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七十話

「行け」


 司祭がここで小さく喋るのを俺は聞き逃さなかった。

 今までの怒声じゃない。何らかの意図が混じっている。

 呼応したのか、非常に怪しい状態で後方にいた魔法使いが数名、人の列で見えない所から俺目掛けて魔法を放った。

 絶対タイミングを狙っていただろ! そう言いたくなる絶妙の瞬間だった。


「おのれ!」


 セリスさんが決闘の邪魔をされたのを激怒して片眉を上げて司祭の方を睨んですぐに、俺に目を向けた。


「コーグレイ! 避けろ!」


 俺は降り注ぐ魔法の雨の中を潜って行く。

 うん。弾道をなぞるだけ、奇襲で放った物だから予測通りに飛んでくる。

 爆発に注意をすると同時に、魔法を避け切る。

 しかし……。


『気を抜くな!』


 隠れて放った魔法が避けられた事を察した司祭が大々的に配下の者に続け様に、広範囲爆発魔法を指示していて、次の攻撃が飛んでくる。

 これを避けるにはどうしたらいいか……そう思った所で俺の前にセリスさんが立って、飛んでくる魔法を切り飛ばした。


「はぁ!」

 うお! 地味に凄い技術持ってるな。


『マジックパリィと言う技だな。使いこなすのは相当難しい技だが、コイツ……確かに竜殺しの代表をするだけの腕は持っておる。無論、人にしては……が付くがな』


 セリスさんは司祭の方に剣を向け、今までよりも遥かに強い……何かを全身から放っている。

 一目で怒っているとわかった。


「神聖な決闘をここまで侮辱するとは……貴殿等とコーグレイ、どちらに義があるのか。これで皆も理解しただろう!」


 ガクッと剣を支えにして、誇り高くセリスさんが言い放つ。


「人々を死地へと追いやる卑劣な術者にとって、何が困る事か……それはもちろん、仕組んだ呪いが機能しない事。その呪いを解除出来るコーグレイを消す事に躍起になった貴殿達を私はしかと見据えた!」

「何を錯乱している! そのような奴に神聖な決闘をするのがおかしいと言うのだ!」

「どこがおかしい! コーグレイはレンジャーであり、本来はとてつもなく強力な……私達ですら扱いに困る毒を使いこなせる逸材! そのコーグレイが私との決闘に置いて毒を使用せずに私を追い詰めた……ならば私もコーグレイの信頼に応えねばならない!」


 フラフラしているセリスさんが司祭に剣を再度向け、振りかぶる。


「セントユグド国聖世界樹教所属代表、エルフェ殿……竜殺し部隊隊長セリス=アーノルが問う! 貴殿が聖世界樹教徒の家族に呪いを振り撒く邪悪な存在であるか否か! 答えてもらうぞ!」

「事もあろうに私にそのような暴言を! 所詮は下賤な人間か!」

『この台詞……ふむ、どうやらコヤツは人間ではないのだな。そしてこの言い回し』


 自らの種族の方か高尚……どっかで聞いた話だな。

 とはいえ毒が回っていて地味にきついんだが。

 う……徐々にヴェノの毒に馴れて来て傷が治って行くけれど合わせて能力上昇が低下していく。

 傷は治ったが失った体力までは回復しきれないか。

 装備している皮鎧のお陰で少しずつ回復はしているけど、やっぱりきつい。


「絶対に許されんぞ! 私の権限にて命ずる! セリス=アーノルを竜殺し代表の権限を剥奪する! さあ……そこにいるドラゴン一味を殺せ!」


 セリスさんと司祭の言葉に先ほどまで戸惑いを見せていた竜殺し達が揃って司祭の方を睨みつける。


「なんだその目は! 何が真実であるか貴様等はわかっていないのか!」

「今、この場にいる高潔な精神を持つ者がどちらなのか。そんな答えは一つしかない」


 それはセリスさんの仲間であり、家族に施された呪いを解いた竜殺しが俺達を守る様に立つ。


「この状況に置いて、真実が明るみになって困るのはどちらか。コーグレイ一行の言葉が真実であるのならば誰でもわかる。何より、セリス様との戦いを見て居れば彼等が何のために戦ったのか、何故逃げるかは明白!」

