五話
まあ、受ける依頼は決めたが、やはり付き纏うのは魔物との戦闘だ。
いきなりの戦闘で俺は戦えるのか?
武器も無い、あるのは毒放出で沼地の毒を投げつけるだけだ。
『武具が欲しいのか? ならば人の目の無い所に移動するのだ』
何をする気だ?
ヴェノの言う通りに役場の裏側に周り、人の目が無い事を確認する。
『よし、では出すぞ』
ピカッと俺の目の前が軽く光ったかと思うと、ドサッと無造作に剣と鎧が現れた。
「な、なんだ!?」
思わず喋ってしまう位の出来事だ。
いや、ヴェノが何かしたのはわかるけど、いきなりこれは驚くだろ。
「……」
見た所、西洋の剣と鎧だ。
実物は見た事無いが、ゲームやマンガと言った創作物に親しんで来た身としては馴染み深い。
軽く手に取って見る。
ずっしりとした重さがある様な想像をしたが、木の棒みたいに軽いぞ?
フライアイアンの剣+4 品質 高品質 必要装備Lv無し
付与効果 ライトウェイト
浮かび上がる鉱石を混ぜた合金の剣。羽のように軽く、非力な者でも振るう事が出来る。
ただし、重さが心もとない。
スモークアーマー+3 品質 良品 必要装備Lv無し
付与効果 スモーク
煙を固定化させて作り出された空気の様な魔法鎧。煙であるのに硬度があり、軽い。
ただし、水を貫通してしまうので注意。
潜伏のローブ+3 品質 良品 必要装備Lv無し
付与効果 クローキング 解析抵抗(小)
迷彩効果のあるローブ。一般人に偽装する為に織りなされた品。
隠蔽能力の高い魔物の皮が使われている。解析魔法に耐性を持ち、偽装出来る。
軽さを意識した装備品に見える。これなら俺でも使えるだろうって感じだ。
鎧に関しては……不思議な肌触りだ。
パウダービーズのクッションが近いか? そんな感じの不思議な手触り。
でだ……結構良い感じの装飾が施されていて、良い品なのはわかる。
『これを装備して行けば当面はどうにかなるであろう』
……その通りだと思う。そこは否定しない。
だが、色々と指摘したいんだが、良いか?
『なんだ?』
これは何処から出した?
『ああ、それは我が使用した圧縮収納魔法を発動させたに過ぎん。取り出しはある程度自由だぞ。強制憑依召喚を掛けた連中も、この程度の魔法を感知する事は出来んはずだ』
言い分から察すると、ヴェノが最初から持っていた物って事で良さそうだ。
『我もドラゴン、多少は物を収拾する習性を持っておってな。我の巣へと戻る事が出来ればそれなりに宝を披露する事は出来るが生憎手持ちは心許ない』
で、この剣と鎧を着て行けと言うのはわかったが、これの出所は?
『そんな物、我が強制憑依召喚を受ける前、我に無謀にも喧嘩を売って来て敗北をした挑戦者から奪い取った物に決まっておるではないか。中々に良さそうな品だったから収容魔法を施して忘れていた』
要するに名も無き勇者達の遺品って事か。
『殺しておらん。剥ぎ取っただけだ』
うーん……色々と助かる場面ではあるのだが……こんな品物があるなら売っぱらって金にするべきなんじゃないか?
