五十五話
……道中、瘴気が漂い始めたのがわかる。
今いる人員だとなんともない程度だけど、やはり瘴気はどこにでも発生しているんだな。
『汝や我が苦しむ事は無いが、Lvの低い者は息苦しさを感じる程度には瘴気が湧いている』
瘴気の濃さに呼応して俺自身の能力が上昇して行くのがわかる。
やがて……なんか坑道みたいなトンネルにまで辿り着いた。
「ここからダンジョンになる。瘴気の密度も濃くなるから注意してくれよ」
「はい。ですが私達は瘴気に強い能力持ちが多いので、大丈夫です」
セリスさんにアルリーフさんが答える。
「それは頼もしい限りだ」
と言う所で、ぐう……とムウの方から音が聞こえた。
「ムウウ……」
なんか幹っぽい所に手を当ててお腹空いたという顔をしている。
まあ、丁度良いかもしれない。ダンジョンに入る前だったし。
「そろそろお昼にしましょうか」
「そうだね。これから戦わないといけないんだし、腹が減って居たら力が入らないもんね」
「賛成だ」
「ムウ!」
満場一致で俺達は昼食を取る事にした。
ちなみに俺達のパーティー内で、基本的に料理を担当するのは俺だ。
アルリーフさんは言わずもがな。ムウに料理なんて出来るはずもない。
素材採取で食べられる薬草や山菜などを入手し、村や町で肉を買ったり魔物を倒して食料にしている。
水に関しても井戸水をヴェノに収納してもらっているのである程度はどうにか出来ていた。
そんな訳で俺は調理器具を出している間に、アルリーフさんが焚き木に火を付けて温度調整をしてくれる。
魔力が上がったお陰で簡単に火の魔法を長時間出せる様になったそうだ。
リフエルの町に来るまではヴェノがアルリーフさんに魔法修業として魔法を維持する練習をさせていたっけ。
料理に使えるから凄く助かっている。
ちなみにリフエルから今までは道中の村とかで食事をしていたので、こうして野外調理はしていなかった。
「む? 私は何か手伝えないか? と言うよりも……」
セリスさんがアルリーフさんの方に視線を向ける。
「えっと……ユキヒサさんの方が料理が上手なんで、私は火を出す担当です」
「ムウ!」
あまり話したくない話題だよな。毒料理だもん。
「俺達よりも強いセリスさんにはこれから戦ってもらわなきゃいけないんですから休んでいてください」
「しかし……」
「大丈夫ですって。そこまで難しい料理を作る気は無いですし、役割分担ですよ」
とりあえずフライパンを出して火に掛けつつ下準備……軟化毒に漬けていた肉が食べ頃になっている頃だな。
長く漬けすぎるとさすがに溶けちゃうから時期をみないといけないのが難点か。
ヴェノ。
『わかっておる』
ポンと俺の指示でヴェノは俺の近くに軟化毒を入れた桶を出す。
桶に入れてある肉を取り出し、状態を確認。
うん、問題なく柔らかくなっているな。
ちなみに毎日霜降り肉モドキだと飽きるので硬さを調整したりしている。
今回は浅く漬けてあるので柔らかさも程々だ。
もちろん、リフエルの町とかだと種類の違う肉が取り扱っているのでその都度確認している。
試した範囲では、少しでも軟化毒に漬けると味が良くなる事が判明している。
火を通せば毒性は無くなるから利用しない手は無い。
……何かに似てるな。
『そう言えば汝、魚を軟化毒に漬ける実験をしておったな』
ああ、そう言えばそうだった。
妙に硬い魚を手に入れたから試しに漬けていたんだった。
それも出しておくか。いい加減、これ以上漬けたら溶けそうだし。
『わかった』
ヴェノが俺の指示した魚を出してくれる。
「コーグレイは収納魔法でいろんな物を仕舞っているのだな」
「ええ」
「簡単な魔法ではないはずであるが……」
「そこは色々とコツがありましてね。元々この魔法は小さい頃から覚えていて得意だったんですよ」
もはや誤魔化すのにも慣れてきた。
極々自然に言うのがコツだろうか。
「ほう……」
お? 魚の切り身がプルンプルンになっている。
刺身にしたら美味そうだけど……さすがにアルリーフさん達には食べさせられない物になっちゃうな。
しかし……この柔らかさ、さっきもそうだけど何かに似ている。
なんとなくで薄切りにして串で刺して炙って見る。
ああ、何に似てるってウナギに似ていたんだ。皮も付いたままだったし。
じゃあ蒲焼きにしてみよう。
ついでに鍋に水を入れてお湯を沸かして野菜スープを作りつつ、焼いたウナギモドキを上に被せて疑似的に蒸す。
その間に調味料……タレは難しいのでケチャップっぽい奴とか、霜降りステーキの油をそれっぽく混ぜて調整……思い出とは異なる味のはずだけど、調味料を塗っていく。
ああ、もちろん塩だけで味付けした白焼きも作った。
「なんとも手際良くしていくものだ。良い匂いがしている」
「これで仕上げ」
って感じにウナギモドキをアルリーフさんが起こしている焚き火で炙って完成。
霜降りステーキモドキとウナギモドキ、そして野菜スープの完成だ。
主食は立ち寄った村で購入したパンだけど、そこはしょうがない。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
「ムー!」
「いただく」
それぞれみんなに配ってから俺は自身の皿に盛る。
さて……食事の前に。
俺はアルリーフさんが祈りの言葉を捧げるのを待つ。
するとセリスさんも食事の前に祈りを捧げているようだ。
ここに来るまでも何度も見ていたけど、なんて祈っているんだろう?
実は小声でよく聞こえなかったんだよね。
「母なる大樹よ。今日も我等は豊かな食事にありつける事が出来ました。そのお恵みを無駄にする事無く、これからの糧にする為に頂きます」
『……』
なんか聞き覚えのあるフレーズ?
『聖世界樹の食前の祈りであるな』
ああ、前にヴェノがアルリーフさん達一家の食前の祈りに関して言ってたっけ。
警戒する必要ある?
『そこまで警戒しても仕方あるまい。聖世界樹教徒=敵ではない。敵はセントユグド国なのだからな』




