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四話

『しかしポイズンアースなどと言う職業は聞いた事がないぞ?』


 そうなのか?

 まあ俺もそれなりにゲームをやってきたけど、馴染みの無い名称だとは思う。


『うむ。我の知識では人間はアースと呼ばれるのが初期職業であるはずなのだ。そのアースが一定のLvになった等、条件を満たすことで別の上位職業に転職する』


 初期職業アースね。 

 アレだ……オンラインゲームとかでよくあった職業の概念が近いかもしれない。

 無職から戦士、魔法使い、僧侶、レンジャーみたいな感じで。

 だが、俺の職業はポイズンアース。

 ポイズンという余計な物が付いているのが非常に気になる訳だ。


 直訳すると毒だよな。

 使える所持スキルも憑依リンクってスキルの他は毒吸収(弱)と毒放出だし。

 毒……アースがこの世界で人間って事を意味するとしたら、もしかして毒人間って事か?

 なんで毒? 俺が毒男とでも言う気か? ネット内を荒らした事なんて無いぞ。


『うーむ……もしかしたら我の影響が出てしまっているのかも知れんな』

「どう言う事だ?」


 ヴェノに尋ねる。

 するとヴェノは少しばかり困ったニュアンスを込めた口調で答えてくれた。


『それはな。我は産まれた当初は毒属性のドラゴンだったのだ』


 まあドラゴンにも色々な種類がいるもんな。

 レッドとかブルー、ホワイト、ブラック、なんて呼称が付いているのも珍しくない。

 この場合はグリーンドラゴン? ゲームだと微妙なポジションに居る奴だ。


 だから憑依されて混ざった俺は毒人間……ポイズンアースだと。

 これも強制憑依召喚の影響って奴か。

 ん? お前、俺が見た範囲だと炎の息と雷魔法を放とうとしていなかったか?


『最も得意とする攻撃をしたら相手を殺しかねん。本気で攻撃したら逆に面倒なのだ。今では滅多に毒は使わんな』


 あー……殺さない程度に加減していた様な戦い方だったもんな。

 あくまで大打撃を与えて逃がす事に意識を向けていたし。


『そもそも汝が墜落した時に堕ちた沼地は毒の沼地だぞ。あの娘が解毒剤をくれたのにはそう言った理由があったのではないか?』


 そういやそうだった。

 何か気持ちが良かったのは毒に当たっていたからって事か……。

 もしかしたら危なかったんだろうか? よくわからないな。


 よくわからないけど、あまり良い気分にはならない職業なのはわかる。

 なんて言うか、強そうに見えないし強くなる様に思えない名称だ。

 和風ゲームの経験からか、毒って重要な戦闘で役に立った覚えが無いんだよな。

 大抵のボスには耐性があって効果が無いんだ。


『そんな事はないぞ。毒を馬鹿にするでない』


 それはお前がボスモンスター側だから言える事だ。

 和風ゲームでは相手は効かないのにこっちは効く、なんてありがちなんだよ。


『ふむ、ならば汝どうすると言うのだ?』


 ……パソコンの無い場所でSEに出来る事は少ない。

 いや、無いに等しい。

 そして、先程も述べた通り、俺は戦いや運動とは程遠い生活をしてきた。

 普通に考えれば、この職業の力を使って強くなるしかないだろう。


「まあ、職業とやらを頼るしかないよな……」


 問題はポイズンアースとやらの力がどの程度であるか、だ。

 一応はドラゴンの力……強制憑依召喚なんて大それた手段を取らないと倒せない存在と混ざり合っている訳だし、もしかしたらそこが突破口になるかもしれない。

 実際、和風ゲームは状態異常が不遇だけど、海外のゲームだとそうでもないからな。

 ゲームにもよるが、ラスボスを毒と麻痺で完封した、なんてモノもある。


 まあ、ここは異世界な訳だから、どちらが正しいのか、あるいはどちらも正しくない、という場合もありえるだろう。

 どちらにしても、この先を生き残るのにはポイズンアースの出来る事を知る必要がある。

 憑依リンクってのは、おそらくヴェノと関わりのあるスキルだろう。


『そうだな。おそらく我が憑依している事で強制的に習得させられているスキルで間違いはないであろう』


 スキルってのは意識する事で発動できるのか?


