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二十三話

「ゲホゲホ――」


 後ろでアルリーフさんの父親が俺の調合の邪魔をしよう立ち上がろうとしている。


「ムウ! 抑えておけ」

「ムー!」


 俺の指示に従ってムウがアルリーフさんの父親に飛びかかる。

 能力的にどれくらい差があるかわからないけど、時間は稼げるか?


「ゲホ――」


 ムウの突進でアルリーフさんの父親は転がされて仰向けになった所を、ムウは上に乗って抑え込む。

 念の為に軽度麻痺毒を僅かにアルリーフさんの父親に放出、バシャッと軽く掛かる。


「うぐ――ゲホ……」


 これで少しばかり時間は稼げるだろう。


「ユキヒサさん!?」


 心配そうに俺を見つめるアルリーフさんに諭す様に声を掛ける。


「大丈夫だから、絶対に君の両親を助けるから……とは言っても、君の親が飲んでくれるかちょっと怪しいけど」


 結構、頑固そうな顔をしている。

 責任ある仕事をしているからこそ、余所者が出しゃばるのが我慢できないんだろう。

 やや強引な手段に出るしかなかったのが俺自身の信用の無さか。


「いえ……お父さんは納得が出来れば飲んでくれると思います。ユキヒサさんの作った薬が中々の物だと褒めていましたから」


 そっかー……とは言え納得出来るかな?


『では説明してやれば良い。ブラッドフラワーがどう言う病であるか、マルフィーナを薬の主成分としてどの様な効果があるかをな』


 俺はヴェノの説明をそのまま代弁する。


「何故花の形をした痣が胸周りに出るか、それはブラッドフラワーの病の正体が胸周りに寄生する微小なカビ型の魔物に由来する」


 こんな魔物も存在するんだな。

 目に見える魔物だけが全てじゃないって事なんだろう。

 何だかんだ言って毒使いの俺にはイージーでもこの世界の人達には本当に厳しい。


「そしてこの魔物にはマルフィーナの効能が人と同じく効き、一時的にハイにする事で宿主の殺害しようとする行動が出来なくなるからなんだ。レッドデスファイアを調合する事で薬効に変化が起こって人体にマルフィーナ独特のハイ状態が出ず、カビへの毒性が上がる。更に解毒効果が発生する」


 なるほど、薬を飲めば即座に治ると言うのはこう言った理由がある訳か。

 魔物なんだから倒せば良い。


『昔、名のある魔物が作り出したと言われている魔物だ。既にその創造者である魔物は討伐されたが、作成された魔物は未だに息づいているのだ』


 毒性自体は解毒剤で即座に消せる。これが症状を止めるだけに留まる理由か。

 ……これってこの世界ではウィルスとか細菌も魔物扱いなんじゃないのか?


『物にもよるとしか言いようがないぞ? 魔物では無い病も存在する。あくまでブラッドフラワーはカビ型の使い魔が引き起こすにすぎん』


 どちらにしても、どんだけ厄介な病を作ってんだよ。

 なんて嘆きたくなるけど、この説明で納得出来るのかどうかは俺自身、よくわからない。

 何せ俺は薬師じゃない。毒使いだし、その毒使いだって日が浅いんだ。

 だけど納得してもらわないと話は進まないし、服用してもらえない。


「このブラッドフラワーは高いLvの者への症状が軽いのはそう言った理由からだ。攻撃が効かない程頑強なら諦めも早い」


 なるほどな。寄生して毒で殺そうとする病なんだから毒使いの俺にはまず効かない。

 俺の体内を巡っている沼地の毒素とかで即座に殲滅出来てしまいそうだ。


「アンタの薬に足りないのはブラッドフラワーへの殺傷力だ。だから窒息効果のある毒草ポーニュクと毒性の強いジーテトロダケの胞子を一定比率で混ぜた化合物を5%の割合で混ぜる。人が無害で済み、ブラッドフラワーには致命傷を与える割合でな。これで納得したか?」


 俺の放った軽度麻痺毒が抜け、ムウの拘束を受けたままのアルリーフさんの父親が大人しくなった。

 不満そうな顔ではあるが。

 手でムウに合図を送って拘束を解かせる。


『後は……そうだな。死なないことへの証明として汝が目の前で服用すれば良い。まあ、毒吸収のお陰で仮に致死する毒であっても毒味が出来てしまうがな』


 えげつない提案を……とは言っても、信じてもらうにはこれしかないか。


「証明として出来上がった薬は俺も飲むよ。どうせ此処にいたら感染してしまいそうだし、飲んでおけばしばらくは予防にもなる。これで信じてもらえませんか?」


 俺の言葉にアルリーフさんが父親に駆け寄ってから頷く。


「……私はユキヒサさんの言う事が間違っている様に感じられません。お父さん、試してみませんか?」

「ゲホゲホ……手荒な真似をしやがって、言いたい事はわかった。俺の目の前でしっかりとその毒物にしか見えない物を飲んで生きて見せたら信じてやろうじゃないか。失敗したら覚えていろよ」

