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六十二話

「……何?」


 セリスさんが驚き、信じられないと言った表情で固まっている。


「この呪いを参考に過去、名のある魔物がブラッドフラワーという疫病を蔓延させました。なので俺も知っていたんですよ」

「コーグレイは確か疫病を止めたと聞いた。が、しかし――」


 ここで迷うセリスさんに藁にもすがる想いで仲間が頼みこんで来る。


「セリスさん! その……試しても良いのではないでしょうか? 何をしても効果が無いし、薬でどうにか持たせるしか出来ていないんですから……」

「だが、失敗時は貴殿の母君が苦しむであろう? 最悪、死ぬかもしれんぞ」

「大丈、ゲホ、夫です。何もしないよりは、ゲホ」


 苦しそうにセリスさんの仲間の母親は息子の提案に頷く。


「ユキヒサさん……」


 アルリーフさんがここで祈る様に手を合わせる。

 うん、ヴェノってこう言う時に役立つから凄いよな。


『我の凄さがわかったか! これからは汝も小娘と同じ様に我を崇めるのだぞ』


 これが無ければ締まりも良いし、聖竜様と祈られても不思議じゃないんだけどな……しかも本性は毒竜だし……いや、割と本気で尊敬しかけたんだけどな。がっかりだ。


『うるさい! ともかく小娘、お前も解呪の儀式に加われ。上手く行けば徳となる。それはそなたの転職の助けにもなる』

「はい」

「……わかった。だが、無理だと私が判断したらやめさせて頂く」

「ええ、解呪される際に抵抗しようとするでしょうから、その前に叩き伏せてください」


 と言う訳でセリスさんの仲間はいろんな所に声を掛け、高Lvの魔法使いや僧侶が次々とやって来てヴェノが記した魔法式を使って儀式を始めた。

 アルリーフさんも参加して呪いの解除を行う。

 セリスさんはなんか青い顔をしながら事の成り行きを見守っているようだ。


『しかし……鍛冶師は元より、様々な場所で妙な呪いや病が蔓延しておるな。何か作為的な物を感じられずにはおれん』


 エルバトキシンみたいにどこかの魔物が呪いを振り撒いているって事か?

 そうだとしたら厄介だな……。


『いや……今回の感染経路から考えるとしたら……』


 なんてヴェノと話をしていると儀式の魔法陣が強く輝き始める。


「うくううううううう……」


 魔法陣の真ん中に居た婦人は胸に手を当てて呻いていたが、同時に黒い煙が胸から立ち上り……すぐに煙は光となって消えて行った。


「こ、これは……」


 婦人はサッと立ち上がって自身の胸、右腕を確認する。

 そこには呪いの跡など微塵も残っていなかった。


「苦しくない! 体中に力が溢れて来る!」


 顔色も見る見るよくなっていき、喜びの表情で家族の元に駆け寄って抱擁をする。


「なんと……だが……一時は良くなっても呪いを掛けられないとは……」

「それはドラゴンを一匹殺して解呪しても同じでは?」

「う……正式に解呪出来ていなければ……だが、苦しみが一時でも良くなるのなら……」


 なんかセリスさんがウェインさんと同じ様な事を言っている。


『ふむ……もしやこやつ……』

「コーグレイ、これは一体どう言う事なのだ?」


 あ、ネタばらしをセリスさんが求めてきた。これは納得の行く説明をしないといけないな。

 アルリーフさんが話すかと思ったけど、さすがにヴェノがいる事をセリスさんに話して良いか迷っているようだ。

 よし、ここで俺がある程度誤魔化しつつ概要を説明しよう。


「この呪いはドラゴンフォールスチャールヂュの亜種です」

「ドラゴンフォールスチャールヂュ?」

「英雄譚で家族がドラゴン由来の病、呪いに侵され、その呪いを解くためにドラゴン退治をする話がありますよね? その話の元となった呪いや病です」

「確かにそう言った英雄譚を聞く事は多いし、そう言った伝説に習って戦いに身を置く者は多い」


 この世界の英雄譚は知らないけど適当に言ったんだけど、あるようだ。


『ちなみにいろんな亜種が作れる呪いでな、ドラゴン以外でもいろんな魔物をターゲットに出来るぞ。人間の卑劣な部分だ』

「これは大昔の人が作った物で、本来ドラゴンは全く関係ありません。権力者が有能な冒険者や才覚に溢れた者を魔物退治に駆り立てて狙った魔物を討伐させる際に広めた呪いなんです。目標を討伐したら、この様に簡単に解除出来る様になっているんです」


