六十三話
「……」
それからセリスさんは何やら考え込んだ表情をしたまま俺達の旅に同行を続け、リフエルの町に戻りウェインさんの家に到着した。
「ただいま帰った……」
力無くセリスさんがウェインさんの家の扉を叩いて呟く。
応対した明るい表情のルリカさんはそんなセリスさんに首を傾げながら俺達の方を見た。
「途中で立ち寄った村で呪いに掛けられた人をウェインさんの様に治療をしてからこんな顔をしているんだ」
「はあ……それよりおじいちゃんを見てください」「何かありましたか!?」
病が再発したのか!?
バッと空気を察したのか、セリスさんが顔を上げて急いで家の中でルリカさんが誘導する部屋へと向かう。
するとそこは鍛冶場で、ウェインさんがムキっと筋肉を振るわせてポージングをしていた。
「おお! 帰って来たか! どうした?」
その言葉をそのまま返してやる! おいジジイ、何か異常があったんじゃないのか!
「ムー!」
ムキっとムウがモノマネを始める。
「……えーっと」
俺達はルリカさんの方に目を向ける。
「これまで動けなかった分、体力と欲求があり余っていて元気過ぎます。どうにかしてください……」
ガクッと俺達は脱力をせざるをえなかった。
「で、収穫はどうだった? 一応、物の設計と下準備は出来ているぞ。徹夜でテキパキと動ける!」
……うん。ウェインさんはアルリーフさんの親戚と言うかおかみさん系な人だってわかった。
この人、健康になったら体力の化け物だ。
「えーっと……それじゃあ……」
そんな訳で俺達は倒した鉱石系の魔物や採掘をした鉱石とかをウェインさんに差し出す。
「おお! 随分と大物を仕留めてきたみたいだな」
「ええ、この一番良いサーフクリムはセリスさんが仕留めてくださいまして、彼女の為に一番使ってください」
「わかった。こりゃあ腕が鳴る!」
なんて感じでウェインさんが見た素材からより鍛冶場に復帰する事を決めた様だった。
ルリカさんが若干疲れた顔をしているけれど、その表情は晴れやかだ。
祖父が元気過ぎて嬉しいのだろう。
俺達はその足で鍛冶場へと団体で向かう事になった。
ウェインさんはセリスさんにどんな武具を作って欲しいかとか聞いていたし、俺達の武具に関してもかなり考案してくれていた。
ああ、既に防具は作ってくれていたよ。
鍛冶場に行く前に支給された。
エルバレザーコート(毒) 品質 最高品質 必要Lv45
付与効果 装着時猛毒 低確率で装備者にブラッドフラワー、またはドリムスヴォイタ感染
魔力増強(中) 水耐性(大) 自己修復 クローキング 隠蔽技能向上 足音軽減 気配察知 呪い耐性(中)
毒イモリ、エルバトキシンの皮を解毒せずに、クロコゲーターとキングボスラットの皮と合わせて縫い上げた代物。
装着者の魔力を糧に皮から毒が滲みだし、装着者を蝕む。
その代わり、解毒する事によって劣化してしまう素材の持ち味を限界以上にまで引き上げた代物。
生半可な金属鎧よりも防御性能は高く、装着者の魔力を吸って自己修復可能。
命を取るか強さを取るかを選択する強力な防具となっている。
コートと名が付いているけど皮鎧みたいだ。ちょっと襟がエルバトキシンの襟巻きっぽい。
俺がレンジャーっぽい技能持ちだから軽くて動きやすい皮鎧にしてくれたらしい。
なんて言うか今までの装備と比べると随分と強力になっているんじゃないか?
