たんだぞ!」

「そうだそうだ!」


 もちろん開拓の夢を語った男を信じて付いて来てくれた人達もいたが……それは悲惨と呼べる悲しい旅だったのは言うまでも無い。

 意気消沈し……開拓の夢を語った男はカルマブレイズに背を預けて呟く。


「大丈夫……俺達はとても辛く、酷い事に巻き込まれたけど、それは最初に戻っただけだ。また……ヴェノに土地を貸してもらった時の様に、みんなでがんばって住む土地を築いて行けば良い。アイツ等が羨む様な素敵な国を……ヴェノが望んだ夢の世界を今度こそ作ろう」

 ただ……と、開拓の夢を語った男はカルマブレイズに言葉を続ける。


「ヴェノが目覚めた時に裏切られたと思われるのだけは、イヤだな。アイツ、凄く良い奴だからさ……俺達の代でダメでも、綺麗になった世界を見せてやりたいんだ」


 その願いは叶ったのかは今を見てもよくわからない。

 俺は世界を知らないし、ヴェノも人の世に関わって居ない。

 逃亡生活だったけど、そんなに沢山の世界を見ていない。

 瘴気が溢れて人の住める土地は少なく、先祖の直系であるアルリーフさん一家だって、辺境の毒の沼地近隣で細々と住んでいた。


 けれど、そんな日々をカルマブレイズは見ていた。

 彼の想いを俺達に見せてくれた。



 そういえば……なあ、ヴェノ?


『なんだ?』


 カルマブレイズってどんな剣な訳? これ一本だけなの?


『それをここで説明しなくてはいけないのか? まあ、簡潔に言うとカルマブレイズは一本では無い。我も小娘が持つ剣の本当の名は知らぬが何本もあるそうだ。そして、英雄に値する人物が罰すべき敵を相手にした時に作動する。不可思議な剣でもあるな』


 説明するヴェノの言葉に俺も納得する。

 詳細を語ると、とある古い神殿に英雄に値する人物が来訪すると祭壇にいつの間にか安置されているそうだ。

 そもそも英雄の剣があるはずなのに、なんで強制憑依召喚やこんな化け物兵器が産み出されているんだ? 人々が英雄を求めるのなら、伝説として残っているだろう?

 そんな勇者が世界を平和にすれば良いんじゃないか?


『どうなのであろうな? 我も今、その神殿がどこにあるのかを知らん。だが、竜殺しがその手の武器を持って居ないのは奇妙な話なのも事実……まるで不要だと切り捨てる為に強制憑依召喚や名のある魔物を継ぎ接ぎにして兵器にしている様に感じる』


 やはりそうか……俺の読みだと、聖剣が存在する事が都合の悪い連中ってのがいるんだろうさ。

 そして、その一人をこのカルマブレイズは見つけたんだ。


 フッとそんな光景が掻き消え、バイオコープスヒュドラを司祭がこっちに命じて攻撃させようとする光景に戻った。

 でだ……司祭の顔が、皺が増えて面影すらないけれど、ヴィレイジュの幻影と重なって見える。


「早くそいつを殺せ! 聖剣を作動させるな!」


 ああ……なるほど。


『我もわかったぞ。あー……テステス』


 ヴェノの声が一際大きく聞こえる。


「な、何!?」

『こんな所に居たのかヴィレイジュ……よくもまあアヤツを出し抜いて我等に罪を被せて好き勝手な事が出来たものだな。そんな法衣で聖剣と我の目を欺いていたのか』

「貴様……まさかヴェノ=イヴェバール!?」


 司祭が……いや、確かエルフェと言う名はヴィレイジュの偽名で間違いない様だ。


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