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五十話


 そんな感じでリフエルの町での活動は恙無く進んでいた。

 ウェインさんの経過なのだが……浴槽から出そうとしたらズルッと皮が剥けた。


「ぐ……!? 痛みは無い?」


 一応、ウェインさんの剥けた皮の下には綺麗な肌が表を露わしている。

 翌日ともなるとまるで脱皮をするかの様にウェインさんの皮膚がずるむけた。

 ちなみに町の住人が何かしていると勘付いて窓を覗きこんでいたらしく、ウェインさんが蛹となって羽化したなんて話が広まったらしい。

 で、脱皮と呼べる状況で一皮文字通り剥けたウェインさんは……よろよろと立ち上がって自身の体を驚きの表情で見つめる。


「立てる……体が軽い! 本当によくなっている!? 今までで一番良いぞ! たとえすぐに動けなくなってもしばし爽快なら悪くない!」


 なんか悲観的な所が残ってるなぁ……大丈夫か?


『……? 皮膚に巣くう病魔を根絶したら見えてきおったぞ。随分と隠れるのが上手い隠蔽呪詛だな』


 呪詛? 何かわかったのか?

 パッとヴェノは紙を出す。


『小娘、この儀式魔法と魔法陣を用意せよ。それと高Lvの僧侶を連れてこい。解呪の時間だ。どこのどいつか知らんが、趣味の悪い呪いを作ったものだな』

「は、はい!? あの、呪いを解く儀式をするそうなので、神官様を呼んできます!」

「ムー!」


 ヴェノに命じられてアルリーフさんを初めとして、家にいたお手伝いとルリカさんは神官を連れて来た。

 そしてアルリーフさん主動で魔法陣を描き、呪いを解く儀式を始めた……のかな?

 自由に動けるウェインさんを中心に魔法を唱え、儀式が始まる。

 悪魔とか召喚できそうだけど、魔法陣が綺麗に光っているだけに留まり、やがて儀式も終わった。


「コーグレイ! 貴様は随分と腕の良い奴だったようだな。しばらくの間であっても自由に動けるなら少しくらいなら鍛冶の仕事をしよう。また動けなくなるまでの間ならな」

『もう石質病とやらは治療されておるがな。再発の可能性が無い訳ではないか……まあ、経過観察で良いだろう』

「あ、ありがとうございます」


 なんか完全に治ったって確信が持てないのがイヤな感じだけど……少し様子を見てもらえば良いか。


「で? アルリーフ、お前達は何をワシにして欲しいんじゃったか? 確か……血族内で先祖が遺した記述を探しておるんだったか?」


 さすがに一週間近くウェインさんの家にいたら俺達の事情は説明していた。

 半信半疑というか、疑い八割だったウェインさんだって頭に入っているだろう。


「ワシが声を掛けて近隣の者達の所持する先祖の記述等は集めさせよう。他に……鍛冶で何をして欲しいんだ?」

「えっと、ユキヒサさん」

「じゃあ予算額が百万ラグで、俺達の武具の修理、改修、補充、新たな装備等を依頼出来ないでしょうか?」

「ふむ、百万ラグでか……やや心許ない金銭だが……まあ良いだろう。修理と言うが、品を見せてくれないか?」

「はい」


 俺はヴェノから貰ったクロスボウと剣をウェインさんに提出する。


『他にも売れたり利用できるのなら今まで遭遇した魔物の素材も出せるぞ』


 パッとヴェノがエルバトキシン素材やラットの毛皮等を少量提出する。


「結構貯め込んでるな……まあ、身の丈に合った物ならこれでも出来なくはないだろうが……このクロスボウは……」


 なんだ? まさか心当たりとか言うのか?


「ワシの所から卒業して行った奴がその後の成果だと言って送ってきた奴にそっくりだな。確か……バカなお貴族様に頼まれた特注品だって話で随分儲けたって記されていたが」


 そんな弟子を持って大丈夫なんですかね?

 と言うか予備を師匠に送るって、それは自慢なのか?


「アイツの作った奴の作品違いか、はたまたバカな貴族から何かしらの礼でもらったか、それともバカ貴族が無くした際の笑い話の続きか……ふむ」


 うわ……滅茶苦茶勘ぐられてる。

 どうする? 誤魔化した方が良いのか?


『素直に話しても良いのではないか? 我からもらったとな!』


 それは何のアピールだ?

 というか、信じてもらえると思っているのか?


『小娘が説明しておったではないか!』


 そこまで信じてもらえてないだろ!

 ええい! ここはブラック企業仕込みのポーカーフェイス笑顔で乗り切れ!


「ええ、ちょっとした縁で手に入れた物を使用していました」

『物は言いようだな……弟子の鍛冶師からもらったのか、貴族からもらったのか、我からもらったのか……どこかに落ちていたのを拝借したとも言えるぞ』


 ヴェノの言い方が辛辣すぎてきついが無視する。


『汝の世界は曖昧な虚言を使わねば生きて行けぬのか』


 良いから今は黙っていてくれ、誤魔化す為に集中してるんだから!


「……バカな貴族様って奴がドラゴン様に挑んで奪われたってのを笑い話にするだけの事が、巡り巡ってこんな所に来ていたら、ロマンがあると思わないか?」

「えー……」


 コンコン、とウェインさんはクロスボウのショルダーガード部分に指を当てて何か注目するように見せて来る。

 ゲ!? もしや銘とか製造シリアルナンバーって奴!?


『バレバレではないか!』

「ドラゴン様に挑んで物を奪われるだけで生き残れたんだから儲け物だろって話だったが、もしそれが本当にワシらの先祖が慕った聖竜様だって言うなら、ありえない話ではない。慈悲深い方だったと聞く」

『ふん』


 なんかヴェノが胸を張って偉そうな顔をしている様な気がする。

 お前は業を背負って勇者とか英雄とかに殺されるのが嫌だったチキンだろうが!


『やかましい! 我が慈悲深いから上手く話が進んでいるのだ!』


 自分で言っていたら様にならないな!


「そうなんですよ。ユキヒサさんの中には聖竜様が宿っているんです!」


 アルリーフさんがここぞとばかりに援護している。

 しかし、その強気な発言は赤の他人からすると相変わらず胡散臭いと思う。


「わかったわかった。だがなアルリーフ、幾ら親戚であっても安易にその話をして良い物ではない。先祖の言葉を信じず、世に流布する方を信じる不届き者もいるのだ」


 ウェインさんはそう、アルリーフさんに注意する。


「ワシは治療してもらい、このクロスボウを見て多少は信用できそうだと判断したが、あまり話すべき事では無いのじゃよ」

「は、はい……」


 結局俺達は追跡者から逃げながらヴェノを解放する手段を探している訳だしね。

 アルリーフさんも親戚なら信頼できると思ったけれど、教え回って良い話ではないのは当然だ。


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