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六十一話

 セリスさんの仲間の家に到着した。さっそく家にお邪魔をさせてもらう。

 しっかりとした石造りの家屋で他の家より少し質が良さそうな印象がある。

 やっぱりセリスさんの仲間が出来るほどの冒険者って事は稼ぎが良いのかもしれない。


「わざわざ、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「いえ、偶然立ち寄ったに過ぎない。そんなに気を使わないでもらいたい」


 で、セリスさんの仲間は父親と弟を紹介してくれていた。

 まあ、俺達に関してはセリスさんの付き添いって感じでいるだけだから簡潔な挨拶だ。


「それでは……家内と話をしてくれると幸いです」


 そう言ってセリスさんの仲間の父親は、病人の元へと案内してくれる。

 セリスさんの仲間の母親が病人なのか……一体どんな病を患っているのか。


『この様子からして滅多に掛かる病ではない様だな』


 まあ家族も雰囲気は暗めだけど健康そうだもんな。

 これだけでもどんな病か種類分け可能なんだな。まるで自分が医者にでもなった気分だ。

 なんて感じで病人の元へと向かう。


「よくぞ、いらっしゃ……ゲホゲホ、いました。ゲホゲホ」


 室内に入ると苦しそうに胸に手を当てた中年女性が、ベッドから起き上がる体勢で出迎えてくれた。

 病人だから当然だが、顔色は良くない。見るからに対象が悪そうだ。


「ああ、気になさらず楽な姿勢で居て欲しい。私は彼の仲間をしているセリスと申します。彼には常日頃から力になってもらっています。どうか悲願を達成出来るまで、その命を持たせるのが私達の望みですよ」


 なんかセリスさん達にしかわからない話を始めた。

 セリスさんは病人の手をしっかりと握って強い意志を伝えている。

 病人もそれに触発されて心強く感じたのか、表情が明るくなっていく。


「後ろの方々も貴方様の仲間ですか? 本当に息子は頼りになる仲間が沢山いらっしゃるんですね……嬉しい事です」

「えっと、いや……その、そうだよ。母さん」


 セリスさんの仲間は言葉に迷いながら頷く。

 ここで細かく説明して違うなんて言う必要はないもんな。

 しかし、この反応からして……凄い難病を患っているんだとわかってしまった。

 日本だったら……末期癌みたいな雰囲気だ。

 見舞いに来た孝行息子とその仲間達に母親は心を打たれて涙ぐんでいる。

 これはちょっと微妙な居心地だなぁ。

 とりあえず少し話をして、どんな状態なのか聞いてみようか。


「自分達は薬学にそれなりに精通しておりまして、ちょっと見せてもらっても良いでしょうか?」

「いや、コーグレイ。この婦人は病ではないのだが……」

 病じゃない? そう言えばさっきもそんな感じで答えていたっけ。

「とはいえ、生命力を回復させる類の薬もコーグレイは作れるか。少し見てもらうのも良いかも知れん。よろしいか?」

「ええ……貴方様の仲間なら信頼出来ましょう」


 気さくな様子でセリスさんの仲間の母親は了承してくれた。

 なので俺は近づいて確認する。もちろん実際に見るのはヴェノだけどさ。


『うむ。我に任せればある程度はどうにか出来るかもしれんぞ』


 やたら協力的だな。

 しっかりと責任を持てとか人助けに消極的だった奴はどこへ行ったのやら。

 アルリーフさん達、ニスア村での出来事で随分と前向きになったもんだ。


『うるさい。早く診せんか!』


 はいはい。ベッドで横になっているセリスさんの仲間の母親、こう言う時には聴診器とか使ったり色々としなきゃいけないんだけど、パッと見でわかる物とかないかな?


「ここが原因です……」


 お? 場所が特定されているのか。

 そう思って言われた場所である右腕から胸に掛けて服をずらしてくれた所を確認する。

 ……なんだ? 黒い蚯蚓腫れか? 右腕から胸へと向かって蛇行した形で妙な蚯蚓腫れがある。

 その先端はドラゴンの頭部を小さくした様な痣のようなモノだった。

 黒い龍が胸に向かって走っている刺青にも見えなくもない。


『これは……なんとまあ、未だにこんな物が残っているとは呆れたものだな』


 ヴェノが心底呆れた様な口調で呟いた。

 その様子だと知っているみたいだな。


『これは確かに病とは言えんな。とはいえ、呪いであると同時に病でもある。かのブラッドフラワーはこの呪いを模倣して作られた代物であるからな。ある意味、原種。呪病だ』


 なんかイヤなフレーズが色々と混ざっている。

 ブラッドフラワーに困らせられただけに尚の事不安になるぞ。


『懐かしいぞ。小娘の先祖であるアイツもこの呪いを身内に受けて、当初は我を討ちに来たのだからな』


 いや、思い出に浸る前に説明しろよ。


『そうであったな。この呪い……呪病はドラゴンフォールスチャールヂュと言う。ドラゴンが施した呪いだと騒がれる、《人》が作り出した忌まわしくも古い禁術だ』


 は? 人間が作った?


『そうだ。時の権力者がドラゴンの素材や宝目当てに勇者と呼べる様な資質ある者に、ドラゴンが掛けた呪いだ、と身内が呪いに侵されていると吹聴し、戦わせる為に掛けた卑劣な呪術よ』

「この呪いは忌まわしきドラゴンが私達人間を苦しめる為だけに作った呪いなのだ。この呪いを解くには呪いを掛けた本人であるドラゴンを殺し、その一部を捧げなければ行かん……」


 セリスさんが症状を見ている俺に説明をして来る。ヴェノが話している内容とまったく一緒だ。


『もちろん才能ある若者共の家族などにも施して成長を促す。ドラゴンを倒せるほどの強さが無ければ大切な家族が死んでしまうという緊張感が英雄へと育て上げるなどという、身勝手な代物でな』


 ヴェノが説明した言い回しの方に頭が行って考えが纏まらない。


『そうして狩られたドラゴンを何匹も我は見てきた。その結果、呪いは解かれ、権力者はドラゴンの素材や宝、縄張りを奪い取ったという訳だ。どうしようもない。真に恐ろしきは人間であるという事だ』


 いや……そうじゃなくて、そんな呪いをよく野放しに出来るな。


『既に我が小娘の先祖に事情を話して、あの時代では解呪の方法が知れ渡っていた代物だぞ。ここに現存する事の方が不思議でしょうがない』


 いや、現存するんだからその資料が損失しているんじゃないのか?


『そうかもしれん。これが忘却という奴であるな』


 解き方はわかるのか?


『ちょっと待っておれ。この術式は我の鑑定でも簡単に解析可能だ……ふむ、若干小細工をされていて過去の方法では解けんな。だが、我クラスとなれば……』


 パッとヴェノがセリスさんの仲間の母親に刻まれている呪いを解析し始める。

 SEをしている俺からすると数式や専門言語に酷似した代物が、高速で移動していく光景が通り過ぎていく様に見えた。


『解析完了だ。感染経路もある程度割り出したぞ。随分と卑劣な方法で呪いを施しておるのだな。昔は対象の家に呪いの媒体を埋めるなどであったが、これなら幾らでも竜殺しを目指す者を作り出せる』


 パッとヴェノは解析結果と感染経路を出して俺の視界に映し、解呪の方法を記した羊皮紙を俺の前に出す。


「この魔法式を唱えられる上位の魔法使い、僧侶を集めてください」


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