『汝、良く考えよ。一見虚弱そうにしか見えない男が金目に成りそうな高額な装備や品々を売って金にするのだぞ? 野蛮を絵に描いた人間共が次にする行動はなんだ? 自らの欲望に忠実な愚かな人間だぞ?』
まあ、外国に行った日本人をターゲットに強盗を働くなんて話は珍しくない。
安易にヴェノの所有物を金銭に換えるのは危険だろう。
『そもそも今の我は手元の品はそこまで無い。あまり頼りにされても困るのだ。これ以上となるとそこそこLvが必要だし、他の物となると精々兵士などが使う量産品の剣や槍などばかり。しかもそこまで在庫は無いぞ? ゴミなのでな』
ドラゴンからしたら普通の剣や槍などの武器なんてゴミか。
珍しい感じがしたから没収したまで……って事ね。
まあ、使わせてもらうとしよう。
鎧を着て、ローブを羽織ると……なんかふわっとローブを羽織っているはずなのに麻の服を着ている様に、ローブの表面が色を変えて映しだされる。
軽くて助かる。
剣もベルトと一緒に支給されたので腰に付ける。
『では今まで着ていた服は収容するぞ』
パッと俺が着ていたスーツ……Yシャツとズボンの空間が歪んで消えた。
残ったのはローブと鎧だけだ。
……収容したって事なんだろうけどさ。
『本来は楽に戦闘出来るように、弓矢等を支給させたいのだが、我の手持ちの品を使うのに早いと判断した』
あー……確かに、俺みたいな戦闘未経験の奴からしたら弓矢とかクロスボウの方が良い。
矢を当てられるかは不明だが、距離があるのは強いしな。
毒を矢に塗って使う、なんて事も出来そうだし。
……まあ使えないのだからしょうがない。
まともに戦った事が無い訳だし、幾らヴェノが色々としてくれると言っても限界はある。
毒放出でも限度があるだろう。そもそも毒玉を投げつけるだけになってしまう。
弱い内は装備品でどうにかして繋げって事か……。
『どうやら圧縮収納魔法で汝の所有物になった物も収納出来そうだ。荷物を一々持たずに済むぞ』
便利な魔法があるなぁ。
まあ使えるなら使わない手はない。
『人間でもそれなりに高位の魔法を担う者なら使えるぞ。汝の世界には無い様だが……不便ではなかったのか?』
生憎、俺の居た日本にはそんな便利な魔法は無い。
と言うか随分と都合の良い魔法だ。
この魔法を使った所有者が死んだら収納された品は何処へ行くのだろうか?
『そんな物、所有者の死体の近くに散乱するに決まっておるではないか』
……何だろう。RPGとかで魔物が武器とかをドロップする法則を垣間見た様な気がする。
『ちなみに補足すると、この魔法には色々と質があってな。収容出来る数は元より、物の劣化何かにも干渉出来るのだ。高位の使い手になると氷をいつまでも解けずに持ち歩けるのだぞ。まあ、氷なら魔法で生成すれば良いだけであるがな』
ヴェノはどれくらい所持出来る訳?
『我を侮るなよ? 我の所持限界数はこの村を丸ごと収めたとしても、まだ余裕がある。まあ、色々と制約があるので今すぐ村を収めろと言うのは無理だがな』
魔力とか色々と足りないって話だったしな。それが出来るなら苦労しない。
しかし、それだけの容量があるのは便利だ。
『うむ。汝が籠などで背負える範囲なら容易いが、それ以上となると今の我も少しばかり厳しい所だ。その代わり、品質の劣化は出来る限り抑える事を約束しよう』
アイテムボックス的な便利な能力って事で納得しよう。
さて……じゃあ準備も終えたし、試しと言う事で採取の依頼をやって見るとするかね。
と言う訳で俺は掲示板からマルフィーナの採取依頼の紙を手に取り、ヴェノの言うままにアルリーフさんと来た道をそのまま戻ったのだった。
ただ来た道を戻っただけなのだが……なんか禍々しいと言うか空気が重たい感じのする道が続いている。
話に上がった魔物とやらが現れても違和感の無い、そんな雰囲気だ。
アルリーフさんがいたからそんなに感じなかったけど、一人で来ると余計に不気味な感じだな。
『我がおるではないか』
ヴェノじゃなぁ……俺の脳内で喋る自称ドラゴンではこの孤独感は拭いきれない。
実在の証明として武具はくれたけど。
『我が居ても寂しいとは……さては汝、寂しがり屋だな?』
……ヴェノの挑発は無視して神経を張り巡らせる。
ゲーム風で言うなら俺はLv1の村人以下かもしれない存在だ。
そんな雑魚がホイホイと出歩けるほどこの辺りは簡単なフィールドなのか不明だからだ。
ゲームでは1Lvから順番に適正な敵が現れるものだが、現実ではいきなり30や40の敵が出て来るかもしれない。
仮にこの辺りの村人の最低Lvは35ですよー、なんて場所だったら一瞬で詰みだ。
速攻で移動して安全そうな魔物の殲滅に走った方が生存確率は上がるだろう。
『安心せよ。汝は我の補助を受けているのだぞ。出会った魔物が危険かそうではないか位、我の知識で教えてやる』
便利だとは思うが、ドラゴン基準で安全と言われても人間が安全とは限らない訳で。
更に言えば俺には戦闘経験が無いからな。
『生き残る事を意識してもらえて我も助かるが、信用されていないと言うのは腹立たしい。我を愚弄するのは大概にしてもらいたい物だ』
なんて感じで警戒しつつ歩いていると……。
ピコっと俺の視界で魔物の名前が浮かび上がる。
クロムイエローポイズンウィップ
道の隅に生えている一見すると蔓にしか見えない植物が魔物の様だ。
蔓自体はそこそこ太い。
こんなのアルリーフさんと来た時には生えていなかったぞ?
