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二十八話


「うーん……」

「別にバランスとか考えなくて良いよ」


 俺もオンラインゲームの経験がそれなりにある。

 仲の良い友人同士で不足を補う様な陣形をして遊んだ事だってある。

 だけど友人がいつも一緒に遊べる訳では無い。

 必然的に抜けた穴をどう埋めるかで悩んだりする訳だけど、最終的にはこの前提が間違っているのを理解した。


 確かに、何かに特化するのは最終的な強さや連携の意味では良いのかもしれない。

 だけど、その場合は仲間が居なくなった場合の損失も大きい。

 わかりやすく説明すると三人パーティ……戦士、僧侶、魔法使いで運用しているとする。

 これなら確かにバランスが良く見えるし、それぞれ役割がある。

 だが、僧侶が抜けたらどうなる? 戦えない状況になったら?

 回復手段が乏しくなって戦い辛くなるだろう。

 こうしたそれぞれの役割を担う者に依存した戦い方と言うのは長所であり短所になりえる訳だ。


 出来る事ならいざという時に補佐が出来る編成でも良い。

 戦士が回復魔法を少し使える僧侶戦士でも良いし、魔法使いが回復も出来るでも良い。

 負傷して戦士が戦えない場合は僧侶が実は近接も心得があったって問題は無い。

 何かに特化しなきゃいけないなんてルールは無いんだ。

 器用貧乏だからダメなんて話ではない。

 まあ……一人で何でも出来るのが理想だけど、現実はそんなに甘くは無い訳で……出来たら仲間なんていらない。


「それこそ俺とムウの編成に合わせるんじゃなくて、アルリーフさんが加わって何が出来るかを考えた方が楽だと思うよ」


 もちろん俺達が賞金首である事が判明して逃げるまでの間の仮のパーティーというのもある。

 今の内に色々と陣形を経験しておくのだって悪い話じゃないはずだ。


「今まで俺が後衛をしていただけで、アルリーフさんに後衛を任せて、中衛……前衛にも後衛にも任意で出来る立ち位置で戦うのだって間違いは無いんだ」


「ムウムウ」


 ムウも俺の意見に頷いている。


「このムウだって長時間前衛をさせると疲れちゃって、その日は狩りを中断しなくちゃいけなくなる。そう言った意味で回復が不要って訳じゃないんだ」

「……わかりました。じゃあ私は後衛でユキヒサさんとムウちゃんを魔法で援護しますね」

「うん。とりあえず今日は村に戻って転職する……じゃあ二度手間になるからアルリーフさんは薬師のままで沼地の魔物を倒しながら採取して行こう」

「はい」


 そんな訳で俺達は毒の沼地を歩いて行った。


 普段はダンジョン前くらいしか行っていないが、この沼地はそこそこ広くダンジョン以外でも奥地が存在する。

 ダンジョンに入って魔物を相手に戦いながら採取するのも良いんじゃないかと考えていたらヴェノが注意してきた。

 アルリーフさんはダンジョンの二階層辺りの瘴気に耐えられる程のLvも装備も無い。

 結構性能の高そうなガスマスクを付けているのになぁ……。

 入れなくはないが厳しい戦いになるから避けろとの事だったので沼地の奥へと行くので妥協した。


 奥の方へ行くと出て来る魔物に僅かばかりの変化が見受けられる。

 バーントアンバーボルボックスという浮かぶ細胞みたいな魔物やリードグレイローチという……精神害虫によく似たマンホールくらいの大きさの魔物が出て来る。

 前者は動きが跳ねまわるボールみたいな魔物で、クロスボウで狙い撃ちしたら割と簡単に居抜けた。

 毒もそこそこ効いた。


 リードグレイローチは……うん、物凄く足が速いので対処が困った。

 逃げ足も速い。

 敵意に関してもそこまで無いので近寄らない限りは安全の様だ。

 ムウが斧の叩きつけを避けられた腹いせに胞子を噴射して範囲攻撃の後、右アッパーが命中したのは印象的な戦いだったと思う。


「ファイアブリッド!」


 俺の後方でアルリーフさんが炎の玉を発射する魔法を放ってリードグレイローチに向かって放つ。

 命中しなかった……なんかリードグレイローチを追いかける様に地面が発火して燃やし殺した。


『リードグレイローチは大量の油を纏っておってな、物理攻撃よりも火で仕留めるのが容易い。どれだけ動きが速くても油を出しながら動き回るからな、引火すればあのように燃える。汝は虫と思っておるだろうが、アレは粘性生命……スライム属だぞ』