『ああ、習得するのにしっかりと学ばねばならない物もあるがな』


 習得型のスキルもありそうだな。

 なんて思いつつ、憑依リンクを意識して発動しようとしてみる。

 ……特に何かが起こる気配は無い。


『我との繋がりであるからな、我とこうして意識だけで会話している事が既に発動している様な物だと思うぞ』


 つまり常時発動型のスキルって事か。

 じゃあ次は毒吸収(弱)だ。

 これも意識してみるが特に変化らしい物は無い。


『このスキルは既に発動している所を我は観測したぞ?』


 何? それはいつだ?


『汝が毒の沼地に墜落して仰向けに浮かんでいた時だ。何やら気持ち良さそうにしていたではないか』


 ……アルリーフさんに助けられる直前に寝ぼけていた時のアレか。

 温泉に入っているみたいで気持ちが良いと感じたのはこのスキルの所為か。

 何か嫌な様な気がするな。

 文字通り毒を吸収していたって事か……。


 次は毒放出。

 意識してみるとカッと文字が光った様に感じる。


 沼地の毒素


 何か別のアイコンが浮かんでいる。

 ……とりあえず決定を選択した。

 すると俺の手の平の上に紫色の水の塊みたいな物が生成される。


『ふむ……どうやら吸収した毒素を放出する攻撃が出来るようだな。初級の毒魔法に似た事が出来そうだ』


 これを投げて相手にぶつければ良いって事か……魔法を使えるのは収穫かもしれない。

 だけど異世界に来て魔法をこうもアッサリと使えると感動も何も無い様な気がする。


『魔法ではないぞ? 魔法となるともっと難しい魔法式を学ばねば使えん。我が教えてやろう。まずはな――』


 ヴェノが俺の視界に器用に図形や数式を描いて行くが頭に入って来ない。

 見辛いし、後にしてくれ!


『うーむ……さすがにこの辺りは翻訳スキルは発動出来んか。いずれ汝にわかる様に噛み砕いて伝授してやろう』


 生き残る為とは言え、懇切丁寧に教えてくれるのは助かるが……問題はそうじゃない。


『我も見ているだけなので暇なのだ。暇つぶしくらいしても良いであろう?』


 気楽な事を言いやがって……。

 ドラゴンの背に乗って戦う職業とかカッコイイと思うけど、今の俺って人間ライダーじゃないか? 人間の背に乗ったドラゴンが色々と命令している感じ。


『何やら馬鹿にしておらんか?』


 口だけの脳内ドラゴンとの会話をしているだけだからな。


『おのれ……我を愚弄しおって』


 ヴェノが殺気を放ってくるが手も足も出ないのだから怖くもなんともない。

 とはいえ、こうもピーチク騒がれるのはいろんな意味で迷惑だ。


『考えが逸れておるぞ? まずは何が出来るかの確認をしたかったのであろう』


 大体の確認が終わっただろ?

 ぶっちゃけるとヴェノが望む様に魔物を倒してLvを上げるにはいろんな物が足りない。


 まずは武器や防具、次に食料。

 しかも俺自身も腹が減っているけど異世界の金なんて持っていない。

 こんな状態でどうやって生きて行けば良いんだよ。


 ……そう言えば役場に行けってアルリーフさんが言ってたっけ。

 お金を稼ぐ手段がそこにあるかもしれない。


『ふむ……昔と変わらなければ金銭を得る為の仕事を斡旋する掲示板等がある可能性がある。行ってみると良いぞ。おそらくあの建物だ』


 そんな訳で俺達は広場から役場っぽいやや大きめの他の家とは形状が異なる……郵便局みたいな建物の方へ向かう。

 閑散とした建物ではあるが、入口の前に掲示板があった。

 とりあえず確認。


 見た事が無い文字だけど、俺にもわかる様に翻訳されている。

 いや、正確には意味が俺の頭に伝わって来るって言うのか?

 どんな原理で翻訳されているのか……おそらくヴェノのお陰だって事くらいは推測できる。

 まあ、異世界に来て言葉も文字もわかりません、なんて状況になったらそれこそ悲惨だ。

 アルリーフさんに助けられた場面に当てはめて考えるとわかりやすい。


 いきなり知らない言語で話しかけられた挙げ句、謎の薬を飲ませられるんだぞ?

