五十二話
「小暮です。よろしく」
下の名前は見知らぬ相手に知られると危なそうなので名字で答える。
「コーグレイ……ああ、リフエルの町やニスア村で最近名を聞いた冒険者だな」
やっぱり俺の名字ってこの世界の人には微妙なニュアンスで伝わっているんだな。
これなら不審に思われないな。
「セリスは病気に冒されたワシに高価な薬を譲ってくれてな。邪険に扱えんのだ」
『随分と出来た者のようだぞ』
「私に良い武具を作ってくれた鍛冶師であり、その弟子まで私の行動に力を貸してくれている。その恩を返すのは当然の事であろう?」
うわ……なんか聖人っぽい人だ。
恩を恩で返せる、良い人なのかもしれない。
で、ウェインさんが命を繋いでいられたのはこの人のお陰なんだろう。
「正直、ここまで改善したのは初めて見る。驚異の治療技術だ」
「まあ色々と知る機会に恵まれましたので……上手く行って良かったと思ってます」
実際、ヴェノに診断してもらって、俺が軟化毒を使用しただけだもんな。
「そんな謙遜はしなくて良い。貴方はそれほどまでの事を成しているのだ。私からも言わせて欲しい。ウェイン殿を治療してくれて感謝する」
「まだ完治したかどうかわからん」
ウェインさんがここでそっけなく言う。
「いやいや、ここまで良くなったのだ。不安に思わず過ごす方が身体に良いと思う」
「ですよね。一応、治ったとは思うんですけど」
「だそうだ。名工ウェイン」
「……ふん」
悪くないって様子でウェインさんは答える。
で、セリスさんはアルリーフさんとムウに顔を向ける。
「アルリーフと申します」
「ムウ!」
「ああ、名工ウェインの親戚の女性とは貴方か。とても可愛らしい少女であるな。コーグレイの妻と言う事だな?」
「つ、妻……」
妻と言われてアルリーフさんが赤くなった。
そういう反応は悪くないけど、訂正させてもらおう。
「いえ……アルリーフさんのお父さんが勝手に婚約者にしてしまっただけでして、まだ正式にそう言った関係ではないんですよ」
「そうか……健全な関係と言う奴だな」
「はい。で、この子は俺が作ったマイコニドのムウ。頼りになる戦闘員です」
「ムー!」
ムウが接客用の愛嬌のあるポーズで自己主張する。
「賑やかな方々で私も嬉しく思う。ところで名工ウェインを治療してくれた礼を出来ないだろうか?」
おや? そこまで恩義を感じている?
『恩着せがましい娘だな。善人過ぎてちょっと引くぞ』
死にたくないから極力人間を殺さないでいる情けないドラゴンが何か言ってる。
アルリーフさん達には聖竜って呼ばれているけど中身は怖がりなだけだ。
『汝も我をバカにするのを大概にせんか』
とりあえずあんまりお礼をされても今度はこっちが悪い気がするから断ろう。
「いえいえ、そのお礼はウェインさんがしてくださるので、お気になさらなくても良いですよ」
「しかし……うーん」
あ、恩着せがましく食い付いては来ない。
心の底から思っていた事を提案しただけっぽい。
「じゃあ、丁度良い。折角だからセリスと一緒に素材調達に行って来てくれ。セリス、動けるうちに良い武具を拵えたいんだ。この辺りで採れる良い物をコイツ等と一緒に持って来てくれねえか?」
ウェインさんがここぞとばかりに提案してくる。
「なんだそんな事で良いのか」
「ついでにコイツ等を育ててやってくれ。強い冒険者の手本を見せてやれば良い経験になるだろ」
「わかった。では協力させてもらおう」
「良いんですか?」
アルリーフさんが尋ねると、セリスさんは頷く。
「ああ、本来は急行すべき場所があったのだが、真偽が確かでない情報だったとの事で、次の指令が来るまで暇なのだ」
「じゃあ指令が来たらすぐに仕事へ行かないといけないんですね?」
「そうなる。もしかしたらあまり力になれないかもしれないが、協力したい」
高Lvの冒険者と魔物退治に参加出来るって事かー……。
うん、良いかもな。
パワーレベリングをしてもらえば強くはなれるはず。
ちなみに一応クロスボウで的当ての練習はしている。
ムウに的を持って走ってもらい、その的に当てる練習だ。
俺自身も動きながら撃ったりしているので、大分腕も上がったと思う。
アルリーフさんの料理のお陰で習得速度が上がっているから良い感じだ。
そのお陰でエイミングショットの強さが上がったし、上位スキルであるパワーショット、メテオショットってスキルを得ている。
パワーショットは言うまでもなく、放つと今までの倍くらいの威力でボルトを出せる。
メテオショットは魔力的な作用でボルトが岩みたいになって目標地点に降り注ぐ。
しばらくするとボルトに戻るんだけど、問題はボルトの強度の関係で乱用は出来ない。
正直、ボルトの数が心もとなくなってきた。
ウェインさんじゃなくても、どこかの鍛冶場でボルトを特注してもらわなきゃいけない所だったけど、一応作ってもらう約束は取り付ける事は出来たな。
「わかりました。じゃあさっそく出かけましょうか?」
時間が無いかもしれないなら迅速な行動が必要だ。
「ちょっと質は落ちるが繋ぎ用のクロスボウと斧、杖は支給してやる。それで出かけて来い」
おお、ウェインさんも太っ腹ですね。
そんな訳で俺達はそれぞれ武器をウェインさんの指示でルリカさんから借り受ける。
マジックアイアンクロスボウ+5 品質 高品質 必要Lv30
付与効果 魔力増加 弾速上昇 威力向上 リチャージ短縮
魔法鉄で作られたクロスボウ。使用出来るボルトの種類が豊富であり、矢も一部対応している。
スロウボルト 品質 高品質
付与効果 遅延 ホーミング(弱)
遅延の魔法が施されているクロスボウ専用の矢。僅かながらターゲットに誘導性能を持つ。
セイントバトルアックス 品質 高品質 必要Lv40
付与効果 威力上昇 投擲加速 クリティカル(中) 命中補正(小) 叩きつけボーナス(小)
聖なる付与を施した金属を使用した重量のある戦闘用の斧。使用するのは相応の腕力と技能が必要。
ルビーバーストセプター 品質 高品質 必要Lv30
付与効果 魔力上昇 火属性魔法効果上昇(中) 魔法詠唱短縮(弱)
ルビーを核に作られた魔法杖。火属性の性能を引きあげる。
中々優秀そうな装備品に見える。




