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三十三話


 そんなこんなで沼地のダンジョン裏口……祭壇のある方の前に到着すると、戦える村人達が集まっていた。


「よーし! みんな! ここのダンジョンに挑み、病の原因になっている魔物の殲滅を行う。パーティーを組み、フォーメーションを崩すんじゃないぞ」

「おー!」


 アルリーフさんの両親が代表となって色々と指示を出している。

 何だかんだ言って村のまとめ役でもあるって事なのか?


「目指すは最深部だが……この手の魔物は何処に潜んでいるのかわかったもんじゃねえ。最初に遭遇した冒険者も一階で遭遇したらしい。なので隈なく捜索を行う」


 うわ……確かに、それは厄介だよな。

 で、俺達はどうなるんだろうか?

 うーん……俺の戦い方って仲間への攻撃を誤爆しやすいから怖いんだよな。

 ムウならキノコだし俺の毒を受けてもある程度、大丈夫なのはわかってるけど。

 というかダンジョンの入り口を封鎖して俺が持ち得る限りの全ての毒素を放出したらとか考えてしまうんだが、どうなんだろうか?


『あまり勧められんな。何処に穴があるか分からんし、汝の所持する毒素や魔力だけではダンジョンを毒で埋め尽くす事は出来ん』


 やっぱそうなるかー……なら。


「なので各階の出口で一旦集合をしつつ捜索を行う。合流できなかったら再捜索、目当ての魔物がいたら絶対に逃がさず腕に覚えがあるものが駆け付けるまで注意を引きつけろ! 狙われている事を知るなり何処かへ雲隠れされたら任務は失敗を意味する」


 まさに山狩りだ。

 この手の凶悪な魔物を村人や冒険者が総出で狩りに出るって、割と敵サイドで描かれる事が多いけど、実際はこんな物なのかね。


『問題は今回の相手がどの程度の魔物であるかだ。どれだけ群れ様と人間が虚弱な生き物であるのは変わらんからな』


 まあ……強力な魔物が多いから強制憑依召喚なんて技術が発展したんだろうし。

 ちなみにヴェノの目算ではどれくらいの魔物が出て来ると読んでる?


『今ならまだそこまで驚異では無いと我は判断している。この場にいる人間共でも死力を尽くせばどうにかなるかも知れん』


 いや、それだとあんまり大丈夫そうに見えないんだが。


『ハッキリと相手が分かれば苦労などせん。世の中、常に侮る事で危機が訪れるのだ』


 確かに……ヴェノも人間を侮ったから今があるんだもんな。

 経験者が言うと重みがあるってこういう事を言うのか。


『ぐぬ』


 悔しがるヴェノの声を聞きつつ、作戦を把握する。


「即席パーティーじゃ何が起こるかわからない。コーグレイ、お前はアルリーフと一緒にこの裏口から地下二階へと向かってくれ。地下三階の入り口で落ち合うぞ」


 どうやらアルリーフさんの父親はアルリーフさん経由で俺がダンジョンのどの辺りまで到着しているのか耳にしていた様だ。

 見慣れた所のチェックを頼みたいんだろう。


「わかった」

「よし、話は纏まったな。後は……ここの祭壇で祈って行くぞ」


 はい?

 アルリーフさんの両親を初め、宿屋のおかみさんや他の村人も合わせてぞろぞろとダンジョン内の祭壇まで行って手を合わせる。

 俺達が転職に使っていた祭壇だよな……あそこ。

 え? 何? 朽ちた教会とかじゃなかったのか?


 パンパンと手を合わせている一同……ここは神社か。

 信心深い連中だ。

 などと思っているとパシッと壁に静電気が走って見えて俺達に纏わりつく。


 な、なんだ?

 アルリーフさん達は見えていないのか?

 カッと俺の足元に一瞬だけど魔法陣の様な物が浮かんだんだが。


『ム……これは……』


 ヴェノ、どうした?


『僅かだが強制憑依召喚で奪われる魔力が減ったのだ』


 ヴェノの力は強制憑依召喚を維持する為に強引に奪い取られている。

 その奪われる魔力量が減ると言う事は何かあったと見るのが自然か。

 しかし、奪われる魔力が減ったという事は良い事なんだよな?

 だけど……今この時に尋ねたりするのはな。


『ふむ……どうもあの像に内包された力が丸々流れて来てしまった様だぞ。もう転職をあそこでするのは無理かも知れん』


 ここに来て転職が出来なくなった報告?

