四十六話
『小娘の料理が創造主に魔素を指定献上しているのかもしれん。だから汝等には入らないのだろう』
うえ……アルリーフさんの料理じゃ俺に経験値は入らないのか。
まあ……ダメ元で行った作戦だから良いけどさ。
「とりあえずしばらく様子を見て、下水道を確認して来るね」
「はい……なんか酷い事を私達がしている様な気がしてきました。エルバトキシンはこんな気分だったのでしょうか?」
「そうかもしれないね」
なんだろう。アイツと同じ事をしているって思うとやっちゃいけない事だった気もする。
けれど、ここは人々が生活する町で、危険な魔物が下水道に生息しているから処分して欲しいと言う依頼だった訳だから、問題は……無い、はず。
そんな訳で……それから約二日ほど、アルリーフさんに経験値が入って行くのが確認され、最終的にアルリーフさんのLvは63まで上がった。
既に上位職に届くLvで上位転職可能なスキルも発現してしまったらしい。
「あの……私の〈死へ誘う料理〉が進化して〈死へ誘い嘲笑う恐怖の料理〉になってしまったんですけど……」
「ああ、うん。ごめんね……ヴェノにはしっかりと言って尊厳を踏みにじって置くから」
『それはどう言う意味だ!? 我をいじめるのか!? 汝如きにいじめられる我では無いぞ!』
アルリーフさんのクレームはしっかりと受け取ろうと思う。
下水道に生息する魔物が駆逐されていく中、俺が食っても大丈夫なのが激しく不安だ。
そうして下水道に食物を放って三日程経った頃だろうか。
ウェインさんの経過観察だ。
「む?」
ウェインさんが包帯で巻かれた体のまま自らの石化している箇所に触れる。
「柔らかい……が、どうせすぐに硬くなる」
やや悲観的な様子だけど、体が軽く感じるのかキョロキョロと体を良く動かす様になった。
大分効果が出て来ている様に見受けられるな。
「後少しですよ」
ヴェノの見立てだと俺の軟化毒が染み込んで後少しで根に届くそうだ。
「どうだかな……」
ウェインさんは相変わらず悲観的でよくなるとは思っていないっぽい。
「それじゃあそろそろ出かけてきますね」
「……ふん。下水道に生息する魔物の駆除だったか。出来るのか?」
「ええ、アルリーフさんの料理ですから」
「そうか……アレならば出来るかも知れん」
信じないでください。
アルリーフさんの為に……。
「今日は掃除になるのでちょっと遅れます」
「ああ……行って来い」
と言う訳で俺はみんなに出かける事を告げて、下水道へと向かったのだった。
とりあえず……アルリーフさんに経験値が入るのが収まった事を確認してから、俺は下水道へと再度侵入した。
まあ、言うまでも無く下水道は静まり返り、中には……死の匂いだけが漂っていた。
……酷い話だ。
あくまで比喩的なものだけど下水道内は静まり返り、水の流れる音以外は全く聞こえない。
二日前まで確認してた時々聞こえていたネズミの声や虫の音さえも聞こえないから、相当不気味な状況だとわかる。
そして出て来ると言うか、転がっている無数の魔物の死骸。
みんな口や全身から泡などを吹いて事切れていて、常軌を逸脱した死に方をしたのは誰の目にも明らかだ。
俺は黙々とヴェノに頼んで魔物達の死体を収納して行く。
アルリーフさんの料理ってレジスト効果があるのでヴェノが収納を施すと魔物の死体が消えて役目を終えた毒料理だけがその場に残る。
もちろん役目を終えた毒料理が動く気配は無い。
これで動いていたらと思うと恐怖でしかないけどさ。
『ふむ……死ぬまでに随分と毒素に汚染されるようだな。さすがの我も食うのは躊躇うぞ。とはいえ、解体はしておくとしよう』
ギルドに討伐した旨を証明する為に魔物の特徴的な体の一部を持って行くのが決まっている。
ネズミとかだったら尻尾とかな。
しかし……こんなネズミを解体して何かに使えるのか?
『ここまで大きな毛皮となると使い道は出て来る。問題は死後、肉などが硬くなるから血抜き等も含めて……血肉が軟化しておって皮が割と綺麗に剥げるな。小娘の料理は恐ろしいな』
なんかヴェノが言い直した。
皮剥ぎが簡単だったのか。イヤだなぁ。
『微弱に魔素的な活動をしている? ゾンビ化に近いパターンか?』
おい。不吉な単語が聞こえるぞ?
ゾンビってやばくないか?
『小娘の料理で死んだ獲物が死後、どんな変異をするかわかった物ではない。早めに全て回収した方が良いかも知れん。早く下水道を探索するのだ』
わかったわかった。
で、時々アルリーフさんの料理の生き残りらしき代物と遭遇したんだけど、二日も経って多少劣化しているのか動きが悪くなっていた。
さすがに食いたくないので踏み潰して処理したぞ。
ああ、もちろん既にアルリーフさんには許可をもらっている。
むしろ見かけたら処分して欲しいとまで言われてしまった。
ところでヴェノ……気になったんだが、この下水道から下流に町とかあったらとんでもない事になるんじゃないか?
『さすがに下流の町までの間に小娘の作った料理の毒素と言えど薄まって無いも同然になるわ。そもそもその辺りは下流の川で泳ぐ魚を見ればわかるはずであろう?』
あ、そういや二日の間に一度下流の川辺に確認に行ったもんな。
食物が逃げ出して居ないかの確認だと思っていたけど、毒素も見ていたのか。
『元々食物故に水に潜るのは近くに獲物が居ない限りは避ける様であったのでな、下水道を出るよりも下水道内の魔物を襲う事を優先したのだろう』
とんだ大量虐殺状態だ。生態系とか大丈夫なのかね。
……下水道に生態系もくそも無いか。
で……うん、道中で見かけたホワイトリリークロコゲーターも死んでいる。
流れの緩やかな水路の途中で腹を上にして浮かんでいてピクリともしない。
かなりの大物だし、ワニ皮って高級感のあるイメージだから素材が高く売れそうだ。
『ふむ……死後二日以上は経過しておるだろうが、思ったよりも劣化は無いな。若干ふやけておるが乾かせばまだどうにかなる』
こう簡単に良さそうな素材が手に入るってのも呆気ないけど、金、引いては装備代に出来そうだから悪くない。
アネコユサギ先生の『毒使いの逃亡者 ~瘴気のあふれた異世界で、なぜか俺は回復している~』が、
いよいよ、明日3月24日より全国の書店で発売です!
書籍版は、雑誌連載とは展開が異なります!
美麗なイラストとあわせて、連載読者の皆様にもきっと楽しんでいただけるかと存じます。
是非、手に入れて連載版とのちがいを比べてみてください。
担当編集者より。




