表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/74

四十一話

「物凄い気分屋の方で、俺が来たらご迷惑でしたか?」

「いえ……そうではないんですけど、ちょっと事情があって祖父はもう鍛冶が出来なくなってしまいまして」

「……ルリカ、来客か?」


 なんて話をしていると屋敷っぽい大きな家の奥の方から、車椅子に腰かけた室内なのに帽子を被る渋い老人がお手伝いっぽい人に車椅子を押して貰ってやってくる。

 ……この世界にも車椅子ってあるんだな。


『小型馬車だと思えば不思議ではないだろうが』


 そりゃそうか。

 で、この老人、なんか毛布を羽織っていて顔以外見えない。


「アルリーフがわざわざおじいちゃんに、親公認の婚約者を連れて会いに来てくれたのよ」


 ちょ!? もうそれだけで伝わる程!?


「嘘言うな。あの頑固者が目に入れても痛くない自慢の娘を嫁に出すもんか!」


 あ、冗談だと思われてる。

 というか……親戚内でも有名ってどんな関係なんだ?

 本当にアルリーフさんの料理伝説が気になってくる。


『哀れなものだ』

「ウェイン御爺さん」

「おお、アルリーフ、本当に来たのか……駆け落ちか?」


 あ、疑われている。

 とりあえず印象は悪くない人だ。もっと偏屈な人かと思っていた。


「だから違います! 本当にお父さんに許可を得てます!」

「ふむ……それは置いておくとして、さっきの話からするとワシに用があって来たらしいな」

「はい……一体何があったのですか?」

「……」


 アルリーフさんの質問にウェインさんはしばらく沈黙を続けた。

 やがて沈黙を破る様に顔を動かしてお手伝いに室内の奥の方へと行く様に命ずる。


「入れ……事情は奥で説明する」


 恐る恐るとアルリーフさんが一歩踏み出して屋敷の様な大きな家へと入る。


「えっと、俺がいたら困るでしょうか?」

「……」


 あ、答えてくれない。

 完全に蚊帳の外って感じだ。


「どうぞ。来てほしくなかったら帰れって言うんで大丈夫です」

「そうですか? では遠慮なく」

「ムー」

『偏屈な老人であるな』


 盛大なお前が言うなだな。偏屈なドラゴンがよく言う。

 アレはマシな方だ。

 俺のブラック企業時代だとな、老人の中にはとても酷いクレーマーが居て、ただストレス解消に難癖付けて来て、何時間も人に文句を言い続けた奴がいるんだぞ!

 それに比べれば遥かに良い人だ。


『汝の過去の経歴を持ってくるでない!』


 なんて感じにヴェノと脳内で言い争いをしながら俺達は黙々と大きな家の奥、若干薄暗い室内へ案内された。


「アルリーフ、ワシが鍛冶が出来ないと言うのはな、もう体がまともに動かんからなんじゃ」

「動かない? えっと……大きな怪我をしてしまったんですか?」

「いや、そうではなくてな。詳しい者は完治するのは不可能な病だと言っておった……一目見れば諦めてくれるじゃろう。ルリカ」


 そう言ってウェインさんはルリカさんに毛布を取らせる。

 すると……そこでアルリーフさんが口に手を当てて絶句している。

 俺も絶句した。


『ふむ……』


 なんて言うのか……ウェインさんは首から下の殆どが灰色の硬そうな皮膚に覆われてしまっていたのだ。


『石化の状態異常だな。呪詛的な物か、強力な魔法か……バジリスクやコカトリスから攻撃を受けたか』


 ああ、やっぱりいるんだ?


「あの……その、治療しないんですか?」


 どうやら石化は治せるらしい。


『魔法が原因であれば魔法で治せる。難易度は高いがな。他に薬や専用の道具を使用する事でも解呪出来る。完全石化は死の場合もあるが対抗手段も十分にあると思うぞ』


 俺はウェインさんの様子をマジマジと確認した。

 こうして話が出来ている訳だし、症状的に徐々に石化って感じだ。


「……両方試したが何の効果も無かった。高価な薬が多少効果がある程度だ。だがそれもすぐに再発する……」


 確かに、あんな状態じゃ歩く事すら出来ない……と言うか歩いたらそこからヒビでも入って砕けそうで怖いな。


「病に詳しい者が言うには、石質病という奇病だそうだ……原因までは解明されていない。ワシもいつ死ぬかわからない身なのだ。折角来てくれたのは嬉しく思うが、鍛冶は諦めてくれ」

「そんな……」

「ワシが町の良い鍛冶場へ紹介状を用意してやる。それで諦めて欲しい」


 もはや死ぬまでの余生って感じでこの家で過ごしているって事なのかもしれない。

 アルリーフさんが救いを求める様に俺の方を見る。

 そして手を合わせて祈るポーズで見つめて来る。


「ユキヒサさん、聖竜様……どうにかならないでしょうか」

「ムー……」


 ムウもウェインさんの様子を見てなんか期待している様な顔をしている。

 頼られるのは嬉しいしどうにかしてあげたい気持ちはあるけど……ヴェノ、どうにか出来ないか?


『生憎、我もこの様な病を見聞きするのは初めてでな』


 となると治療法はわからないか。

 だけど、どうにかしてあげたいって気持ちはある。

 アルリーフさんには色々と助けてもらっているし。


『まずは診察する事が大事ではないか?』


 そうだけど、俺が確認しても大丈夫か? 信用はされていない気がするんだが。

 とは言え、やって見るか。

 俺は徐に手を上げる。


「あの、すいません。よく確認させてもらって良いですか?」

「は?」

「貴様に何が出来ると言うんだ?」


 あ、ウェインさんが若干警戒気味に答える。


「大丈夫です! ユキヒサさんは私の村で蔓延しそうになったブラッドフラワーを瀬戸際で治療薬を教えてくださった方です。そしてその体の中には聖竜様を宿しています。もしかしたらウェイン御爺さんを治療出来るかもしれません」


 アルリーフさん、気持ちはわかるけど、俺の信用ってそんなに無いんだ。

 しかも聖竜を宿しているって言われても信じられないと思うよ。

 現にウェインさんは俺を怪訝な物を見る目で見ている。


「どうやってアルリーフ達を誑かしたかは知らないが、ワシを騙す事は出来んぞ」


 そりゃあそう思うだろう。偏屈じゃなくても怪しさ抜群だし。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