 その代償にヴェノの魔力が僅かに回復してもな。

 デメリットの方が大きくないか?


『元より運良く利用できたに過ぎん。また何処かで利用できそうな物を使えば良いだけであろう』


 そうだけど……けど、どうしてこの村の連中が祈ったらそうなったんだ?

 なんて考えていたら、アルリーフさんの親父が言った。


「よーし、行くぞ! コーグレイ! アルリーフ! それとキノコ。お前等、こっちは任せたぞ」

「はい」

「えー……俺の人造生命はムウって言うんで名前をしっかりと覚えておいてください」

「ムー!」

「細かい事は気にするな!」


 いやいや、気にしろっての。

 別にそんな長い名前じゃないんだからさ。

 なんて言ったらまた時間が掛かりそうなのでしょうがないので黙っていた。

 そんな訳で俺達はダンジョンの裏口から遡る形で地下二階を捜索する事になったのだった。



 ダンジョン内に侵入し、普段よりも警戒を強めに潜る。

 事前に冒険者達が噂を聞きつけて侵入していたのか、魔物とはあまり遭遇しない。

 そもそもアルリーフさんが加入する前には来た事がある範囲だ。

 多少なりとも地形は把握している。

 ただ……前来た時よりも靄が濃い気がする。


「今日は一段と瘴気が濃いですが、呪術医の職業としての力なのか呼吸が出来ます」

「そうなの?」

「はい。ガスマスク越しでも瘴気を吸ったら分かるはずなんですが、今日は何も感じないので」


 何だかんだ言って転職する事で分かる事ってあるんだなぁ。

 なんて思いながら地下二階への道を進んでいると……。

 ワオーンと言う声が聞こえて来る。

 この声、聞き覚えがあるぞ。

 ……声の主はすぐに姿を現した。


 ミッドナイトブルーウルフリーダーとその配下が二匹……?

 ここに来て出て来るのか、お前等は!


「ムウ!」


 敵を感知してムウが斧を持って駆け出す。

 それに合わせて俺はクロスボウを構え、アルリーフさんが魔法の詠唱に入った。

 が……ムウはミッドナイトブルーウルフリーダーの目の前で足を止める。


「ムウ?」


 ミッドナイトブルーウルフリーダーはおすわりの姿勢で俺の方を見つめているようだ。


「えっと……?」


 なんだ? 何があったんだ?

 俺とアルリーフさんは揃ってミッドナイトブルーウルフリーダーの群れを見る。


「ワン!」

『む……敵意が感じられんな。それに奴等を見よ』


 ヴェノが俺にアイコンとばかりにミッドナイトブルーウルフリーダーの毛皮の一部を強調表示する。

 するとそこには村人と同じ様にドリムスヴォイタの結晶が生成されている。

 コイツ等も感染者って事か?

 よく確認すると他のミッドナイトブルーウルフも同様に結晶が付いていた。

 そのまま奴等は敵意がないとばかりに少し離れた所で立っている。

 やがて顎で道を指示するかのように背を向けた。


『ほう……さすがはリーダーの名を有するだけの事はある。相当頭が回るようだな』


 どう言う事だ?


『奴等も感染者。そして此度の件の黒幕に腹を据えかねているぞ』


 まあ以前戦った時もすぐに撤退して行ったし、頭は良いんだろうな。

 だけど、罠とかの可能性はないのか?

 アイツ等も一枚噛んでいるかもしれないだろ?


『絶対に無いとは言い難いが、奴等の状況を見れば分かるであろうが。もはや奴等も死屍累々。生き残る為に我等に頼らざるを得ないのだ』


 目当ての魔物を早く仕留めたいって気持ちは同じか。


『そして、我等の行動に助力をしようとしている……おそらく相当面倒な場所に潜んでいるのを教えようとしているのだ』


 コイツ等が出て来なければいけない意味、ね。

 確かに村人や冒険者が大群で山狩りをしているんだ。

 ヴェノが感心する位、頭が良いのなら、人間達に倒されるのを傍観すれば良いはずだ。

 そうすれば勝手に病の元凶は倒されるんだからな。


「道案内してくれるみたい。彼等も問題の魔物の被害者なんだろう」

「こんな事が……いえ、ありえる話ですね」


 事情を察する能力高いなアルリーフさん。


「前に戦った事があって、その際に仲間の一匹を俺は殺して毛皮にしてんだけど……」


 ミッドナイトブルーウルフリーダーには、流し眼で笑われた様な気がした。


「気にしてない様に見えますね……」

『過去の遺恨よりも今か。賢いな、事が終わったら我の眷属にしてやっても良いと思えるくらい物分かりがいいではないか』


 ヴェノの読み通り仲間の死を自らの未熟と判断しているってのか?


