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三話

「とりあえず……この魔法とやらを解除出来ないのか?」

『解除出来るのなら既にしている。生憎我も強制憑依召喚から逃げるのに大半の魔力を消費してしまってな。しかもこの魔法の維持の為に我の回復する魔力を根こそぎ利用されてしまっている』

「うげ」


 思わず考える前に変な声を上げてしまう。

 まあ普通に考えて、出来るならするよな。出来ないからコイツも困っているんだろうし。


『しかも我の体は異空間に収納されて、あまり干渉出来ん。とんだ状況よ』


 相手との話し合いとかは……?


『奴等からしたら強力なドラゴンを身も知らぬ異世界人一人の命で討伐出来るのだぞ? 素直に応じると思うか?』


 こんな理不尽な状況を引き起こした奴が迷惑だからやめてくれと言って、「はいそうですか」なんて聞いてくれるはずもないか。


『しかも奴等は何があろうと我を殺そうとして来るであろうな。悠長になどしておれん。少しでも力を蓄えて遠くに逃げねばならん』

「お前どんだけ恨まれているんだ?」

『我も知らん。人間とは強欲で愚かで、自らの欲望を叶えるためにはどんな卑劣な事もする生き物であろう? どうせ我を殺し、その鱗や骨、血肉を得て、権力を誇示したいのであろう』


 この世界のドラゴンがどんな存在なのかはまだ知らないけど、そんな激しくくだらない事に平和な日本に住んでいたブラック企業戦士を召喚して殺そうってのかよ。

 どこまで理不尽に振りまわされれば良いんだ。


『事態が事態なのだ。どうにかして生き残る為に我と協力しないか?』

「これって断れない状況じゃないか? 俺だって死にたくない」

『まあ……そうだな。我も卑怯な提案をしている自覚はある。だが、我があそこで抗わなかったら汝は既に死んでおるぞ?』


 く……嫌な事を言ってくれる。

 とんでもなく理不尽な異世界召喚をされて、間一髪逃げる事が出来たのは不幸中の幸いだったのかもしれない。


「この状況を解決する手段は無いのか?」


 魔法を掛けた相手に頼れないとなると、俺達の方で解決するしかない。


『我もそこまでこの魔法に詳しい訳ではないのでな。どうにかして解析して解除できないか試すほか無い』

「解除出来る手立てが見つかった瞬間、手の平を返されたらたまったもんじゃないな」


 例えば、魔力を回復させて俺を内側から破壊すれば強制憑依召喚の魔法が解除され、ヴェノだけが生き残れる……とかな。

 なんて思った瞬間、俺の頭の中を怒気に等しい熱の様な物が駆け巡る。

 熱い様な、妙な感覚だ。

 怒ってるって事で良いのか?


『心外な! 我をそのような下等で下劣な存在だと思われるのは我慢ならんぞ! この状況は呉越同舟では無く一蓮托生、恩に報わねば愚かな人間と同類かタダの獣ではないか!』

「四文字熟語を言ってるがそれはどこから出て来てるんだ?」


 思わず突っ込みたくなる。


『ん? 我の翻訳スキル、ソロモンの指輪が作動しているだけだぞ? 汝の世界の言葉に当てはめているに過ぎん』


 ああ、そう言った翻訳魔法みたいな奴がある訳ね。便利だな。

 しかしソロモンの指輪って……いや、これも翻訳されているって事か。

 翻訳が何をベースになされているのか気になるが、俺の精神でない事を祈ろう。


『汝もこの世界の人間の言葉を理解しているのはこのスキルの力に他ならんと思うのだがな』


 ……なるほど、アルリーフさんの言葉が日本語じゃないと感じつつも理解が出来たのはヴェノの持つ魔法のお陰だったのか。

 便利だなー。


『話を戻すぞ。仮にそのような手段で魔法を解除出来るのだとしても、それを行うのは我自身のプライドが傷つく、愚鈍で傲慢な人間よりも誉れ高いドラゴンが、そのような愚行をするのは耐えられん。それならば一生この状態でも後悔などせん!』


 いや、一生、俺の脳内で騒がれるのは勘弁願いたいんだけど。

 しかも仮に逃げ伸びたとしても俺は人間な訳で、寿命とかを考えるとドラゴン様からしたら一瞬じゃないか?