 なんとも奇妙な性質を持った魔物だ。

 あの油は何処から出て、何処へと消えるのか……。


『油の部分も体なのだ。消えているのではない。核が虫に酷似しているだけだぞ』


 どっちにしても苦手な形状をしているのであまり戦いたくない。

 それよりもアルリーフさんの魔法を見せてもらったけど、やっぱり凄いな。


『ファイアブリッド。初級の火の魔法だな。魔法式はそこまで難しくない』


 ヴェノが俺にアルリーフさんの唱えた魔法式とやらを文字を浮かべて説明する。

 前にも言ったがよくわからんから後にしてくれ。


『我が唱えたメギドの火がこれだぞ』


 そう言いつつヴェノがアルリーフさんの唱えたファイアブリッドとヴェノの唱えるメギドの火と言う魔法の式の違いを見せる。

 ファイアブリッドが百発放っても足りない位の複雑で大掛かりな式が縮小スケールで俺の視界に映ってる。

 凄いのはわかったから、本気で後にしてくれ。

 こう……ヴェノの態度って一人ぼっちが長くて、やっと出来た友達に必要以上に構ってしまう様に見えなくもない。


『む……我はさびしがりではないぞ! 構ってほしい訳ではないのだぞ!』


 その態度が既に証明している様な気がしなくもない。


『どんな返答をしようと我の評価が変動しなさそうな考えをしおって、今に見ておれよ! ドラゴンを馬鹿にするでない!』


 はいはい。

 解説は時に役立つしありがたいから魔法の講義は後にしてくれ。

 しかし……アルリーフさんにどう言った反応で声を掛ければ良いんだ?

 初めて見たので感動している態度を取ったら絶対怪しまれるよな。


『汝は余り目にしないであろうが、魔法はそれほど珍しくもない。避けるべき反応なのは事実であるぞ』


 やっぱりそうか。

 なら……。


「うん。上手く連携出来ているね。ただ、ムウには絶対に当てない様にお願いするよ」


 ムウはキノコ故に火に弱いだろうと推測される。

 当たったら焼きキノコになって死なれたら悲しいのは元より非常に困る。

 いろんな意味で。


「ムー!」


 大丈夫だぜー! ってばかりにムウがシャドーボクシングをしているけど、念の為だとしか答え様がない。


「はい! ユキヒサさんも毒を使うって本当なんですね」


 毒放出で毒霧散布し、逃げ道を誘導する為に沼地の毒素を凝縮した物を辺りにばら撒いたのをアルリーフさんは言っているのだろう。

 後衛で遠くから狙撃するのとは違って、やや近めにクロスボウや毒で攻撃しているんだけど、近い分だけ当てやすい。

 アルリーフさんの料理のお陰で能力が上がったからか、かなり俊敏に動ける。

 経験値も中々入るし、悪くないかもしれない。


「まあね。色々と工夫していかないといけないから、まだ学んでいる最中だよ」

「クロスボウを放つ以外だと、一見すると魔法を使っている様にしか見えませんけど……違うんですよね」

「うん」


 毒放出で手から毒液を球体状に出して浮かべて見せる。

 ヴェノの話では魔法では無いらしいけど、一体どう言った原理で浮かべているのか使用している俺自身もよくわからない。

 憑依リンクのお陰なのか、それともヴェノの推測にある生まれ持った使い方を理解している類なのか。

 そう言えば魔法を使う魔物もいずれ出て来るだろうけど、そう言った連中も魔法を学んでいる訳?


『種類によるとしか言いようがない。もちろん、本能的に使っている者もいるぞ』 

「まあ、これも職業の力って奴だよ。それじゃあ探索を続けようか」

「はい」


 魔物を収納魔法で収めてから移動を開始する。

 リードグレイローチは燃えて消し炭になっているからもちろん収納してない。


『ムウが倒した物があるではないか。油を絞れば使い道があるぞ?』


 ……食用油ではないよな?