「お父さん達に報告すべきでしょうか?」

「問題は合流するまでの時間と入れ違いになる事だね。まずは目当ての魔物が何処に潜んでいるのかを見極めるのが重要じゃないかな」


 まだミッドナイトブルーウルフリーダーが本当に道案内してくれるかさえ分かって居ないんだ。

 それに何処に潜んでいるのか、その潜伏場所が正しいのかも分からない。

 勝手な判断は身の破滅になるけれど、相手が相手だし当初の打ち合わせ通りに行くのが堅実だと思う。

 何処に潜んでいるのか……それが重要だ。


「……そうですね。見当違いの所を捜索してしまう可能性だってゼロじゃありません。合流よりもまずは調査ですね」


 なんて形でミッドナイトブルーウルフリーダーの導きの元、俺達は進んでいく。

 その道中、見張りらしき魔物、クラレットサンフラワーを気付かれない様に迂回する形で通り抜けた際にはミッドナイトブルーウルフリーダーがこのダンジョンの形状をしっかりと把握しているんだなと驚かされた。


『視覚感知のスキルを所持しておる可能性もあるぞ。相手の視界で何処まで見えているのか判断しておるのだ』


 クラレットサンフラワーは植物で目なんてないと思うが……ムウみたいに実は何処かに目でもあったのだろうか?

 まあどちらにしても極力交戦しない形で俺達は地下二階に行く途中の道の一角まで向かった。


「バウバウ」


 カリカリとミッドナイトブルーウルフリーダーが壁をひっかき始める。

 洞窟の壁が僅かに削れている。

 ん? 削れた部分がなんかおかしいな。木片が大半だぞ。


「ユキヒサさん。もしかして……」


 うん。この動作は俺でも分かる。


『隠し通路であろうな。こんな所に隠れていたら分かり様も無い。ふむ……汝、この壁は植物で構築されている。後は分かるな?』


 はいはい。

 俺は毒放出で凝縮した沼地の毒素を壁に向かって放出する。

 すると壁だと思っていた部分が毒で侵食を受けて紫色に変質した。


「ムー!」


 ムウがここぞとばかりに斧を振りまわしながら壁に向かって叩きつける。

 薪割りクラッシュだ。

 植物に効果的な攻撃だ。何が役に立つか分からないもんだ。

 俺の毒で弱り切っていた壁は木屑をまき散らしながら吹き飛び、壁の先には道があった。

 何だろう?

 植物や苔が溢れた洞窟っぽいダンジョンだったのか紫色に変質した怪しげな形状に変化している。


「こんな所に隠されていたらダンジョンを隈なく調べたって見つかるはずないよね」

「はい」


 さて、アルリーフさんの両親や村の人達、ダンジョンを捜索している皆に声を掛けて……と考えた直後。

 何か壁の先の通路から空気が振動する様な感覚が通り抜けて行くのを俺は感じた。


「ウウウウ……」


 ミッドナイトブルーウルフリーダーが其処で呻き始める。

 その配下も同様に苦しんでいる様な声を出し始めたぞ。


「どうした!?」


 声を掛けながら俺は見てしまった。

 ミッドナイトブルーウルフリーダーの体に出来ていた結晶が目に見える形で大きくなってきているのに。


「もしかして……私達が隠れている場所を見つけたのがばれたって事では無いでしょうか?」

『娘の言う事に間違いはないであろう。どうやら隠れていたのを見つけられたと判断した魔物がやる気を見せている様だぞ。ドリムスヴォイタを更に活発化させたのだろう』


 ちょっと待てよ!

 アルリーフさんの両親とか他の人達はまだ戦えるってだけで感染している奴もいたんだぞ。


『合流など待っていたら仲間は元より村、果ては地域の者共がどうなるか分からんな。ここまで信号を出すと言うのは居場所を教えている様なものだが、早く処分しないと犠牲者は増える事になる。我等が先に交戦する事を推奨する』

「早く交戦して少しでも邪魔をしないと被害者が増える。予定とは異なるけど俺達が先に交戦しよう」

「はい」

「ウウウウウ……」


 ミッドナイトブルーウルフのリーダーが俺に唸り声を上げる。

 なんだ?