『何を考えておるのだ? 我が憑依していると言う事は寿命など無いかも知れんぞ? まだ未知の状態なのだからな』


 ……ヴェノに引き摺られる形で何百年も生きる?

 不老とか人類の夢なのかもしれないけど一生逃亡者として過ごすのは御免だ。

 とりあえず手の平を返されるかどうかは別として、このままで良いはずは無い。


「まずしなくちゃいけない事は?」

『そうだな。追っ手が来るまでの間に汝がこの世界に馴染み、牙を研いで強くなり、身を守る術を学んでおくのが良いだろう。それから先はこの強制憑依召喚の魔法を破壊する術を見つけるほか無い』


 雲を掴む様な話である自覚はあるのか?

 しかも俺の考えている事に一々反応されるとプライバシーって物が無くて困るんだが。


『我もその辺りの配慮が出来るように色々と努力はする。とりあえず、生き残る為には汝のがんばりに掛かっている。出来る限り助言はするぞ』

「わかった。じゃあこれからよろしく。俺の名前は小暮幸久だ」

『うむ、ユキヒサが名前であったな。これから頼む。我の命運は汝に掛かっているのでな』


 全く……ブラック企業で食い潰されるのと異世界で人類の為にドラゴンと心中しろって理不尽を受け入れるんだったらどっちが良かったのやら。

 どちらにしても、ゲームの様な異世界で生き残るほか無い様だ。

 こうして俺とドラゴン、ヴェノの異世界逃亡生活が始まったのだった。



 閑散とした村の広場近くでぼんやりと辺りを散策しながら状況を確認する。

 まあ、ヘルプって訳じゃないけど、まずはこの世界のルールとかをヴェノから聞いておいた方がスムーズに事を進められると判断したからだ。

 まだ状況把握が出来て色々と尋ねる事が出来るだけマシとも言える。

 ブラック企業は即戦力を要求するから説明も無くいきなり仕事を命じたり無茶な仕事を要求したりする。

 終わりの見えないイタチごっこ所か上司の嫌味と結論を出さない謎の会議に始まり、ただ謝るだけの接客応答とかな。


 その中に接客もあった訳だが……アレはしんどかった。

 相手がなんで怒っているのかを理解していないのに責任者として謝罪をさせられる。

 他にも高圧的な取引先に土下座をして契約を取ってくるなんて真似もさせられたっけ。

 SEの仕事の方がしんどかったからまだ楽だと思ったが、今考えると間違っている。


『人の世も苦労が多いのだな……』


 ヴェノが勝手に俺の記憶を覗きこんで同情の声を上げているが、原因はお前でもあるんだからしっかりと理解してもらいたい。

 ……考えが脱線した。

 重要なのは知ることだ。

 知らないと言うのはそれだけで不利になるし面倒事が舞いこむ。

 相手がなんで怒っているかの理由も知らずに謝って居たって効果なんて無いだろう。

 ……言いたい事を言ってスッキリしたのか、あの時は相手も矛を収めたけどさ……その後は本当の責任者が部下面して事情を説明していたが。


 どちらにしてもこれからこの世界で生きるとして、何かある度に御上りさんみたいに聞いて回って見ろ。

 それだけで目立つ。

 というか今でさえも目立っている可能性が高いんだぞ?