 ランプとかその辺りの油である事を祈るばかり。


『食用も可能だが?』


 絶対にやめろ。精神衛生的にそんな油で揚げた物を食いたくない。


『難儀であるな。上手い事火を通すとパリパリしておって美味いのだぞ?』


 そんなチップスみたいな事を言っても俺は絶対に食わないからな。

 味覚共有したら絶対に許さん。共有すると同時にアルリーフさんの毒料理を頬張ってくれる。


『我を脅す気か!? まったく……』


 俺はあまり料理に拘りは無いが、イナゴの佃煮などの料理は嫌いだ。

 安易に砂糖醤油で甘辛く煮詰めれば良いという発想が嫌いなのだ。


『また妙な拘りを……我もそんな無茶な事を要求せん。珍味には興味があるが、別にこれは珍味ではないであろう? ところで砂糖醤油とは美味いのか?』


 ヴェノは甘党のドラゴン。砂糖醤油に興味があるのか。

 残念ながらアレは醤油の側面が強いのでデザートの分類には入れたくない。

 餅を砂糖醤油で絡めて食べるのもあるが、アレはどっちに属するのか……。

 みたらし団子は砂糖醤油を使ったデザートだったはず。

 線引きが難しいぞ……って砂糖醤油談義は後で良い。

 そもそも醤油がこの世界にあるかわからないし。


『汝の記憶から見るに……似た調味料を見た覚えがあるぞ』


 だーかーら、砂糖醤油の再現から離れろ!

 なんて話をしながら俺達は沼地の奥地で採取をしながら進んでいたのだった。

 やがて……。


「後少しでダンジョンの正しい方の入り口が見えて来る筈ですよ」


 沼地の奥へそれなりに進んだ先でアルリーフさんが言った。


「ああ、こっちが本来の入り口なんだっけ?」


 俺やムウが転職に利用している祭壇のある入り口は、本来は別の遺跡と言うか洞窟で、ダンジョンと繋がってしまったって形状をしている。

 なので正しいダンジョンの入り口側があるのは何ら不思議ではない。


「ええ、こっち側から入った方が楽に深い所に行けるらしいですよ」

「へー」


 アレだ。転職の祭壇がある所から地下二階に繋がっていて、三階に行くにはこっち側に移動しなくちゃいけないとかなんだと思う。


「ユキヒサさんはダンジョン探索をするんですか?」

「んー……実の所、そこまで考えてない。戦いやすい所に来ただけでしかないんだ」


 俺の本来の目的を忘れちゃいけない。

 追っ手からどうにか逃げ切りつつ、強制憑依召喚を解く方法を探しているんだ。

 今、ここでLv上げに意識を向けているのもそれが理由だ。

 ダンジョン探索が目的では無い。

 ちょっと興味はあるけど。


「ですよね。今の私では無理ですし……足を引っ張る事態になるかと思ってました」

「今日は日が暮れるまでの散歩みたいな物だよ」


 あまりアルリーフさんに無茶はさせられない。

 仲間とは言っても期間限定の仲だと思う様にしないとね。


「じゃあこの辺りの魔物ともう少し戦ったら帰ろうか」

「はい。それでユキヒサさんは……帰る途中でお風呂代わりに浸かって行くんですか?」


 あ、その話をまだ気にしていたんですね。


「えー……さすがにアルリーフさんと一緒にいる時はやらないよ?」


 人目があるのが判明した訳だし、何かしらの手段はしたいけど……。

 俺にとって毒の沼地は源泉かけ流しの温泉みたいな感覚なのは否定しない。

 足湯で済ますか、開き直るか、ムウを見張りに使うかを考えておこう。

 なんて話をしていると……。


「急いで戻るぞ」

「おう!」

「か、回復を……」

「わかっている!」


 おや? 何か冒険者達がダンジョンの入口があると言う方角からぞろぞろと青い顔をしながら走って来てすれ違った。


『汝、警戒しておけよ。ああ言った速度で走る冒険者は魔物から逃げている最中である可能性が高いのでな』


 あー……確かに。俺の取って置きの毒が火を噴く時が訪れたか?

 それはアルリーフさんも察しているのか、即座に冒険者の後方に意識を向けているのが分かる。

 何時でも逃げ出せるようにって様子だ。

 毒霧をばら撒いて行けば逃げれるか?

 見た感じ……魔物の気配は無いが……。


「ムウ?」


 やがて冒険者達は去っていき、辺りは静まり返っていた。



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