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五十七話



「うう……アレはすさまじい物だ……」


 料理を口に含んで僅か二〇秒でセリスさんは失神した。

 幸い飲みこむ前にほじくり出す事が出来たのが幸いだ。

 ムウの手が思いの外、器用に伸びて助かったぞ。


「ムウー」


 まあ、取り出した後、俺がその手から動くハンバーグの欠片を握り潰してどうにかした訳だけどさ。

 その後すぐに解毒剤を飲ませて手当てをしたからセリスさんのダメージはほぼ無い。

 後少し対処が遅れたら本気で危なかったかもしれない。

 全治二週間は寝込んでいても不思議じゃないし、死んでいた可能性だってある。


「だから言ったんです。死んでしまうかもしれないと……」

「申し訳ない……しかし、アレを完食出来るコーグレイは一体……」

「特殊な体質でしてね。二つ名も毒喰らいって言われたりしています」

「……風の噂で聞いたな。件の人物はコーグレイ殿だったのか。貴殿には本当に驚かされる。ところでアレは何なんだ?」

「私の料理です。私も生まれつき特殊な技能を所持していまして、料理をするとあのような毒物が出来てしまうのです」

「そ、そうか……だからアルリーフ殿は料理をしなかったのだな」

「はい……」

「無粋な真似をして申し訳ない……」


 セリスさんはそう謝ってから立ち上がる。

 いや、別に俺はアルリーフさんの料理を彼女を愛しているから食べたい訳じゃないんだけど。

 可愛いし好きだけどさ。他にも色々と理由があるから作ってもらっているだけですよ。

 なんか恥ずかしいな。


『誤解させておけば良い』


 なんかヴェノの台詞が激しく気になるけど、言える状況じゃないので黙っておこう。


「もう少し休んでからでも良いですよ?」

「いや、これ以上遅くなるのは避けたい。この程度の事で後れを取る様な真似は出来んさ。では行こう」


 そう言ってセリスさんはツカツカと凛々しく坑道に向かって歩いて行く。

 その途中で瘴気用のガスマスクを着用した。

 本当に大丈夫か不安だけど行くしかないか……。

 そんな訳で俺達は坑道の中を進んで行った。


 中は狭いのかと思ったけれど、横幅で五メートルはあるのでそこそこ動き回る分には余裕がある。

 そんな中を少し進んだ所で……なんかダンジョンの入り口っぽい雰囲気のある所が見えた。


「あの奥へ行くぞ。気を引き締めてくれ。ここのダンジョンは時に形状を変えるので地図がそこまで役に立たんから注意してくれ」

「わかりました」


 俺達はさっそく空間が歪むタイプのダンジョンに入る。

 明かり……沼地のダンジョンみたいに所々に明かりが照らされていて見えない程じゃないな。

 道の先は、奥深く……永遠と続いてそうな坑道が続いている様な錯覚を覚える。


「毒ガスも発生するから注意してくれ」

「はい。俺はレンジャー寄りの技能を持っているので、先頭を行きますね」

「本来は私が先頭の方が良いのだが……コーグレイが望むなら譲ろう。出来る限り注意するのだぞ」

「ええ」


 そんな訳で俺が先頭で、すぐ後ろをセリスさん、ムウ、アルリーフさんと続いて進む事になった。

 ヴェノが認識出来る範囲で魔物は先に発見、俺が指示してセリスさんとアルリーフさんが素早く攻撃、俺とムウがアシストをする形で順調に坑道の奥へ奥へと進んでいく。

 出て来る魔物は岩山にいた連中の色違いみたいな奴や鉱石違いが基本みたいだ。

 ウィスタリアロック、ボルドーロックゴーレムに始まりシクラメンピンクアイアン、プラムブロンズゴーレム、アッシュグレイシルバーマンなんて小型のゴーレムみたいのとかも遭遇した。

 セリスさんとアルリーフさんが遭遇と同時に仕留めてくれたから、どの程度の強さなのか図り辛い。


『汝でもそこまで苦戦はせんな、まだ序の口だろう』


 道中で毒ガスが充満している区域等は俺とヴェノが一番に察知して迂回、あるいは風を流して散らすなどして進む。

 フローラルな匂いがしてわかるんだよね。


『毒を花の香りに例えるのはどうかと思うがな。順調なのは良い事だ。汝も手慣れて来たな』


 そりゃあね。

 しかも経験値アップとかを持っている訳で、魔物を倒す度にドンドンLvが上がって行く。

 これは助かる。パワーレベリング万歳。


 なんて快調な感じで……沼地のダンジョンに挑む感覚だと地下六階くらいまでサクサクと進んで来ているだろうか?

