六十四話
「おーし! お前等! 今日から本腰を入れて叩いて行くぞー!」
「「「おおおおー!」」」
大きな鍛冶場に到着したウェインさんは凄く威勢の良い声を出して鍛冶場の筋肉質な人達に命ずる。
筋肉質な人……弟子達はウェインさんの復帰を喜び、テキパキと俺達が持ってきた鉱石などを運んで行く。
インゴットとかにして武具にしてくれるんだろう。何が出来るか今から楽しみだ。
「んで、まずは誰の武器から作る? コーグレイの得物は既に設計図と試作は出来てるから待っていろ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「気にするな。それ以外で何を優先するんだ?」
「それじゃあ今回の鉱石調達で剣が痛んでしまったセリスさんに武器を作ってくれませんか?」
「ああ、わかった。セリス。それで良いな?」
ウェインさんがそう尋ねているのに、セリスさんはボケっとした表情のまま何も言わない。
「おい? どうした?」
「え? あ、すまない。考え事をしていた。好意に甘える事にしよう」
「んじゃ、前にお前が頼んだ剣をより良くした奴を打ってやる、楽しみにしていろよ」
と言う感じでウェインさんはその日、鍛冶場でガンガンと音を立ててハンマーを振り続けていた。
採ってきた鉱石を溶かすのに鍛冶場の機材でもかなりの時間を要する物なのだそうだ。
魔法的加護も施すとなると更に手間暇が掛かる。だからこそ武具の値段って高いのだとか。
「それじゃあ俺達は武具が出来るまでの間にギルドの方へ行ってますね。下水道の件の追加報告をするので」
「行って来い」
「では……私も少し出かけて来よう」
と言う訳で俺達はウェインさんやセリスさんに別れてギルドに行った。
ある程度時間を経過させての再訪問だったので報酬の金銭の追加を貰う事が出来た。
しかもウェインさんの復帰は町に更なる活気をもたらすとの事で、係員も表情が明るい感じだった。
満額の支払いをされるまでに情報は小出しにするとの事で、今回は下水道ダンジョンの発見とボスネズミの居た巣に邪悪な職種の者達の遺品があった事を証拠としての品々を提出して渡した。
この事実を理解したギルドの職員は表情を変えて真剣な様子で事を受け止めている様だった。
まあ、壊滅しているので問題は無いと思えるけれど……と。
「では受け取り下さい」
「受け取る事は可能ですが、買い取り額は安く見積もってしまいますよ? コーグレイ一行は名工ウェイン様と親しい間柄との話、この品々はウェイン様に買い取って頂いた方が良いかと存じ上げます」
「ですが……よろしいので?」
「はい。しっかりと確認させて頂きました。後ほどその遺骨がある場所に案内を寄こすので連れて行って頂ければ品はお持ちになって結構です」
そうは言われても、破損品だしなぁ……修理できる次元じゃない。
『だが、あの鍛冶師達の腕は中々の物だ、汝等に良い品に改良してくれるかも知れんぞ』
まあ、そうなるか。
「わかりました。では受け取って置きますね」
他に銀貨や金貨なんかも一部を提出したが他は受け取って良いとの事だった。
扱いとしては下水道に居た魔物を俺達が倒した扱いだかららしい。
まあ、俺達が倒さなかったら魔物の巣にあった訳で、誰も手にしていなかった訳だから当然なのかもしれない。
ウェインさんへの武具代の足しに出来そうかな。
それから俺の案内でギルドに雇われた職員と一緒に下水道に向かった。
で、俺の案内の元、安全な道を通ってキングボスラットの巣にあった骨や他のガラクタ等を確認させる。
職員はヴェノ曰く、鑑識と言う魔法で証拠を取っていた。
「あの下水道が本当に静かに……」
「あ、そこらで転がっている丸い物と三角形の物は絶対に口に入れてはいけませんから、死にますよ」
どうやらアルリーフさんの料理こと食物達は腐って活動を終えたらしい。
所々に点在している。ただ、形自体はまだ残っているのが恐ろしい所が。
動かなくなっては居てもカビている様子が無い。
『変異しない事を祈るばかりだな』
はは……掃除はもう勘弁してくれ。
色々と実入りの多い結果を受けてギルドでは俺達は温かく受け居られ、追加の報酬までしっかりと頂く事が出来た。
冒険者達に告知する一般開放までに一部の冒険者で調査を行うそうだ。
それが終わったら下水道が正式に解禁されるんだと、それよりも少し前にヴェノがマッピングした毒ガス等の危険な代物が籠りやすい区域を教える予定である。
なんて景気の良い結果に終わってウェインさんの家に戻った後。
セリスさんは考え込む様に案内された客室に直ぐに行ってしまった。
そんなセリスさんの様子を小首を傾げつつウェインさんが俺に分厚い本を投げ渡す。
「これが家に伝わる資料とこの近隣に住んでいる奴等に集めさせた先祖の資料だ。それが欲しかったんだろ?」
「あ、ありがとうございます」
俺は分厚い本を持ち上げてヴェノに空間魔法で納めさせて渡す。
『うむ……解き方は前回小娘の所でもらった資料でだいぶわかるぞ。む……アヤツの壮大な愚痴が書かれておる……面倒な』
アルリーフさんの先祖の愚痴って……結構善人っぽい人物だったけど、その人の愚痴か。
そんな物を遺してどうするんだ? ヴェノに聞いて欲しかったのか?
『そうかも知れんな』
そりゃあ経緯を聞いたら悲惨だもんな。愚痴を言わなかったら聖人にも程がある。
『おい、アヤツの遺した記述を見ていたら面白い名を見つけたぞ。我とアヤツに全責任を擦り付けた奴の名をな』
ああ、アルリーフさんが語った話の詳細か。
『我も心当たりのある奴の名でな。正直に言えば成り行きで我等の派閥に居ただけの左遷させられた厄介者だ。上手い事波に乗り、権力を得た所為で本性を現したのだろう』
だから……そんな犯人がわかっても今はもう死んでるだろ。子孫ならありえるけどさ。
アルリーフさんの先祖がヴェノに復讐を頼んだのかなぁ。
『犯人はな――あの時代ではハイエルフのヴィレイジュと名乗っておった』
「アルリーフさんの先祖を嵌めた犯人はハイエルフのヴィレイジュと言う人物だったらしい」
「そうなのですか?」
「ほー……セントユグド国の方で聞いた様な気がするが随分と昔の人物じゃなかったか?」
ウェインさんが手がかりとして教えてくれる。
またセントユグド国か。ワザワザ行ってヴェノの復讐をするよりもまずは……強制憑依召喚を解除させた方が早そう。
『そうだな……我も事が終わってからじっくりと奴の痕跡を捜索しようではないか。手厚く葬られておったら墓を消し飛ばしてくれる!』
何かヴェノが死人に鞭打つ事を言っている。気持ちはわかるが落ちつけ。
しかし……ハイエルフか。ヴェノの言う通りこの世界のエルフって傲慢な種族らしいし、出来れば関わらない様にして行きたい。
ともかく、ヴェノが見た資料ではまだ強制憑依召喚を解く為の資料が足りないって話だった。
まあ、このまま逃亡し続けて資料を集めて行きたい所だ。
そんな訳で俺達はウェインさんに素材を渡し、武具の新調を正式にお願いしたのだった。