 しかも身振り手振りでどうにか状況を察してもらったとしても、村に着いたら脳内でドラゴンの鳴き声が響き続ける。

 ……うん。そう考えたら如何に恵まれているのかがわかるな。


『汝は妙に考え込む奴だな。まあ我のお陰である事を感謝するのだ』


 いや、逆に考えろ。

 強制憑依召喚って魔法にそう言った効果が付属していると言うのはどうだ?


『何!? 我の手柄が人間共の魔法に奪われると言うのか!? 今すぐ訂正せよ!』


 決定! こっちの方が俺に都合が良い!


『おのれ……我の手柄を奪うとは不届き者め! 覚えておれよ!』


 ヴェノの恨み節を無視しながら掲示板にある仕事の斡旋とやらを一読して行く。

 全体的に手伝いの要請や欲しい物を交換しないか、などの取引をする物が多い。

 張り出される時間とか決まっているのかな? 随時補充されている訳ではなさそうだ。

 あ、推奨冒険者Lvみたいな物が書かれている物がそれなりにある。


 草原に生息するタイガープラントの討伐 推奨 4人以上のパーティー 基礎職Lv20~

 

 みたいな感じである程度目安とする物が載っている様だ。

 しかしながらLv1の俺からすると、とても出来る仕事じゃない。


『汝が今見ている依頼だが、おそらくこの時間まで誰も受けた様子が無いと言う事は割に合わんのだろう』


 わかりやすい半面、依頼内容に詐欺に近い物が混じっているって事かー……。

 この辺りは異世界も地球と同じだな。

 って、こう言った役場……テーブルトークとかで出て来る冒険者ギルドとかはハローワークみたいなものか。

 日雇いの仕事を斡旋してくれるわけだし。


 冒険者ギルドとかテーブルトークやゲームをプレイしている時はロマンを感じたが、いざ目の前にあるとロマンも萎んで行く。

 現実はこんな物なんだろうか?

 それとも見た感じ閑散とした村だからショボく見えるだけなんだろうか?


 ……追われている立ち場故に安易に使用しても大丈夫か気にはなる。

 こう……免許とか提示しないといけない的な。


『冒険者登録と言う奴か? それは教会で行う物だな。洗礼と呼ばれる要素だ』


 教会で?


『出来れば教会の使用は避けた方が良いかも知れん。むしろそっちの方が危険だぞ』


 まあ、宗教は時には危険だって話を聞くよな。

 ヴェノを殺そうとした連中も教会関係者な訳?


『アレは国が派遣した騎士団の討伐部隊だ。まあ、教会関係者も関わっている』


 なるほど、そう言った意味で危険な訳ね。


『でだな……この掲示板内の仕事だと……汝の右手の方にある、その依頼を我は勧めるぞ』


 言われてヴェノが指示した依頼の文字を読む。


 マルフィーナの採取 推奨 解毒魔法の習得者 Lv25~


 報酬は出来高制でマルフィーナという物をグラム単位で買い取ってくれるらしい。

 依頼人はこの村の道具屋兼薬屋だ。

 採取、と書かれているから植物だろう。

 とはいえ、推奨Lvから何まで俺にとっては荷が重すぎやしないか?


『何を言っているのだ? 我の記憶が正しければ、汝と我が墜落した毒の沼地から少しばかり泳いだ先にこれでもかと生えておる物だぞ? 毒は汝なら吸収出来るのであろう?』


 ああ、アルリーフさんが案内してくれた道を逆走するだけで良いって事か。

 しかも俺は毒吸収(弱)のお陰で解毒をする必要がない。

 解毒薬を服用すればその限りじゃないのかもしれないけど、解毒薬を飲んでまで行くのは割に合わないって事なのかな?

 魔法であれば元手はタダだから、解毒魔法さえ使えれば手に入る物って事だろう。


 難易度的に考えてLv25と表示されている。

 これは解毒魔法で解毒出来る最低Lvだろうか?

 どちらにしても毒吸収(弱)でどうにか出来る範囲なんだろう。


 確かに、これなら簡単な仕事かもしれない。 

 アルリーフさんも似た感じで採取しているのかな?

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