三十九話
「確かこの町ではその手の処理施設である下水道があると聞いた気がしますよ? ですから安心してください」
……どう安心すれば良いのだろうか?
そもそも俺の望むランクの上下水道が存在するとは思い難い。
アルリーフさんは出来ればお花摘みとか、デリケートな話なんで赤面してもらいたかった。
『どうやらこやつは小娘に汚い話題は恥じらってもらいたかった様だぞ』
「そうは言いましても……」
俺の思っている事を逐一バラすな!
『異界の設備はこの世界基準では先を行く物も多いからな……ただ、温水洗浄便座であったか? あの程度なら錬金術を上手く使えば再現出来るかも知れんぞ?』
「えっとさ……もうこの話、やめない?」
折角の新しい町なんだからトイレの話は後にしたい。
どうしてこんな汚い話を続けなければならないんだ。
「わかりました。聖竜様もユキヒサさんのプライバシーをお話しするのは程々にお願いします」
『しょうがあるまい。ある程度は自粛するとしよう。感性がこの世界の者とは違うのは重々承知しているのでな』
なんか見下げられた気がする。
「ムウ?」
ムウがよくわからず首を傾げている。
ああ、この場で癒やしになってくれているのはムウだけだぞ。
アルリーフさんは何だかんだ逞しい所があるから、時に俺の方がダメージを受けてしまうんだ。
「それではこちらです。逸れない様に注意して行きましょう」
「了解ー」
「ムー!」
そんな訳で俺達は活気ある町並みを歩いて行った。
「いらっしゃいいらっしゃーい!」
「今日は新鮮な魚が採れてるよー!」
「燻製肉はどうだーい?」
おお……かなりにぎわっているなぁ。
しかも屋台とかもあるみたいで良い匂いが漂ってくる。
ここは……商店街って感じかな?
役場へと向かう。
「ここが役場、ギルドとも言われている所です。この辺りじゃ一番大きいから利用した方が良いでしょう」
言うまでも無くニスア村の役場なんて目じゃない程に大きい。
敢えて表現するなら日本で言う所の市役所みたいな感じで色々と受付がある。
これはテーブルトークRPGとかだと冒険者ギルドと呼ばれる様な建物だな。
まあ……ニスア村はモンスターを狩るゲームだと村でのクエストまんまな雰囲気だし、間違いは無いはず。
うん、仕事の掲示板がデカイな。
ズラーッと掲示板があって、そこに大きく依頼が張り出されている。
村のお手伝い斡旋なんかとは次元が異なるな。
『汝、さっきからニスア村を下に見る考えをやめないか?』
おい、アルリーフさんに聞かれる様な事を喋るな。
『聞こえん様に調整しておる。汝も嫌われたくないだろうしな』
常にそうしてもらいたいもんだ。
さっきのトイレ談義を忘れたとは言わせない。
「いろんな仕事が種類別に張り出されていますね。後は近隣の魔物とかの生息図案内とか、稽古場、酒場、宿泊所なんかも併設してあるから困ったらここで調べたり情報収集出来そうです」
何だかんだ便利な施設だな。
なんて思っていると掲示板のほかに賞金首情報なんかも張り出されている事に気付いた。
言うまでもなくヴェノだろうと思われる張り紙があるのは御愛嬌。
他にもいろんな名前の魔物が名を連ねているなぁ……あ、討伐されている者や凄く古い物もあるっぽい。
『ああ、こやつは討伐されておるのか……おや? こいつは我が仕留めたぞ? ほー、こんな所を根城にしていたのか』
……なんかヴェノが賞金首の魔物を見て聞き流した方が良さそうな台詞を吐いている。
エルバトキシンの事を考えると、無駄なボス戦闘は極力省きたい。
『金にはなりそうだがな』
ちなみにエルバトキシンの所には討伐済みとハンコが押されていた。
「それで、今日はどうしましょうか?」
「俺達向きの良い依頼があれば良いけど」
「あ、ユキヒサさん、凄く近い所に依頼があるみたいですよ」
言われてアルリーフさんが指差す依頼を確認する。
下水道に生息する魔物の駆除
昨今、リフエルの下水道に住みついた魔物の数が増えつつある。
早々に殲滅を願う。
魔物一匹に付き~
と、出来高制の依頼みたいだ。
依頼者は町のギルドと商工会、それと町長か。
なんか事情に関しても書かれているっぽくて、アルリーフさんが熟読している。
「最近下水から魔物が顔を出してきたりする事ある。危険度は少ないが、住民は困っているそうです」
『新米冒険者とかがやりそうな仕事であるな』
「一応、そんな感じでやる人が多いみたいです。ですが……この町の下水って結構入り組んでいて、解毒対策も必要だから奥まで行くのは大変なんだそうです」
下水で解毒? 住みついている魔物に毒持ちが多いってことかな?
まあ下水道は汚れや匂いもきついだろうし、行きたくないという気持ちは理解出来る。
「ユキヒサさん、これはチャンスかもしれませんよ?」
「と言うと?」
「下水には有害なガスが発生したりしていて、探索が難しい時があると言います。風魔法などでガスを散らしても限度があるとか」
ああ、確かそんな話、日本でも聞いた気がする。
海外の映画とかだと下水道を冒険するなんて話があったりするけど、実際は有毒ガスとか充満していたりするからかなり危ないなんだそうだ。
他に近いのだと鉱山での有毒ガスが充満して死者が出るとかの話だな。
かと言って下水を毒の沼地と同じ扱いで運用は……難しいなぁ。
イヤだぞ。下水に飛びこんで回復するとか。
毒の沼地とかより精神的な意味で回復出来ない。
主に汚い意味で。
肥溜めを風呂にするって変態か! 泥ならまだ譲歩出来るが、無理だ。
「うーん……」
「問題は出て来る魔物の強さですよね。危険な魔物だったら討伐されているし、経験値が多いならもっと人が下水掃除をしているでしょうし……」
いろんな点であんまり良い依頼では無い。
あくまで新米冒険者が小金稼ぎに挑戦する依頼って事なんだろうなぁ。
「保留しよう。他にも良い依頼があるかもしれないしね」
なんて様子で色々と依頼を見て行った。
本当、町が大きいと依頼の数もケタ違いだ。
中には中々良さそうな依頼があったり、アルリーフさんがやっていた様な素材採取の依頼があったりと見ているだけでも中々楽しい物だった。
「結局どうしましょう?」