しかし、随分と長い名前だ。
RPGで出て来ても名前が覚えづら過ぎて忘れてしまいそうだな。
『ああ、そやつは雑魚だ。生態だが、蔓の先から毒液を噴射して相手を弱らせ、からめ捕って肥料にしようとして来る』
そうか。
で? Lv1で勝てる相手か?
『何分人間がどの程度戦えるのか我も判断出来ん。が、奇襲をして剣で切って見るのが良いだろう』
大丈夫なのか?
助言するにしても俺自身のスペックと武器の性能を把握しきれていないのが理由なんだろうけど。
『幸いあちらも擬態をするのに精一杯で、見破られたなどと思っておらん様だ。気付いていない様に平静を装いながら歩いて、対処される前に駆け抜けるように剣を振って通り過ぎよ』
わかった。
潜伏のローブ+3の効果もあるのか、クロムイエローポイズンウィップはこちらを把握しきれていない。平静を装いつつクロムイエローポイズンウィップが絡まっている木の近くまで歩く。
そして俺の接近を感知してこちらを攻撃する機会を窺うクロムイエローポイズンウィップが奇襲を仕掛ける前に……一気に駆け出して、すれ違いざまに子供が棒切れで空気を切る感じで俺は剣を振りかぶる。
スパッと良い感じの手ごたえと共にクロムイエローポイズンウィップの蔓の部分はいともたやすく切断され、木に絡まっていた部分の締まりが無くなり、弱々しく地面に転がった。
「ギ……ギギギ……」
クロムイエローポイズンウィップの蔓の部分が抵抗とばかりに擦れあって音を出している。
「切れ味は悪くなさそうだ」
フライアイアンの剣+4の刀身を見ながら呟く。
凄く軽くて切れ味も良いとか中々に使いやすい。
新しいカッターで紙を切った時と同じ位、切れ味が良かったぞ。
チャンバラに等しい振りだったけどアッサリと行けるもんだ。
クロムイエローポイズンウィップが蛇の様に鎌首を上げて、最後の抵抗とばかりに毒液を俺に噴射してくる。
サッと避けると、力尽きたのかクロムイエローポイズンウィップはぐったりと動かなくなった。
そしてEXP12獲得と出た。
1や2じゃないって所にRPG経験による直感がヤバイと教えてくれる。
オンラインゲーム基準でも格上な魔物だったんだと理解出来るぞ。
『初戦は快勝の様だな』
あまり戦ったって実感が湧かないけどなぁ……。
ゲームなんかでは戦闘終了と共に勝利のファンファーレが鳴ったりするが、実際はこんなものなのかもしれない。
とはいえ、勝ちは勝ちだ。
少なくとも生息している魔物を一匹倒したという事実は確かなものだ。
『まずはこう言った戦いやすい魔物との戦闘を経験しておくのが良いだろう。経験は何物にも勝る、我も強さの判断材料を把握しやすくなる』
初戦を経験したのでステータスを確認してみる。
次のLvまでどれくらいだ?
確認すると80%位溜まっている様だ。
『おい。気を抜くでない。聞いておるのか?』
Lv1から2に上がるのに必要な経験値は14って所だな。
後一匹で上がるのか……少しばかり魔物を探したい衝動に駆られる。