 なんとも卑劣な方法だな。強制憑依召喚といい勝負だ。


『そうだな。人間共はよくこんな手を考えつくと呆れるものだ』

「これは既に解析されて解呪の方法が判明しているはずだったのですが、亜種が作り出されていたみたいですね」

「ああ……なんとお礼を申し上げたら良いか……」


 婦人が俺達に感謝の抱擁をして来る。一応抱擁を返してから更に説明を続ける。


『再感染を注意せよ。感染経路は――』

「いえいえ、お気になさらず。御子息の才覚を見抜いた者が全て悪いのです。それでですね、また呪われる可能性が否定できないので十分に注意しなくてはいけません」

「はい。それで……どのように対処をすればよいのでしょうか?」

「ええ……このドラゴンフォールスチャールヂュの感染経路は、教会の転職時に使われる像です」

「何!?」

「どこの誰かはわかりませんが、才覚ある者の家族を選定して祈りをしている最中に呪いを仕込む様に組み込んだのだと思います」


 まるでコンピューターウィルスだ。感染経路がまんまそれじゃないか。

 しかも設置場所がいやらしい。


『確かに汝の知識の中にある物と似た構造なのは否定せん。閲覧すると同時に呪われる禁術を誰でも閲覧できる所に仕込んだのと同じだからな』

「ですが……」

「祈るなとは申しません。ですが注意すべきだとお考えください。問題はこうして解除した事を犯人に察知されてしまう可能性ですね。そうなると今の方法では解呪出来ない様にされる可能性も……」

『そこはしばらくは問題ない。我が飛びきり凶悪な範囲の広い解呪式にしたのでな。この駆除式をすり抜けるドラゴンフォールスチャールヂュを作るのは中々に骨が折れるぞ』


 いや、それなら大元に仕込めない様にしろよ。


「とはいえ、とびきり強力な代物なので犯人達も対応するのに時間が掛かるかと思います。迅速に

広めておけばしばらくは足止め出来るでしょう」


 ヴェノの説明で大事な所を拾ってそれとなく話す。


『我が何でも出来ると思うな。そこまでするには仕掛けた者と同じ所からやらねばならん。予防術式などを施すのは人の身では難しいしな』

「信仰は大事です。祈るのならば自身が信用の置ける個人用の物でして頂き、どうしても転職をしたい場合、他教の像を使う事を推奨します」

「ですが……」


 ああ、やっぱり異世界でも信仰って根深いか。

 心の支えな訳だし、息子が立派になったのも祈りのお陰でもある訳だもんね。

 じゃあ言い方を変えよう。


「改宗を勧めてはいません。祈りの先は大事です。我々がここに訪れたのも、これまでの祈りが届いたからでしょう。何より、こんな呪いを像に仕込んだ首謀者が悪いのですから」

「母さん、まずはこんな事を仕出かした犯人を捕まえるのが大事って彼は言いたいだけだから……今は元気になった事を喜ぼう」


 息子さんが若干困っている婦人を注意する。


「そうね。じゃあ折角なんで精一杯歓迎しましょう」

「いえ、折角の御好意ですが気持ちだけ頂きます。こちらも色々と用事がありまして……そろそろお暇させて頂いてよろしいでしょうか?」


 なんて言った所で周りの者達が唖然とした表情をしている。


「いや……この呪いを解除して、そのまま出て行くって言うのか?」


 確かに欲が無さ過ぎると思う。

 才覚のある者の家族を治療したんだから、金銭を沢山要求する事も出来るだろう。

 だけど、俺達には目的がある。今は徳を得ることでアルリーフさんの転職を助ける。

 報酬をもらわずに去ればそれだけ金銭の他に得られる物があるに違いない。

 何より金をここで請求すると締まらないだろう。


「ええ。さあ、行こう」


 俺はアルリーフさんとムウ、セリスさんに立ち去る事を提案する。


「そう、ですね。ここには寄り道で来たわけですし」

「ムウ!」

「だ、だが……」

 セリスさんは青い顔のまま呆けている。

「是非ともお礼をですね」

「お礼をしたいとお思いなのでしたら、あなたと同じ様な呪いを受けている方を一人でも多く救う為に、この解除方法を迅速に広めてください。これは犯人を無関係なドラゴンに仕立て上げた悪意で作られた卑劣な呪いであり、御子息を死地へと向かわせようとするものです」


 そういう意味では、まだ病は無くなっていないんだよな。

 こんな事をされた訳だし、被害者の家族……英雄候補は犯人を倒そうと思うはずなんだから。


「わ、わかりました」


 そうして俺達は名を名乗らずに立ち去る事にした。

 まあ、後でセリスさんからこの人達も俺達の名前くらいは耳にするとは思うけどさ

 ある意味、ちょっとカッコイイかも知れないな、なんて思いつつ俺達はセリスさんの仲間の家を後にして馬車の乗り合い場まで来たのだった。


『先ほどから考えが締まらんな……英雄と評される者の頭の中身がこうであるのなら幻滅だ』


 常時締まらない事をしているヴェノが何か言っている。

 お前には言われたくないよ。


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