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六十七話


『む……こいつらいつの間に……』


 ヴェノの認識範囲はあくまで俺の感知できる範囲から少し大きい程度らしい。

 これも強制憑依召喚の影響なのはわかっているが……。


「お前達は……一体どうした? 何かあったのか?」


 セリスさんは周りの者達が知り合いであるのか疑問を浮かべながら尋ねて来る。

 それは周りにいる者達も同様と言った態度の者達もいる様で各々見合っている姿が確認出来る。


「大層なお迎えですね」

「いや……さすがにこんな仰々しく私を迎えに来るような事は無いはずなのだが……」


 そう言いながらセリスさんは団体の代表らしい白い聖職者服みたいな服装の奴の元へと近づいて行く。顔にはベールが掛けられていて、男か女かすらわからない。


『随分と魔法防御が高い装備を付けておるな……解析出来んぞ』

「これは一体どんな事態なのだ?」


 老人っぽいくぐもった声が聞こえて来る。


「竜殺しの勇者セリスよ。それはこちらの台詞だ」

「何?」


 なんか温度差というか仲間内での連携が取れていないって印象があるぞ。


「どう言う事だ」

「どう言う事も無い。貴様ともあろうものがわからないと言うつもりか!」

「説明を受けねばわからないものはわからん!」


 苛立ちを露わにするセリスさんに聖職者風の奴が……俺を指差して言い放つ。


「何故ターゲットが目の前にいると言うのにドラゴン殺しをしない!」

「は……?」


 場の空気が凍りつくのを、俺達は感じていた。


「そんなバカな。ふざけた事を言うのは大概にしろ」


 セリスさんがそう、聖職者風の奴に告げる。


「コーグレイがあの巨悪であるドラゴンだと! そんな事がありえるはずがない! どこにドラゴンだという証拠があるんだ!」


 セリスさんが力強く俺を擁護してくれている。


『誠にまっすぐな奴だな。誰かに利用されているとしても好感が持てると思えるぞ。しかし……』

「これが証拠だ!」


 そう言って聖職者風の奴は後ろにいる魔法使い達と一緒に魔法の詠唱を始め、杖を掲げる。

 すると杖から強い光が放たれて俺達を照らす。


「うぐ……」


 体が痺れる感覚と共にみんなの足元から延びる影の一つ……俺の影が大きなドラゴンを映し出す。


『ぐ……これは、強制憑依召喚の魔法密度が強まった!?』


 それって居場所がバレるけど奥の手すら使用不可能にしたって事なのか!?


「ユキヒサさん!」

「ムウウウ!」


 アルリーフさんとムウが苦しむ俺に駆け寄って支えてくれる。


「更に痕跡を辿る術式でもそこにいる者が人間に変化したドラゴンだと証明している! これでもわからないと言う気か!」

「そんな……いや……しかし……だが……」


 セリスさんは真っ青な顔をして数歩後ろに下がる。


「コーグレイが、ドラゴン……? では……いや、そんなはずは、だが……司祭様が嘘を言うとは……」

「セリス様……」


 同様に信じられないとばかりに追跡者達の一部は顔を見合わせて迷いを見せている。

 母親を呪いから解き放ってもらった男は、セリスさんよりも目に見えてわかりやすい様子で辺りを見ていた。


「では竜殺しの勇者セリスよ。そこにいるコーグレイ……いや、ドラゴンの罪状を教えてやろう」


 司祭様と呼ばれた聖職者風の男は鬼の首を取ったかのような表情で俺を指差して語りだした。


「そのドラゴンは私達の術式から逃亡後、ニスア村周辺に逃亡、ブラッドフラワーを蔓延させ周囲の村に疫病を振り撒いた後、救世主面をして自身がばら撒いた疫病を根絶。同様の手口で使い魔、エルバトキシンを近隣のダンジョンに配備して無関係を装いながらドリムスヴォイタを蔓延させて掃討しギルドから金を略奪した後に逃亡を図ったのだ!」

『どこまでも想像通りの筋書きで我も呆れ果てるという言葉しか出んぞ』


 まったくその通りだな。

 しかし……この過負荷、かなり厳しくないか?