 俺の格好、Yシャツにスーツのズボンだぞ? 村人の格好とは随分違うだろ。


 と言うかなんで村人達は俺をそんなに凝視していないのかが理解できない。

 アルリーフさんも変わった格好だとか注意していなかったし。


『我個人の意見なのだが、軽装な人間にしか見えないからではないか? スーツと言うが、そこそこ汚れておるしな』


 あー……まあ、確かに。

 アルリーフさんの話では何か沼地で俺は浮かんでいたらしいから衣服は汚れているんだ。

 一応、少しばかり乾かしてもらったんだけど、ちょっと不快感が残っている。

 着替えたいけど着替えは無いし、今は気にする所じゃない。

 目立たない様に最低限の常識を学んで置くのはこの先、生き残るのに必要な事だ。


『前置きはわかったぞ。まずは何が知りたいのだ?』


 そうだな……まずはさっき俺に見せてくれたステータスを確認したい。


『なんだ。そんな事か。それなら汝一人でも出来るぞ? 自身の状態を確認したいと意識を向ければ良い』


 言われた通りに意識してみる。

 すると俺の視界に先ほどヴェノが見せてくれたステータス画面が浮かんでくる。

 やはりこの世界はゲームの様にステータスがある世界の様だ。


 いや……もしかしたら俺の居た世界も実はステータスがあってそれを閲覧する術が無かったと言う考えも捨てきれない。

 経験値とかそう言う要素を簡単に取得できない様になっていて、ステータスは隠し状態なら……なんて事はまずは無いか。

 ……地味に俺、現状を受け入れ切れていないのかもしれない。

 混乱している自覚がある。


 とりあえずステータスの確認だ。

 本当にゲームの様で、俺から現実感を消失させてくれるな……一体どう言った仕組みなんだろうか?


『その謎を解き明かした者を我は知らんな。遥か昔からステータスは存在し、この世界に生きる全ての者達に自身を把握させ続けている物だ』


 あるんだからしょうがないと、ここではどのようにして表示されているのかの謎を解き明かすのは保留しよう。俺達が生き残るのには不必要だしな。


『しかし遊戯……ゲームの様とはな。おお……汝の記憶の中に浮かんでくる品々を見ると実に面白そうであるな。汝の記憶内で遊んでも良いか? 再現出来そうだ』


 勝手に人の記憶を漁ってゲームをプレイしないでもらいたい!

 何かヴェノが俺の持ってる玩具箱からゲーム機を出してピコピコと遊んでいる様な感覚がして来る。

 ともかくだ。ゲームに慣れ親しんだ人間からしたら親和性は高いだろう。

 だが、それとこれからする事を整理するのとはまた別だ。


 それでどうしたら良いのだろうか? テーブルトークのゲームの様に冒険者になれとでも?

 今までまともに戦闘した経験なんて無いぞ。

 俺の職業をなんだと思ってやがる。

 SEだ、SE。システムエンジニア。戦い所か運動とも無縁だったんだぞ。

 それならどこかでアルバイトでもして日銭を稼いで当ても無く逃げながら魔法を解除する術を探すって選択もある。戦いだけが全てじゃない。


『そのような職業が存在するのは知っておるぞ。アルバイト……日銭稼ぎにも向いておるとは思うが、そやつ等も冒険者と呼ぶそうだぞ』


 俺の記憶を閲覧したヴェノが質問に答える。

 どうやらこの世界にはファンタジーのお約束である、冒険者が存在する様だ。

 そんな職業があるって事はまだまだ未開の世界なのかもしれない。

 どちらにしても、まずは俺自身の強さを確認しなくちゃいけない。


 小暮幸久 ポイズンアース Lv1

 所持スキル 憑依リンク 毒吸収(弱) 毒放出


 で、他に細かいステータスも表示されている訳だが……どれも一桁の心許ない数字しかない。


『Lv1か……しかも随分と脆弱な能力値をしておるな。人間とは成人でもここまで脆弱な生き物なのか……我も遥か昔の幼少期はこのように弱かったのだろうが』


 覚えてないのか?


『汝……自我の芽生える前の事を覚えておるのかと聞く様な物だぞ? 昔過ぎて曖昧なのだ』


 うーん……まあ、わからなくもない。

 俺も小学校入学前の記憶は曖昧だし。


『我からしたら恐怖でまともに活動出来ん数字だ。少しでもLvを上げねばいざという時に身を守る事すら出来ん。早急に狩りに出るべきだ』


 狩りって……異世界だから魔物、野生動物がいるって事なんだろう位は察する事が出来る。

 ゲームみたいに魔物を倒せばLvが上がるのか?


『うむ。汝の知る知識にある経験値と言う要素はこの世界に存在するぞ。人間も魔物も関係なく魔素と呼ばれる力を宿しており、その魔素は相手の命を奪う事で勝者に移り、一定の値を集めるとLvが上昇し能力が上がる。弱肉強食の掟だ』


 わかりやすくて良い。

 でだ……よくわからない項目がある。

 俺の名前の隣にあるポイズンアースってのはなんだ?


『人間共が所持する職業と呼ばれる概念の力だ。この力によってこの世界の生命は力を発現させる』


 ドラゴンも?


『魔物と人間は少し仕様が異なる』


 うーん……どうやらこの職業とやらがこれから重要な要素になるのは一目で判断出来る。

 ゲームなんかでも職業の補正は大きいからな。

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