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二十九話

「魔物の群れに巻き込まれるかと思いましたけど……」


 何も無くて拍子抜けだ。

 むしろ静か過ぎる位。


「勝てない魔物の縄張りに足を踏み入れて命からがら逃げている……と言った所でしょうか?」

『その辺りが妥当であろうな』

「ダンジョンも含めてだけど、そんな強力な魔物が生息してるの?」

「えー……私の知る限りは聞きません。何分……瘴気が濃い地域なので上級冒険者じゃないと分からない所も多いです」


 そうらしいね。

 俺は毒使いで毒吸収のお陰で瘴気なんて気にならないけど、アルリーフさんの様子を見れば察する事が出来る。

 進めば進むほど、瘴気が濃くなりつつあるっぽい。

 今の俺達ではこの先に行くのは難しいか。

 俺からすると常時傷の回復が掛かる便利な場所だけど、効率良くアルリーフさんと一緒に戦うには別の狩り場とかに行くのも視野に入れるべきかもしれない。


「じゃあ、余計な騒動に巻き込まれる前に、そろそろ帰ろうか」

「ムウ?」

「そうですね。村に帰る頃には夕方でしょうし、教会にも行きたかったので丁度良いです」

「じゃあ帰ろう」


 そんな訳で俺達はダンジョンの入り口近くから来た道をそのまま折り返す形で村へと帰ったのだった。




 村に帰った所でアルリーフさんが俺に声を掛ける。


「教会に行きましょう」

「そうだね」


 大丈夫かな? ヴェノ。


『見に行く程度なら問題は無いと思うぞ。怪しげな反応があったら警告する』


 わかった。

 そんな訳で村の教会へと向かう。

 こう……異世界の教会ってゲームとかのイメージそのままの形状をしていて、それなりに感心したりする。

 シンボルは……やっぱり十字架じゃないんだな。

 アレはなんだろう? 棘の付いたハートみたいなシンボルだな。

 アルリーフさん達の祈り方から見て、この村は俺達と敵対関係にある宗教じゃなさそうだけど……。


『警戒は怠るなよ。我も出来る限り注意はしておくからな』


 なんて思いつつアルリーフさんに連れられて教会内に入る。

 んー……神聖な雰囲気って言うのかな。

 神社とかに観光で言った時の様な独特の雰囲気が教会内にある様な気がしなくもない。

 ステンドグラスから夕陽が差し込んでいて、教会内は中々に幻想的に見える。


「神父様、こんにちは」

「こんにちは。アルリーフさん」


 アルリーフさんが挨拶をすると教会内で読書をしていた僧侶っぽい格好をした人が顔を上げて答える。


「そちらは……話は聞いていますよ。毒喰らいのコーグレイさんでしたか。この村を救って頂き、誠にありがとうございます」

「えー……あー……その二つ名って」

「ええ、かのどんな化け物だろうと命がけで逃げ出す毒料理を完食したと噂されている為、付いた物ですよ。もちろん、噂の出所は……」


 アルリーフさんが額に青筋を浮かべている様な気がする。

 笑顔だけど、家に帰ったら般若の顔になって父親に詰め寄りそうだ。

 俺の二つ名、変わるの早くない?


『この小娘の料理はそれほど有名な代物だったのであろう、としか我には言い様がない』


 酷い話だ。


「さて、前置きはこの位にしておいた方が良いでしょうね。当教会に何のご用でしょうか?」

「はい。私の転職をお願いしたいと思いまして」

「話は聞いていますよ。冒険者であるコーグレイさんの手伝いをする為に、より強くなる為の力を求めるのですね」

「そうです。今日、ユキヒサさんと一緒に狩りに出て、私が何を経験すべきなのかは大分見えてきたと思っています。神父様、どうか転職の儀式をさせて頂けないでしょうか」

「……そうですか。わかりました。コーグレイさんは村の恩人、その恩人の力となる為なら私も協力を惜しみません。本来は寄付を頂く所ですが、無料で対応致しましょう」


 お? アルリーフさんをタダで転職させてくれるって事で良いのか!

 と言うか……転職って寄付金必要なんだな。


『その様だ。まあ……汝等の場合、我がダンジョンの祭壇で代行しているので不要であるがな』


 結局、ダンジョン内にある代物を勝手に借用しているだけだから、本来はこっちの手続きが正しい。

 俺やムウが転職儀式を行うと危なそうだけど、アルリーフさんは部外者だから……きっと大丈夫だろう。


「では儀式を行いましょう……アルリーフさん、こちらに」


 神父に言われてアルリーフさんが教会の祭壇……あ、ドラゴンっぽい石像が置かれている。

 形状から見てアレってダンジョン内にあった壊れた石像と似てないか?


『薬屋一家が食事の際に聖竜様と祈っておったからな。その祈りの対象なのであろう。なるほど、ドラゴン繋がりだったから我が干渉しやすかったのか』

「では像の前で両手を合わせて祈ってください。それから心を静かに……」


 なんて感じでアルリーフさんが俺達が転職をした時と同じ様に石像に手を……あ、触らない。

 前で何か祈っている。

 するとアルリーフさんの足元に魔法陣が走る。

 ん? ふわっと俺の近くで魔法陣の光が伸びてきた様に見えたぞ!?


『む?』


 大丈夫か? 色々と探知される危険性があるんだよな?


『そうだが……ふむ、懸念する様な事は起きてはいない様だぞ。むしろこれは薬師の転職条件にある、先輩などがいる場合に起こる現象に近い』


 は? えっと、つまり……アルリーフさんの転職欄に毒使いが追加されているのか?

