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三十八話

「やっと見えてきましたよ。ほら!」


 馬車が丘を越えた所で、俺の視界に大きな町の全景が映し出される。


「ムー!」

「はー……疲れたー」


 ニスア村から旅立って約二週間。俺達は馬車での長旅をした。

 最初は村の人達が用意してくれた馬車に乗っていたのだが、二つ先の村で乗り合いの馬車に乗り変えた。

 強制憑依召喚を解除する為の手がかりとなる、アルリーフさんの親戚の元へと向かうには馬車を乗り換えて進むのが良いらしい。

 何だかんだ言って俺はこの世界に疎い訳で、そう言った意味で道先案内人をしてくれているアルリーフさんには感謝の言葉しかない。


 で、馬車での旅路の道中、ヴェノはアルリーフさんの先祖が遺した書物に目を通して解析を行っていた。

 ヴェノの話では、確かに強制憑依召喚の術式の元になった代物である事と解除方法の一部がわかったそうだ。

 元々は危機に陥った者達が奇跡を願う際に構築された英雄の降臨を望む代物だったとか。

 職業の加護に付随する魔法だろうとのこと。


 それで今、見えてきた町で情報収集というか、アルリーフさん達の知り合いの家を拠点にして逃亡生活を続ける予定だ。

 一応近隣国を含めた大きな地図とかを見せてもらったんだけど、瘴気に汚染されて危険な地域がかなり多い。

 この世界は人間が住む事が出来る場所が思いの外少ないみたいだ。

 まあ……ガスマスクを着用して旅をする程度の瘴気の地域も多いけどさ。

 一度そう言った地域を通った。


『新たな町か……我等の正体が出回って居ないと良いな』

「大丈夫なはずですよ。道中の町村でも何も聞かなかったではありませんか」


 ヴェノの不安にアルリーフさんが答える。

 途中検問らしき物が敷かれたとの情報が聞こえたが、その頃には既に俺達は検問の先まで移動した後だった。

 他にアルリーフさんの親戚がデマを流してくれたお陰で追っても俺達の事を掴みきれずに居るだろうって話だ。

 何だかんだ親戚のネットワークが広いんだなと思う。

 冒険者とか金になるなら何でも喋りそうななのに……俺の事をコーグレイと呼んでいた訳だし。


『あくまで小娘一家達と一緒に討伐したと言う事になっておるしな。汝だけを指名する事も出来ぬのだろう。偏見などもあって疫病騒動も我が起こした……なんて話になっているかも知れんぞ?』


 あー……そうだよな。

 潜伏している人化した悪竜が賞金首となる魔物を仕留めたと言うよりも、全ての黒幕だったとかの方が説得力があるかもしれない。

 おそらくエルバトキシンはヴェノの配下の魔物で、倒されたに過ぎない……的な。


『それにエルバトキシン騒動で随分と混乱していた。故に上手くかく乱出来ているのだろう。流れの冒険者が挙って村から逃げ出したからな。足取りを辿るのも大変だろうさ』


 なるほど……俺が賞金首を倒しただけで黒と断定するのは難しいってわけね。

 まあ普通に考えれば、あの時点で逃げ出した奴の方が怪しいだろうし。

 追っても、俺達がその中に混じっていると考えたのかもしれない。


『あまり大きく構えずに自然体でいるのが良いと我は思うぞ』

「そうですね。聖竜様の言う通りだと思います。それに……私もお父さん達と覚悟を持って話をしてきましたので」


 追跡者達がどんな非道な事をしても戻る気は無い……って事なんだろう。


「ユキヒサさんが命を狙われない様、絶対に聖竜様を助けましょうね」

「ムー!」


 理解者がいるってのは嬉しい。

 このままずっと脳内ドラゴンとキノコと共に旅をするのかな? なんて思っていたから、余計にそう思う。


『……汝は相変わらずだな』


 ヴェノの溜息が聞こえた様な気がするが気にしない。

 とりあえずだ。まずは潜伏先へ移動をしないと。

 そんな訳で俺達はアルリーフさんの導きで新たな町へと辿り着いたのだった。



 乗り合いの馬車を下りて町を見渡す。


「ここが新たな町かー……」

「はい。リフエルって町です。色々な産業で有名な商業都市とも言われています」


 商業都市リフエルね。なんかゲームだったらカットインとか入ってそう。

 アルリーフさんが住んでいたニスア村での日々に馴れていて、若干古臭いヨーロッパ風の寂れた村から都会の町に辿り着いた様な感覚。


 石造りの舗装された道、石やレンガ等で構築された建物……アレはランプ灯って奴かな?

 異世界だし、ガスではなく魔力が燃料だったりするんだろうか?

 若干スチームパンクっぽい町並みの様な気もしなくは無い。

 こう……アニメで見る世界の名作劇場的な町並みがぴったりか?

 ……突き詰めるとオンラインゲームの町並みにも近いけどさ。


 どちらにしても結構大きな町みたいだ。

 上下水道とかどうなってるのかな?

 中世時代の大都市って窓から排泄物を道に捨てていたとかで問題になっていたりしたって話を耳にした事がある。

 これでも現代日本人、トイレに関しちゃ思わない所は無い訳じゃないんだぞ。


『汝、落ちつけ。今の汝は完全に田舎から出てきた様にしか見えんぞ』


 何? ヴェノに田舎者認定されただと!?


『そもそも新しい町に着いて第一に思う事がトイレとはどういう事か。我も呆れるしか無いぞ』

「トイレですか?」

「ムー?」


 う……アルリーフさんに聞かれてしまった。

 ヴェノ、聞こえる様に喋るんじゃない! そもそもお前はどうしてんだよ!


『我か?』


 いや、やっぱり聞きたくない。

 閉じ込められた空間内で排泄……俺の中でやっているという事実を想像したくない。


『出した後に道具空間に収納したりしているな。場合によっては焼却して汝等が気付かないタイミングで道端に捨てておる』

「言うなって言ってんだろ!」


 思わず怒鳴ってしまった。


「え!?」

「ムウ!?」


 アルリーフさんとムウがびっくりしている。


「えーっと聖竜様の台詞から推理しますとトイレですよね? 聖竜様の排泄物なら調合とかの素材にもなるでしょうし、捨てるよりも有効利用する手があるのではないでしょうか?」


 ここでアルリーフさんから予想の斜め上を行く返答が来てしまいました。

 なんてドライな反応。現実的過ぎて俺の心まで冷たくなりそうだ。


『……ふむ。なんとなく汝の言わんとしている事がわかった気もするぞ。そう言えば小娘の先祖も我の排泄物を利用しようとしておったな』


 先祖代々から続く感性ですかね?



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