少なくともスモークアーマーよりも遥かに高性能だ。
『本来は装着時猛毒などのマイナス要素の所為で着用すら出来ない代物なのだろう。その欠点が全てを台無しにする典型だな』
猛毒は元より疫病に感染しかねない程のヤバイ代物なんだけど、後者二つの病は俺に感染した事が無い。
しかも猛毒はパワーアップした猛毒吸収のお陰で俺自身の能力を更に引き上げる事が出来る。
試しに着用したら体力が回復する様なじわっとした温かさを感じた。
少しずつだけど毒も補充されている。
難点は魔力の自然回復が少し遅れる所くらいで総合的な防御力はスモークアーマーが霞むほどの性能だ。
今まで以上に体が軽く感じられる。
毒の沼地を動き回っていた頃の様な軽さで動けるようになった。
もちろん絶対に俺以外が着用してはいけないと厳重に注意されている。
こんなの装備したら間違いなく普通の人だったら死ぬだろうなぁ。
で、アルリーフさんの方はエルバトキシンやウルフ、ネズミとかの素材をどう加工したのかよくわからないけど、綺麗な法衣を渡された。
パッと見は今まで着ていた服とあんまり変わらないけどさ。
ウェインさんって鍛冶師だよな? そう思っているとルリカさんが手伝って作ったそうだ。
エルバキングレザーブレッシングドレス 品質 高品質 必要Lv55
付与効果 毒耐性(中) 瘴気耐性(中) 魔力増強(大) 魔法操作補正 詠唱短縮(弱) 犠牲者の声(微)
毒イモリ、エルバトキシンの皮をしっかりと解毒し、限界まで薄くした皮と複数の毛皮で裁縫した戦闘用のドレス。
装着者の魔力を吸って毒と瘴気を跳ね返す力を持つ。これを着用すれば薄い瘴気の場所でもガスマスクなしで活動可能。
ただし装着者には死者の声が僅かに聞こえる様になる。その代わりに闇の力に耐性を持つ。
犠牲者の魂の一部を吸収し成長する可能性を持つ。
なんか凄く不吉な説明があるんだけど大丈夫なのか?
アルリーフさんが試着した所、三角形をした何かに群がられる幻が薄く見えると言っていた。
それ……たぶん、キングボスラットの今際の際の光景だと思います。
後はアルリーフさんの杖の方は完成していた。
なんか杖の先に水晶っぽい何かが付けられたシンプルな感じの杖だった。
エルバレンズロッド 品質 高品質 最低必要Lv基本職50
付与効果 魔力上昇(中) 闇魔法操作能力向上(中) 魔法威力上昇(大) 魔法命中精度上昇(中) 使い魔使役力上昇(中) 通常攻撃時、菌魔法が低確率で発動。
毒イモリ、エルバトキシンの目玉から取りだされたレンズを媒体に使われた杖。
なんて言うかエルバトキシンって随分と優秀な素材になるのな。
色々と困らされたけど、ここまで俺達の助けになったら許せてしまいそうだ。
『この鍛冶師共がそれだけ有能である事の証明であるが……この程度で誇るのはどうかと思うぞ? 我の宝物庫にはこんな物、足元にも及ばん代物があるのでな。基本性能が違うぞ?』
いや、あくまでこの基準は今まで俺が見た代物を基準にしている訳だし。
目が肥えているヴェノ基準じゃな。
まあ……ヴェノからもらったスモークアーマーも優秀だったのは認めるさ。
だけどアレはあくまで使いやすさ重視って感じだったから、それと比べると随分と性能が違って驚いているに過ぎない。
ちなみにムウは戦士故に金属鎧……傘の上に被せる兜と寸胴鎧を作るらしい。
ムウの体形に合わせて作るのは骨が折れるな。
なんかムウはどうにかして普通の鎧を着られないか、ヴェノ曰く練習しているらしいけど、アレでどうやって普通の鎧を着るのだろうか?
『マイコニドなのでな。昔、筋肉質な人間の様な体形のマイコニドを見た事があるぞ』
進化か? 個人的なワガママであるがムウは今のままで居てほしい。
『難儀な願望をムウに抱いておるな……普段はあの姿でいる事を頼めば良いのではないか?』
現実的にはそうなのか?
なんか自然とムウが造形を変える事が出来る事前提になってるけど、そんな真似が出来るのか?
『ムウが出てきた時の事を思い出すが良い』
ああ、カビたローブに生えたキノコが大きくなったんだったな。
ちなみにカビたローブはムウが収納しているのか持っている。
寝る時とか下に敷いて寝ているのを見かけるので間違いない。
ともかくだ。そんな類の武具をウェインさんは俺達が出かけている間に作ってくれていた。