『配下に応援の手引きをするから一目で味方だと判別出来る物が欲しいと言っておる』

「アルリーフさん。彼等が君の両親や冒険者をここに誘導してくれるって言ってる」


 俺が手を上げるとヴェノが事情を察して紙とペンを出現させる。


「何から何まで、ありがとうございます」


 簡潔に俺は魔物の潜伏場所を特定、このミッドナイトブルーウルフ達は協力者也と書きこんで、ミッドナイトブルーウルフ達にそれぞれ布で手紙をくくりつける。


「ワオオオオオーン!」


 ミッドナイトブルーウルフのリーダーは遠吠えをすると配下の者達が駆けて行く。

 ドリムスヴォイタの影響で弱って来ているはずなのに、それを感じさせない。


「バウ!」


 そして目的地は近いとばかりに一匹で案内を続けようとこちらに吠える。

 ……なんて言うか、頭が良いのがあの後ろ姿から連想される。


「よし! じゃあ行こう!」

「はい!」

「ムー!」


 俺達は発見した隠し通路の先へと駆け出して行ったのだった。



 道中は罠と言うか細菌やカビのトラップが満載だった。

 目当ての魔物は絡め手を好む性格なんだろうと思える程に罠が多い。

 その全てを毒吸収を持つ俺が受け止めたりヴェノが見抜き、ミッドナイトブルーウルフリーダーが時に俺達を背に乗せたりしながら突破して行く。


 で、ヴェノがマッピングした地図を視界に表示させてダンジョンの全景を把握する。

 本来、捜索しようとしていたダンジョンから少し離れたいやらしい構造をしていた。

 これでは魔物がいるとわかっていても、見当違いの場所を調べていただろう。

 ミッドナイトブルーウルフ達のお陰だな。


『ドリムスヴォイタを活性化させるあの振動があるから勘の良い冒険者なら見抜ける可能性はあったぞ』


 結果良ければすべてよし。


『しかし……随分と急造で作ったダンジョンであるな。おそらく目当ての魔物が自らの能力で壁を溶かして作ったのであろう』


 紫色なのは壁を溶かして作ったからなのか。

 なんとも不気味な魔物だな。

 このダンジョンは結果的に三つの建造物が合わさって形状が変化してしまった訳か。

 地下祭壇がある元廃村の洞窟、名のある魔物が作り上げたダンジョン、そして今回の魔物が潜伏用に作った横穴。

 こうして長い年月を掛けてダンジョンってのは形成……されるで良いの?


『魔物が作り上げるタイプはな。む……この反応、気を付けよ!』


 ヴェノの注意で進む足を止め、アルリーフさんとムウが前に出ない様に腕を横に広げる。


『そこの右の壁にボルトを放て!』


 ヴェノがターゲットマークを出したのでクロスボウの引き金を引いて放つ。

 すると壁だと思っていた所がいきなり盛り上がってボルトを跳ね飛ばしながら横に飛び出した。

 ドスンと僅かばかりの煙が起こる。

 そして俺は改めて相手を確認した。


 姿は……一言で言えば物凄く大きいイモリみたいな魔物。

 紫色の体に毒々しい赤い腹。

 二足で立ち上がって俺達を見るその目には知能らしき物を感じる。

 身長は3メートルはあるだろう。

 横幅もあるので見た目以上に大きい。

 サンショウウオも連想するけど、それよりはいくらか体形がスレンダーだ。

 エリマキにマントみたいな物を羽織っていて、なんとも嫌な笑みをこっちに浮かべている。


「ヴヴヴヴヴ……」


 ミッドナイトブルーウルフリーダーが目の前の魔物……エルバトキシンという名前の魔物に唸り声を上げて威嚇している。

 エルバトキシンは笑っているのだろう。

 こっちに向かって舌を何度も出しながら口を開く。


『これはこれは……人間共が私の暗躍に気付いて私の居ないダンジョンの捜索をしていると思ったら、このように手引きする魔物がいるとは……魔物の風上にも置けませんね』


 言葉が分かる?

 ミッドナイトブルーウルフリーダーの言葉は分からないのに?

 ただ、なんとなく人の言葉では無いのがわかる。

 基準がよくわからないな。

 アルリーフさんの方を見ると特に驚いた様子は無い。



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