「我等の家族が助かる芽を守る為」

「捕まったらドラゴンと断じられ、救う手段が消えるからこそ、絶対に捕まる訳には行かない」


 同様に一人一人、竜殺し達が揃って俺達を守る様に司祭達へと立ちはだかった。


「エルフェ様、どうしてもコーグレイを捕縛したいのでしたら、まずは我らの大切な者に施された呪いが、コーグレイの証言とは異なる事を証明してからでも遅くは無い」

「にも関わらず、ここまで必死に止める貴方の言動は、邪推しか生まない事をご理解すべきだ」

「今はコーグレイ一行を捕える時ではない」

「私達は魔女狩りに来た訳ではない」


 竜殺し達の中で、決闘の末に出た答えがこうして形となって現れた。

 なんとも凄いもんだな。これが家族を救う為に戦ってきた人達って事なのかな?

 俺はどうにかしてセリスさん達に諦めてもらって逃げる作戦を考えていた。

 具体的には地面をアルリーフさん辺りに魔法で壊してもらって下水道から逃げるとかだけど。


「そいつはドラゴンなのだぞ! 竜殺し達よ! 利用されているのがわからないのか!」

「フッ……例えコーグレイが本当にドラゴンだったとしても――」


 セリスさんは剣を大きく振りかぶり……。


「私は私の家族を心配するコーグレイを信じる! それが……人という物だ!」


 ズバァっとセリスさんの剣圧が司祭に向かって放たれる。


『ふむ……竜殺し共も愚かでは無いと言う事か。この様な状況でも自身の信じる宗派が正しいと言い切るかと思ったがな。さすがの我とて認識を改めるというものだ』


 どこまでも真っ直ぐな人って事なんだろうな。


『否定はせん。真っ直ぐ過ぎて闇に落ちそうで怖いモノだ……いや、既に闇に利用されていたと言うべきか』


 ガキンとセリスさんの放った剣圧は司祭の前に出現した魔法の障壁に阻まれる。


「愚かな……実に愚か過ぎて腸が煮え繰り返る! 下等な存在の分際で異議を申すか!」


 頭から煙が出るほどの怒りに満たされた司祭っぽい奴が大声で怒鳴った……かと思ったら怒りに震えるのをやめ、顔を逸らしながら言う。


「もう良い……愚かな選択をした者達には相応の報い、神罰が下るのは決まっている。このリフエルの町民共も理解するのだ。この愚か者共の所為でこの町が滅ぶと言う事をな!」


 ゴロンと……俺達の方に向かって大きな球体上の何かが転がされてくる。

 なんだこの球体……なんかカウントを始めている様に見えるけど……。


「む!?」


 その球体から眩い光が辺りを照らしたかと思うと……そこには巨大な……継ぎ接ぎだらけの首を持つ化け物が現れた。

 全長は一〇メートル。蛇や恐竜、ドラゴン、ワイバーンの頭をそれぞれ持ちどっしりとした恐竜の様な体格、幾重にも伸びる尻尾……形容し難い謎の竜が俺達の前に立ちはだかった。


 バイオコープスヒュドラ


 ヴェノの解析能力ではそう表示された。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「これは!? まさか」


 セリスさん達が出てきたバイオコープスヒュドラに向かって驚きの声を上げる。


『ふむ……随分と滑稽な……様々な名のある強力な魔物の死体を繋ぎ合わせてこの様な化け物を作り出すとは、呆れたモノだ』


 ヴェノが淡々と呟く。その声には冷たさと底知れぬ怒りが含まれている様に感じた。


「見覚えがあるか! そうだ、お前等が倒した魔物共の死体をこうして組み合わせ、更なる戦力として組み込んだ兵器! この生態兵器さえあれば竜殺し共など不要! お前等全員、殺すべきドラゴンに返り討ちに遭ったとして全滅するが良い!」

「語るに落ちるとはこの事だ……」


 こんな化け物を作って正しいなんて誰が言うんだろうか?


「知った事では無い。ここで何が起こったのかを言える者はいないのだからな!」


 同時に天高くバイオコープスヒュドラは何かを吐いた。

 なんだ? 先ほどと同じく球体だぞ?