 ムウとは違って確認出来る訳じゃないからどうなっているのかやや不安だ。

 なんて思っていると、アルリーフさんがこっちに振り向いて首を傾げている。


「あの……呪術医という職業が追加されているのですが……」


 どうしましょうか? と言うニュアンスでアルリーフさんが訪ねて来る。

 俺は神父の方に視線を向けると首を傾げられる。


「あまり勧められない職種に呪術師がありますが……アルリーフさんのLvで其処に至るはずはありえません。このような職業があったでしょうか……」


 神父は祭壇の近くに収められている書物を取り出してページをめくり始める。

 それとなくアルリーフさんに近づいて内緒話で尋ねた。


「これってもしかして俺が近くにいるから起こった現象なのかな?」

「おそらくは……」


 出来れば俺の職業の秘密は隠してほしいとアルリーフさんには伝えてある。

 なので毒使いと言う職業を神父には言えない。

 しかし……呪術医。響きからすると薬師になんとなく近い職業の様に見えなくもない。

 呪術って所が何か気になるけどさ。


 えーっと、呪術医って俺のゲーム経験関連で聞いた覚えがあるんだよな。

 シャーマンドクターやウィッチドクターとも言われる職業群。

 主に海外産のゲームで聞いた覚えがある。

 シャーマン系とカテゴリーすると良いのかもしれないけど、薬師ってのは薬草学的な面で多文化では呪術扱いにされたりする。

 そう言った意味では薬師の親戚筋の職業なんじゃないだろうか?


『随分昔に聞いた覚えがある様な職業名ではあるが……』


 ヴェノも知っているのか?


『古い僻地で根付いていた職業であったはずだ。ただ、何分我は人間の職業には疎いので詳しくは知らんぞ』


 なんて話をしていると本を読んでいた神父の手が止まる。


「……ありました。呪術医……薬師が定着する前に存在した、魔法性質が高めの薬師の類似職の様ですね」


 おお。過去の記述に存在する職種なのか。


「物騒な名前ではありますが邪悪な職業では無い様です。呪いを司る魔法を習得する訳ではないそうですよ」

「そうなのですか?」

「ええ、ですが上位職には邪悪な職種への転職条件に組み込まれていたりしますので十分に注意をしなくてはいけませんが」


 邪悪な職業ってなんだ?

 まあ邪悪って位だし、そんな職業への転職は忌み嫌われるって事なんだろう。


『ネクロマンサー等の死者に魔法を使う職業がこの手の場所では邪悪と認定されるであろうな』


 そりゃあ悪そうな職業だ。

 で……毒使いってどの辺りに該当する訳?


『汝の判断出来る範囲で考えてみれば良いのではないか?』


 ……悪そうな職業だなぁ。

 まず毒って所でイメージが悪い。


『それは本来は毒を司る我への嫌がらせか?』


 人間の感性での話だろ?

 毒と言うとまず出て来るのが暗殺みたいな、悪い事への利用だ。

 もちろんヴェノの指摘する薬なども一種の毒なので一概に言えないけど、少なくとも毒単体で良いイメージを抱くのは難しい。

 悪ければ毒、良ければ薬。そんな認識だろう。

 で、毒使いは……な?


『毒を薬に変えると薬使い……薬師と何が違うのかわからん職業だ』


 まだそっちの方が良かったんだけどなぁ。


「邪悪な職業ですか……」


 アルリーフさんがやや困った感じに考え込んでしまっている。


「良い職業にも派生しますので、折角出たのなら転職するのも悪いとは言いませんよ?」

「大丈夫なんですか?」

「邪悪な職業になりたくないのは皆同じ……基礎職である戦士だって邪悪な職業への派生が出たりします。僧侶であっても魔法使いであっても変わりません」


 ああ、戦士とかで邪悪な職業……バーサーカーとかかな?


『それは勇猛な戦士である上位職の一つだぞ? 邪悪では無いな』


 解釈が難しいぞ? ヴェノは邪悪な職業って知ってる?


『戦士系だと……暗黒戦士などか』


 安直な職業名だなぁ。

 とりあえず暗黒って付いたら邪悪な職業って事なんだろうか?


『我も詳しくは知らん。ただ、魔剣士なんかも邪悪な職種だと聞くぞ』


 あ、そっちの方がまだわかりやすい。

 でも、ゲームなんかだと魔剣士って良い職業だよな。

 この世界では違うみたいだが。


『魔剣士になる条件は我も知っておる。魔剣を振りまわしてその力に溺れると勝手に転職するそうだぞ』


 確かに邪悪だな。大丈夫な訳?


『魔剣に血を啜らせる為の傀儡となるのだ。強い力の代償として寿命や命を吸われたり、と碌な末路を歩まんな。ちなみに我の巣にも何本か飾っておったぞ』


 今持っていても絶対に出すなよ? ムウを魔剣士にさせたら俺達の命が危ない。


「ムウ?」

『持っておったら支給するか考えるが、生憎無いな』


 無くて結構。

 というか、あっても支給するなよ。


「ユキヒサさん? 聞いてます?」

「え? あ、何?」


 ヴェノと話しこんでいるとアルリーフさんが声を掛けている事に気付いた。


「どうしましょうか? 一度転職すると数日は再転職出来ませんし……素直に僧侶か魔法使いになるか、この際、呪術医になって見るかを聞いていたんですが……」

「うーん……」


 薬師よりも魔法関係の適性が高めの職業で、ぶっちゃけると亜種。

 ただ、薬師よりも魔法が使いやすいならば悪い職業とも言い難い気もしなくもない。



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