 ヴェノがマッピングをしてくれているので助かる。

 ダンジョンの形状はすぐには変わらないらしいので、役立つだろう。

 なんて思っていると剣や槍を所持した鉱石系の魔物と遭遇する頻度が増えてきた。


 シルバーホワイトランスミスリルマンやシャドウブルーハンマーマジックシルバーマンか。


 ……名前長いな。


『色はそこまで気にせんでも良い。ミスリルマンやマジックシルバーマンと思えば良いのだ』


 ああ、そうだな。

 ともかく、なんか自分の体の一部なんだろうが、武装した魔物が出て来るようになった。

 しかも経験値がそこそこ美味しく、その体が目当ての鉱石だ。


「ふん! この程度か!」


 セリスさんが持っている剣で大きく薙ぎ払うと甲高い音を立てつつ、魔物達は薙ぎ払われて行く。


「アクアショット!」


 アルリーフさんは坑道で火を使うのは危ないと言う事で水属性の魔法で魔物達を攻撃した。

 中々の威力でトドメはさせなくても動きを阻害する事には貢献出来ている。


「ムウウウウ!」


 ムウも斧を振りまわして魔物相手に善戦するけれど、この二人には及ばない。


「もっと腰を沈めて振りまわせ!」

「ムウ!」


 セリスさんの助言でムウが斧を振り抜くコツを得たらしく、威力が上がっている。

 で、俺に関してだが……うん、Lvの上昇とウェインさんから貸してもらったクロスボウのお陰で良い感じに魔物に刺さる。

 けど、ちょっと地味かな? トドメを刺すほど威力が出ない。

 毒使いとして毒の霧を出すという手もあるが、セリスさんやアルリーフさんを巻き込みかねない。

 使うと良いのは最近生成が遅れがちの軟化毒か。

 敵が鉱石故に硬いからなぁ。麻痺とか毒とかあんまり効果が掛からない印象を覚える。


『効果が無い訳ではないが、如何せん汝の使える毒は生物寄りであるからな。もう少し毒の種類を増やしていかねばいかんだろう』


 この手の鉱石系な魔物に効く毒ってなんだ?


『沈黙系の毒、防御を下げる毒だ。沈黙は言うなれば魔力の動きを阻害させる、魔力を血管の様に体に巡らせている鉱石系の魔物にはそれだけで効果が高い。もちろん、その硬さを下げる毒を振りかけて硬さを無くすのも手だ。他に混乱を誘発させるのも良いだろう。ただ、魔力の部分に毒素を流さねばならんがな』


 どうもイメージ的に難しい。

 それって現代日本でSEをしていた俺からすると、形の無い所にあるものに見えるんだけど?


『いいや、幾ら硬くても奴等は鉱石なのだ。つまり体がある。そこに毒を染み込ませれば魔力に変調を来すものなら全身に回る』


 じゃあ体の無い幽霊みたいな魔物とかは?


『それなら霧状に毒を出せば奴等は引っかかる。聖水が効果がある理由を考えよ』


 うーん……毒の使い方って色々とあるんだなぁ。


「む……!?」


 セリスさんが腰を深く落として構え始める。

 一体どうしたんだ?

 なんて思っていると……坑道の奥の壁が広がって行くのが見える。

 なんだ? 目の前で坑道の形状が変化しているのか?

 疑問に思っていると大きなズシーンズシーンと音が響いて、何かが近づいて来ているのがわかる。

 それと一緒にぞろぞろと重そうな足音。


「どうやら私達は運が相当良い様だぞ」


 セリスさんがニヤっと不敵な笑みを浮かべて剣を前に向けている。

 どちらかと言えば運が悪い様に感じるけど……。



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