 ピッと俺の視界に何を吐いたのか明らかになると同時に司祭共が魔法の結界の様な物を展開する。

 瘴気弾。


『む!? これは小娘の先祖の記述に記されていた瘴気爆弾!?』


 そう表示された爆弾が空中で炸裂し、俺達を含め周囲に閃光が炸裂した。

 ちりちりと光りに当てられ皮膚が……焼けないな。回復しているのがわかる。


「あぐぅううう……」

「うああああああ……」

「ううう!?」

「ムウウウ!」

「ム、ムウちゃん……」


 だが、俺は無事だけどセリスさんを含め、アルリーフさんまで苦しみ始めた。

 ムウがアルリーフさんを庇い、兜を盾にして守っている。


「アルリーフさん! 大丈夫!?」


 ピンと音を立ててアルリーフさんの周囲を守る様にカルマブレイズが僅かに光りを放っている。


「わ、私はどうにか……ケホ、大丈夫ですけど……」

「ゲホ……」

「く……」


 周囲にいる人々の表情がどんどん青ざめて行くぞ。


『瘴気爆弾だ。今、このリフエルの町を覆う様に土地が大規模に汚染された。このままではこの町は人が住めない土地と化すぞ』

「そんな!?」

「エルフェ……貴様……」


 セリスさんが剣を支えにして眼光だけで司祭を睨む。


「こんな真似をして、セントユグド国は元より、世界中が許すと思っているのか!」

「ふん。死ぬ逝く愚かな竜殺し達とこの町の下賤な者が真実を話せると言うのか? ここで起こったドラゴンによる災害で誰ひとり生き残れないと言うのに……」

「町一つを潰すほどの口封じか……」


 平然と立っている俺に司祭は結界の中で眉を寄せる。

 目撃者は元より、この町全ての人々を殺すつもりなのだろう。


「お前等下等な人間にはわからないだろう!」


 司祭は自らが作り出した代物を披露するように大々的に言い放つ。


「世界樹を再生させる事は私達の使命であるのは変わらない。が、まず邪魔なのは瘴気から生じる魔物共とその王の存在……世界樹を再生させるのにコイツ等を駆逐せねば何も始まらないだろう?」

「状況次第だと思いますが?」


 ブラック企業にも居たな。

 自身に割り振られた仕事を部下に優先してやらせる事を第一に考えていた無能上司。

 世界樹再建を最優先しながら襲ってくる魔物の討伐も併用してやって行けば良いだろう。

 なんで魔物を倒す事だけ優先してるんだよ。


『ああ……つまりアレを作りたかったのだな。アレさえあれば世界征服すら出来る権力にもなるのだろう』


 建前は世界の為と言いながら実態は世界よりも自身の立場を優先しているのがわかる。


「人々はか弱い……だからこそ、強力な魔物共の力を意のままに操り、戦わせるのが人化魔法などよりも効率的なのだ。何せ命中させる必要が無い」


 確かに強制憑依召喚って前提が面倒そうだもんな。

 ヴェノ並みに力が強いと逃げられるみたいだし、警戒されて遠距離で戦ったら人間なんてひとたまりも無いんだろう。


『愚かな……本末転倒だと言う事を理解しておらん。人々の生活を守る為に人々を傷つけてどうすると言うのだ……』

「ゲホ……それでも私達は、諦めない!」


 セリスさんが声を上げて皆に渇を入れる。


「コーグレイ、貴殿達は無事な様だな」

「あ、ああ……けど、セリスさん達は」

「気にするな。これは私達が選んだ結果……まさかこの様な真似をされるとは……少しでも町の人々をあの愚かな者からの被害から救いたい。コーグレイ、この瘴気による汚染を防ぐ術は無いか?」


 ヴェノ、どうなんだ?


『手間は掛るが無い訳ではない』

「非常に難しいですが、あります」

「そうか……ならば私達が精一杯足止めを行う。その間に町人達を少しでも逃がし、汚染から助けてくれ!」

「セリスさん達は……」

「……」


 ここでセリスさんは無言で司祭達の方へと顔を向ける。

 元より助かるつもりはない……と言う事か。


「コーグレイ、すまないがもしもこの地から逃げ伸びる事が出来たら、セントユグド国のニーズ村にいる私の妹をどうか……助けてやってくれ」


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