四十九話
そんな訳でアルリーフさんの転職は見送り、俺達のLv上げをする事になった。
しかし……短い日数でアルリーフさんのLvが随分と上昇したものだ。
まだ上位職がある訳だけど、しばらくはその上位職の中堅位の強さはあるだろうって事だとヴェノは説明していた。
ちなみにアルリーフさん曰く、基本職のLv60になるには、本来身の丈よりも強い魔物相手に戦う生活を数年しないと到達出来ない領域だとか何とか。
それがこれだけの日数で出来たんだから儲けものか?
思ったよりも入って居ないのは……まあ、所詮は下水道に生息する雑魚魔物って事なのかもしれない。
どんな強い奴だって敵の数が多いと苦戦するのは当然だ。
塵も積もれば……だな。
状態異常とか色々と面倒な能力持ちだったらしいけど。
「じゃあ、さっそくギルドの方へ報告に行こうか」
ヴェノに討伐の目印である品々の切り取りはして貰っている。
提出するだけで良いらしいし、早めに終わらせておきたい。
「はい……ですけど、大丈夫ですか? 下水道の魔物を根絶しちゃったんですよね?」
「どうだろう? それに根絶と言ってもどこかに隠れて生き延びている可能性はあるよ」
下水道から繋がるダンジョンや洞窟からまた入って来るだろうし。
それでも勢力的に弱体化しているのは間違いない。
一旦生態系のリセットが出来たと思えば儲けものだろう。
なんて不安に思いつつ……ギルドに向かった。
結論から言えば、大丈夫とは言い難かった。
役場の人にいきなりボンと出せるだけ討伐証明の部位を出したら驚かれると思ったので小出しに、無限と呼べるくらいドンドンネズミ共の尻尾を入れた袋を出して行ったら上司を呼ばれて別室に案内された。
最初は大物の魔物の部位、ビックボスとかクロコゲーターとかの部位を出したんだぞ?
こんな魔物がいたんですね……と受付の人も驚きつつ処理と計算をしてくれていた。
けど、雑魚であるラット達の尻尾を提出して行ったら徐々に青ざめてね。
最終的に役場の空き部屋を使ってどうにか全部出し終えた。
「こ……こんなにも下水道のラットや魔物達を倒したのですか!?」
「ええ、効率良く集めて倒す手段がね。彼女の料理で集めて一網打尽ですよ」
『嘘は言ってないな。順序は逆だが』
ヴェノの補足は職員には聞こえない。
効率が良さそうな場所でアルリーフさんの料理で一網打尽にしたんだし。
「はー……確かに話は聞き及んでいましたが、直に目にすると驚愕ですね」
「ただ、ラット達のボスが抵抗とばかりに下水道内で毒ガスを充満させたのでしばらくは入らない方が良いかと」
「最近は地面から物音も減ったので、そこは問題ないかと」
『後はこれだ。ああ、汝もわかっておるだろうが、隠している情報があるのを忘れるな』
ヴェノが下水道内の全容を記した地図を出現させるので、それを掴んで手渡す。
「こ、これは!?」
「今回の依頼のついでに地図を作っておきました。さすがに隠し部屋の類までは網羅出来ませんが役に立てれば幸いです」
「ありがとうございます! ここまでの代物を用意してくださったのです。十分な報酬を約束、したいのですが……その、ここまで大量の討伐は……えーっと」
ああ、やっぱりそうなるか。
「こちらもそこまで労力があった訳じゃないので、出せる範囲で良いですよ。ただ、足元を見られたら相応に相手をしますけどね」
お前等の誠意を見せろと俺は敬語の中で威圧をして置く。
ブラック企業では必要な技能。タダでは転ばない交渉方法を俺だって覚えている。
舐められてはいけないが威圧し過ぎて逆切れされては元も子もない。
「その地図には現在、どこら辺に危険な毒ガスが発生しているか記しておりませんし、他にも色々と見つけたのでね」
払うべきものを支払わねばこちらも満足出来る仕事が出来ないし、しない。
信用が大事なんだから何かしらの生命線を握って置く必要がある。
ヴェノに出してもらった地図はあくまで下水道内の見取り図でしかない。
ここに危険なガスが充満している区画や水路の流れる方向とかいろんな物の情報が欠ける様にしている。
これ位はしておかないと突然の仕様変更とか、無理難題を押し付けて来るような真似をして来る可能性は否めない。
「他にも色々と発見したのですが……わかりますよね?」
出し渋ったら教えない。
金ではなく誠意を見せてほしい。
そう思いながら俺は職員に向かって念を押した。
「も、もちろんです。ですが……下水での魔物駆除の予算範囲から逸脱した提出量なので、少しばかり上と掛け合わせて頂いて貰ってもよろしいですか?」
金の方はギルド内でも十分にある。
けれど、その依頼範囲内の予算額を大きく超えてしまっているのか。
まあ……幾ら冒険者と言えど、普通はこれだけの量を持って来ないだろうしなぁ。
「当然ですね。こちらは何も金を満額請求している訳ではありません。寄り善く活動できる様にして頂けたりしてくれればと考えていますよ。住み良い町の為にも必要ですから」
「はい……では今回だせる限度額として……四五万ラグを即金でお渡しします」
それでも結構な金になったなぁ。
エルバトキシンの討伐報酬に匹敵するぞ。
「それと……大型の魔物に関しては別で報酬を用意いたしますので、連絡先を教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「そこはウェインさんの家に繋いでもらえれば問題ありません。じゃあ……その金銭を頂けた後、重要度の高そうな情報からお教えしていきますね」
ルリカさんはギルドに話を通していたし、軽く手を上げて挨拶をする。
「承知しました。この度は長年問題となっていた下水道の環境改善に貢献して頂き、誠にありがとうございます」
そんな訳で腹の探り合い気味にギルドで依頼達成を一応終える事が出来た。
ちなみにこの出来事の所為でこの町の冒険者達からラットバスターなんて妙なチーム名で呼ばれ始めたのは……まあ、しょうがないのかもしれない。




