五十三話
『そこそこ普通の品々だぞ? ただ、付与効果が多いな。鍛冶師の腕が良いというのは確かなようだ』
へー……そんな違いがあるのね。
『基本性能も同じ物よりも1,3倍以上はキープしている。同じ代物でも値が張ると思うぞ』
三割も違えば結構バカに出来ない数字になるな。ゲームだったらだけど。
とは言え、この世界の法則がどうなっているのかどうもよくわからない所がある。
品質の良い品を貸し出されたのは間違いない。
試しにクロスボウを持ってみる。
ずっしりとしていて、今までのラピッドフェザークロスボウに比べると重量がある。
ヴェノからもらった品の性能が良かったのがこれだけでもわかるな。
しかもこっちはオートリロードが無いから自分で撃つ毎に引かなきゃいけない。
本来はこれが正しいクロスボウなのだから馴れて行かないといけないな。
えっと……このハンドルを回せば良いのか?
ガチリと音を立ててハンドルを回すと弦の部分が引かれていく。
あ、思ったよりも軽い。
やがてカチッと音を立てて弦の部分がセットされた。
その上にボルトを設置。
連射性に難がありそうだなぁ。
セットの為に回す時間自体はそこまで掛からないけど、今まで通りとは行かなそうだ。
『その分、今までのクロスボウよりも攻撃力は違うようだがな』
確かに……ラピッドフェザークロスボウの三倍以上の攻撃力がある。
これで繋ぎ武器扱いなんだからウェインさんが改修してくれるクロスボウがどうなるか楽しみだ。
「では早速出発しよう。ついて来てくれ」
セリスさんはそう言ってウェインさんの家から俺達を連れて出発した。
とりあえず俺達が行くのはリフエルからちょっと遠くに冒険者が鉱石目当てに行く鉱山だそうだ。
質の良い鉱山であり、鉱石に魔法的効果が宿っているのが特徴なのだが、それだけ質が良いと相応に魔物も集まりやすく、空間が歪んでダンジョン化してしまっているそうだ。
瘴気が湧き出す場所でもあり、生活するのは難しいが、冒険者や国の人々にとっては無くてはならない場所らしい。
そんな場所を目指して俺達は出かける事になった。
目的の鉱山までの道中の事、出発した翌日。
馬車に乗って居たら盗賊が出たとか言われて戦う事になった。
どうも前を走っていた商人の馬車の積み荷が目当てだったらしいけど、運が良いのか悪いのか遭遇した感じ。
で、俺達も戦おうと馬車を下りて戦闘に入った。
「行くぞ! みんなは注意するのだ!」
セリスさんが馬車から飛び出して盗賊相手に持っていた剣でバッサバッサと切りつけている。
なんだろう、強すぎて無双のゲームみたいな動きをしている。
盗賊が完全に雑魚だ。
「ムー!」
ムウが先行して斧を振りかぶりながら駆け出し、俺は相手がどれだけの実力があるのか、下手に殺したらヤバイかもしれないって事で麻痺毒を付与してクロスボウで狙いを定め……アルリーフさんがファイアブリットの魔法で援護射撃をしたんだけど……。
「ファイアブリット!」
アルリーフさんの魔法が完成した直後だったかな?
大きな火の塊がアルリーフさんの目の前に出現して盗賊達の脇をかすめて行った。
随分と高火力ですね。
「ヒ、ヒィイイイ!」
「す、凄腕の冒険者が同行してんじゃねえか! 逃げんぞ!」
「ああ! あんなの相手にしてらんねぇよ!」
そう言って盗賊達は一目散に逃げて行った。
同席していた冒険者や商人達が唖然とした表情をしていたな。
それから拍手が起こっていた。
「口ほどにも無い。これで少しは反省してくれればいいのだがな」
セリスさんが逃げ出す盗賊を見ながら吐き捨てた。
「その歳でそれだけ強力な魔法を使えるとは……これはしばらく安心して移動できそうだ」
「うむ。中々の威力に見えたぞ」
「緊張して、ま、魔力を込め過ぎました」
『ふむ……それなりに小娘の魔力も増幅しておるようだ。あの程度の雑魚ならば恐れるに足らんな』
「ムー!」
とりあえず盗賊には逃げられてしまったけれど、事なきを得る事が出来た。
こう……目に見えてアルリーフさんが強くなっているのを自覚する瞬間だった。
『小娘もそこそこの火力を出せるようになったな。武器のお陰で更に火力が上がっているのだろう』
ヴェノ基準で語られるとな。
俺からすると置いて行かれている位、強力に見えるんだけど。
「初級の火の魔法でここまでの威力出せるとは……私の所にスカウトしたいほどの才能を持っているぞ」
「Lvが高いだけですよ。あまり出力の調整が出来なくて申し訳ないです」
「そうなのか? 中々の逸材だと思っていたが……」
「ええ、私のLvは今、63なんで」
そうですね。
主にヴェノの所為でアルリーフさんのLvは俺達の倍くらいになっている。
一流の戦士であるらしいセリスさんも注目する程に強力になるのは当然。
思えばアルリーフさんに俺達の引き上げをしてもらう予定だったんだった。
「随分と高い……が、上位職にしては密度が足りない。おそらく基礎職だと思うのだが上位職にならないのか?」
「えー……っと熟練が足りず、強くなった手段があまり良い方法では無かったので禁止職業ばかりなんです」
「一体どのような……いや、だからこそ転職をせずにいるのだろう。無理に聞いて悪かった」
なんてやり取りをアルリーフさん達は行っていた。
俺がかなり地味ですね。活躍したい訳じゃないけどさ。
「ではアルリーフ殿は慈善活動と経験を積む事を中心にしているので良いのだな?」
「ユキヒサさん達のLvアップの手伝いが目的です」
「なるほど、ではしっかりとコーグレイ殿達を強くして行こう」
「はい」
俺達を蚊帳の外にして行くべき方向が決まってしまっている。
まあ良いんだけどね。
ちなみに盗賊退治の追撃に出た人達も居たけど、盗賊達の逃げ足が速かった所為でしばらくしたら戻ってきた。
「凄腕の魔法使いと凄腕の戦士が居るならしばらく安泰だ。頼りにしてるぜ」
「任せよ」
「あはは……」
アルリーフさんが苦笑いをしている。
本人も思ったよりも魔法の威力が上がってしまって調整に難航しているようだ。
ドアノブの件もあるし、アルリーフさんの超人化が進んでいる。
『良かったな。汝の妄想が現実になるぞ。この際、ナイフでも持たせたらどうだ?』
おい。聞こえない様に言えよ? 聞かれたらどうするんだ!
『わかっておる』