 一応朝食にアルリーフさんが作った毒料理を少し啄ばんでいるから能力が上がっているはずなんだが、拘束が強い所為でプラスマイナス0の状態に落とされているぞ。

 こんな事も出来るのかよ。

 強くなって返り討ちにするとか考えていたけど、不利過ぎるだろ。勝ちの眼なんて全くない。


「更にこのリフエルの町に来たドラゴンは町に溶け込もうとギルドで下水道の魔物の駆逐を行って信用を得ようとしている! 一刻も早く対処せねば無数の死者が出るのは明白だぞ!」

「嘘です! ユキヒサさんはせ――」

『小娘! 自制しろ! 我がいる事を話すな!』

「――い一杯みんなの為にがんばっただけです! 不当な罰を受ける様な真似なんてしていません!」

「ふん……ニスア村でドラゴンに連れ去られた娘とはお前の事だな。ドラゴンに騙された愚かな邪教徒が。それがドラゴンの卑劣な策略だと何故思わない! 竜殺しの勇者セリス! 何を迷っている! ドラゴンは目の前にいるのだぞ!」


 司祭って奴に怒鳴られつつセリスさんは俺を信じられない者を見る目で見つめて来る。

 が……。


「司祭様! 話をお聞きください! 私達の大切な家族達に掛けられたドラゴン由来の呪いは、私達が転職の際に利用する信仰像に悪しき者が仕掛けた人間の仕業だったのです! ドラゴンの捜索も大事ですが、家族に掛けられた呪いを解いてからでも――」

「先ほど私が言った事を忘れたのか! このドラゴンは同様の手口で自作自演をして信用を得ようとする! ニスア村で疫病をばら撒いたのだぞ! あの後の村がどうなっているかわかっているのか!」

「!? お父さんとお母さんがどうなったんですか!」


 アルリーフさんが怒鳴る。


「あの村の者達はドラゴンを信じ込み抵抗した! その所為でドラゴンが仕込んでいた呪いが起爆して半壊したのだぞ! その症状はセリス! 貴様の妹と同じだ!」


 くそ……ニスア村でコイツ等暴れ回った挙げ句、呪いまで振りまきやがったのか!

 ヴェノの所為で呪いが発生した事にして改宗まで促そうとしている。


「バカな……では……全ては信用を得る為に……」


 被害を報告してセリスさんは俺の方に目を泳がせながら剣を抜いて構え始める。


「そんな……」


 アルリーフさんは強く目を瞑ってから……司祭に向かって杖を向ける。


「どこまでも都合の良い嘘を……私達の先祖が貴方達聖世界樹教にされた事を忘れた事はありません! でっちあげるのは……いい加減にしてください!」


 だが、アルリーフさんを含めたニスア村の人々は聖世界樹教……セントユグド国に関して強い不信感を抱いている。

 俺達が去った後にやってきた連中が呪いを振り撒いた事を明確に理解しているし、改宗なんて出来るはずもない。


「真実を知って尚、ドラゴンの味方をするとは愚かな娘だ!」


 司祭がアルリーフさんに吐き捨てる。


「ユキヒサさん、コーグレイ様の知恵を、私は……私達ニスア村の人達は信じています。貴方の行いは絶対に間違っていないと」

『小娘……』


 ヴェノの事を言うなと注意されたからアルリーフさんは敢えて名字で呼んだ。

 これは暗に聖竜様と言っているんだ。


「ええ、私は聖竜教徒、世界樹を蘇らせ、その贄となって人類を存続させたドラゴンを信仰する者です。悪しきドラゴンだって世の中にいる事は知っていますが、ユキヒサさんが行った事が貴方達の様な卑劣な行いではないと信じています!」


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