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四十話


「うーん……総合すると良さそうな依頼は数日移動した先にある森での採取と魔物の素材調達、草原に出没する魔物の討伐かなー……」

「ムウウウ……」


 あくまで俺達の強さに合わせた効率の良い依頼って所だとこんな感じ。

 他に賞金首退治に仲間を募っている、未知のダンジョンに挑む為に仲間募集なんて依頼も結構あったけど、変わった職業に就いている俺では参加条件を満たせない。

 声を掛ければ入れてくれるかもしれないけど、正体が露見しかねない事は出来れば避けたい。

 自然と事情を知っているアルリーフさんとムウと一緒に依頼を達成すれば良いかって事になってしまう。

 役場の受付の人に相談するって手もあるらしい。

 何か新米冒険者とか町に来た新入り冒険者を相手に色々と助言してくれるありがたい係員がいるそうだ。


『……我に妙案があるぞ?』


 ここでヴェノが挙手する様な声音で告げる。


「妙案ですか?」

『先ほど小娘が指差していた下水の依頼があっただろう?』

「はい。大変な仕事ですね。しかも追加情報では町の下水に相当数の魔物が繁殖しているそうです。群れに遭遇すると中級冒険者でも危ないかもしれないと」

『ならば奴等を毒殺すれば良いのだ。殺鼠剤と言う物があるだろう?』


 ああ、そう言った手ね。確かにそれは良いかもしれない。


「えっと……前にそう言った事をした冒険者や役場の職員が居たみたいだけど、すぐに免疫を持たれて毒薬に鼻まで効くようになっちゃって、挙げ句毒まで使う様になって逆効果になったって歴史があるみたいです。町の歴史にそう言ったものがあって手をこまねいているそうです」

『ふ……汝等は考えが甘いぞ。我をなんだと心得る。その程度の事など既に視野に入れていて話しておるのだ』

「……ではどんな考えを聖竜様はお持ちですと?」


 なーんか、ヴェノが碌でもない事を言いそうな気がしてきたぞ。

 こんな時に出て来る名案って大体、どうしようもないんだ。


『うむ……その案とはなブラッドフラワーの根絶と似た様に――』


 と、話し始めた所でアルリーフさんは言葉を失った。

 ああ、やっぱり碌な事じゃなかった。とは言え、準備が必要なので潜伏先へ行く事にした。



「ここみたいですね」


 作戦の準備と一緒にアルリーフさんが潜伏先として紹介された人物の家へと案内してくれる。

 町の中でもかなり大きい屋敷みたいな家だ。


「ここにはどんな人が住んでいるの?」

「ウェイン御爺さんです。ウェイン御爺さんは私が小さい頃に可愛がってくれた親戚の御爺さんなんですが、凄腕の名工だって話です。事情を説明すれば力になってくれると思います」

「へー……名工かーじゃあお願いとか出来ないかな?」


 俺はクロスボウを取り出してアルリーフさんに見せる。

 一応ボルトを放ったり出来るのだけどギシギシと妙な音が聞こえる時が増えて来ている。

 引き金を引いてもボルトが飛んで行かない時がある位だ。

 一応、壊れない様にメンテナンスはしているんだけど、本格的な修理が必要になって来ている。

 構造も複雑だから安易に分解したらどうなるかわからないって問題もある。

 高性能だけど、この先の事を考えると、どこまで通用するかなんて不安もあるんだよな。

 ボルトも騙し騙し使っていたけど、本来は消耗品な訳だし、割れたり毒付与で溶けたりした物を省くと残り少ない。


「確かに、なんとなくですが性能が落ちて来ていますね」


 本格的に職人に頼んで補充しなきゃいけなくなってきている。

 スモークアーマーもある程度補修はしているんだけど、物が物なので本格的な修理には程遠い。

 ムウに持たせている斧はまだ程度が良いけど、フライアイアンの剣は一回錆びが出てしまっているしね。

 ヴェノが乗り換えるのに良い武器とか持っていれば良いんだけどさ。


『さすがに我も何でも持っておる訳ではないぞ。これよりも良い品で汝等が使える品となると限られる』


 元々ヴェノも収納して忘れていた代物だった訳だし、精々兵士とか騎士が持っていた汎用的な武器が大半らしい。


『一応、全身鎧も持っておるぞ? ただ、武器となると装飾品に近く、性能はな……小娘が背負っている剣が使えればそんな心配も緩和されるのだがな』


 ああ、アルリーフさんが持っている先祖が使っていた聖剣ね。

 カルマブレイズだったっけ?

 一度発光した後はうんともすんとも言わない。戦闘には使えないお守りみたいな代物だ。


「お父さんの話だと、冒険者として活動するなら装備をケチったら死ぬだけです。薬を長期で売る事が出来れば私達もお金稼ぎ出来るのですが……」


 そう、俺達は継続して利益を出す方法を知らない訳ではないのだ。

 問題は追跡者から逃げつつ強制憑依召喚を解除する術を見つけなきゃいけない。

 その為に、悠長に……なんて事は出来ないんだ。

 とりあえず俺達が貯めた金は装備を固める為に使うのが良いだろう。

 ニスア村の武器屋でさえ、かなり高額だったのだ。

 本格的な物を買うとなると、この程度の金では足りない。


「とりあえず会って見ましょう」


 アルリーフさんが扉の近くにあるボタンを押す。

 するとカーンと良い感じに響く音が聞こえた。

 随分と個性的な呼び鈴だな。


「はーい」


 声がして大きな家の扉が開くと、そこにはちょっと体付きの良い女性が出てきた。

 後ろ手に二つに分けた長髪をゴムで止めている。

 袖なしのシャツを着ていて、胸が目立つ。

 腹が見えるぞ。ズボンは……デニムっぽい革のパンツかな?

 なんかワイルドな印象を覚える。


「えーっと……アルリーフちゃん?」

「あ、はい。ルリカさん、お久しぶりです」

「お久しぶり! こんな所まで一体どうしたの?」

「えっと、色々と事情があって旅……をする事になりまして、その途中でウェイン御爺さんの家が近いって聞いて会いに来ました」


 アルリーフさんが事情を説明するとルリカという女性は俺とムウの方に目を向けた。


「この人はユキヒサさん。一緒に旅をしている方です。えーっと詳しい話は誰も聞いてない所で話しますけど、お父さん公認の人なんですよ」

「え? あの子煩悩で有名な貴方のお父さんが?」

「はい。ユキヒサさんは故あって私の料理を……食べる事が出来まして」

「え!? ……それは凄いわ!」


 どこまでアルリーフさんの悪名って有名なんでしょうね。

 色々と根掘り葉掘り聞きたい。


「ユキヒサさん、この方はルリカさん。ウェインさんのお孫さんです」

「ムー!」

「この子はムウちゃん、ユキヒサさんが使役しているマイコニドです」


 ムウが愛想良くお辞儀をする。


「よろしく……とは言っても、用件っておじいちゃんに挨拶に来ただけ?」

「いえ……しばらく厄介に馴れないかと言うのと、ウェイン御爺さんは鍛冶で有名だと思い出して、私達の武具を作って頂けないかと尋ねに来ました」


 ルリカは目に見えて顔を曇らせて言い辛そうにしている。

 なんだ? ウェインさんって何かあるのか?


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