「ええ」


 そんな訳で俺は、最後の仕上げとばかりに毒物にしか見えない化合物を5%……アルリーフさんの父親が作っていた薬に配合してしっかりと混ぜ合わせた。

 そうして出来上がった薬を確認する。


 特効薬 品質 高品質

 毒性の高い物で作られたやや危険な薬。一部の病に効果がある。

 大量摂取は非常に危険。


『後はこれをスプーン一杯程飲めば効果が出る』


 水薬にしか見えない物を少しだけ冷ましつつ、アルリーフさん達に見えるようにヴェノの指示した分量を口に含んで飲む。

 味は……何だろう。やや強めのキンモクセイ見たいな香りが鼻を通り抜けて行った。

 毒物目利きで人体への毒性は感知できなかったでの大丈夫なはず。


「これで良いか?」

「ゲホ……もう少し待て、俺が口を付けた所で、コーグレイ。お前が『ウッ!』って倒れたらどうすんだよ」


 まあ、ありそうな話だよな。

 しょうがないのでそれから一〇分待った。

 平然としている俺を見てアルリーフさんの父親も怪訝な目をしつつ、この一〇分で戸棚から高そうな解毒剤を取り出している。

 警戒心強いな。


「お父さん、そんな解毒剤と一緒に服用したら効果が薄まるんじゃない?」

「アルリーフ! お前も見ただろ! 下手すりゃこれは毒となんら変わらねえんだよ。準備をしなきゃいけねえ」

「もう……良いから早く飲まなきゃ毒味したユキヒサさんに悪いわ! さ、飲んで」


 アルリーフさんが父親に俺が仕上げをした薬を一口飲ませる。


「うぐ……」


 効果は即座に現れた。


「ゲホ――な!?」


 咳が途中で止まり、咳こもうとしていたアルリーフさんの父親自身が驚きの表情で自身の胸に手を当てている。

 花弁型の痣が一瞬にして消え去り、一目で全快したとばかりにアルリーフさんの父親の顔色が良くなった。


「そんな馬鹿な!? ここまで早く治るもんなのか!?」


 確かに早い。ほとんど一瞬だった。

 ここまで治るのが早い所を見るに、本当に魔物が原因なんだろう。

 まあ……この光景だけを見たら異世界の薬って凄いとか、ゲームみたいに一瞬で治るもんなんだなと流して居そうでもある。


『ブラッドフラワーは厄介ではあるが、強い魔物ではない。適切な対処をすれば簡単に倒せるのだ』


 回復薬や色んな解毒薬に耐性がある事から、それなりに生命力はあるんだと思う。

 とはいえ、ブラッドフラワーはウィルスみたいに小さい。

 全身に毒が回るのも早いって事なんだろう。


「ブラッドフラワーは病じゃない。これは治療じゃなく……魔物の討伐だ」

「魔物……通りで薬があんまり効かねぇわけだ……」


 どうやら信じてくれたらしい。

 まあ、これだけ効果があれば信じてもらえるのが当たり前か。


「こんなにも早く治るなんて……凄い」


 アルリーフさんも喜びの表情で父親に声を掛ける。


「毒性はアンタが作った薬の内容物に入っている解毒剤で解毒されている。まあ、こんな所だ。早くアルリーフさんのお母さんにも飲ませてあげれば良い。この村のブラッドフラワーは根絶出来る」

『ちなみに一人治すごとに多少の経験値が薬を作った者が近くに居れば入るぞ。しかも類似の病なら大体効果がある』


 ヴェノがなんだかしょうも無い補足をしながら締める。

 俺とムウにしか聞こえないから良いけどさ。

 後は……しっかりとこの流行り病の根絶をしなければいけない。

 じゃなきゃヴェノの懸念した問題が浮上する。


 そんな訳で俺とアルリーフさんの父親が作った薬はすぐに奥さんに服用させ、アッサリと症状は快方に向かった。

 減った体力は回復薬や回復魔法で補える範囲だったから翌朝には出かけられるほどに回復した。

 翌日には俺が提供したヴェノの知識によって完成した薬で村に蔓延しようとしていたブラッドフラワーはアッサリと根絶される事になったのは言うまでも無い。

 関わるからにはやらねばならないと数日の間、俺達は薬屋にマメに出入りして薬の監修を行った。


 このお陰か、村の中も外も関係なく俺の名前は有名になったのは言うまでも無い。

 そもそも流行の兆しが既にあって、この地域の村々は不安な日々を過ごしていた様だ。

 隣村の者達も藁にも縋る思いで村にやって来て薬を買いに来る始末。

 まあ、ブラッドフラワー患者限定に近いけど……それでも流行り病は想定よりも少ない犠牲で終息に向かったのは良い事なんだと思う。

 冒険者達も戻って来て、閑散としていた村から賑やかな声が聞こえて来る様になった。


「あら? コーグレイさんはお出かけ?」


 体調不良で寝込んでいたはずの宿屋のおかみさんが元気よく俺に声を掛けて来る。

 痩せ形だったのはもう昔、たった数日で恰幅の良さそうな女性に変化していたのは驚きの一言だ。

 どうやらおかみさんは他にも病を併発していたそうなんだけど、しっかりと診断した末に調合した薬を服用する事でその全てを殲滅出来てしまったらしい。


 その結果、病を治す事に使われていた生命力が……こう、脂肪として表面化して太りだしたと言うか……。

 どちらにしても虚弱な感じだったのはもう昔、元気に裏庭でムウの斧を借りて薪を割る姿を見ると複雑な気持ちになる。

 話によると昔は結構、名の売れた冒険者だったらしい。


「ええ、薬屋に呼ばれてましてね」

「そうなの? 毎日精が出るわね。まあ、これも全てコーグレイさんのお陰だからしょうがないわよねー。ねームウちゃん?」

「ムー!」


 宿屋のおかみさんの陽気な変貌に大分馴れて来てるけど、そのニヤニヤと俺を見るのはやめてください。


「今度、私の姪を紹介しようかしら。良い子よ?」

『汝、婚姻による囲い込みをされそうになっておるぞ。かわせ』

「お、お言葉は嬉しいですが、まだそう言った事は考えていないので」

「そう? コーグレイさんもそこそこの年でしょ? そろそろ落ち着くのも良いものよー?」


 ああもう。元気になったら見合いを進めるおばちゃんに転職かよ。

 宿代が安いから利用させてもらっているけど困る。

 ここは古くから伝わる日本人の悪習、曖昧な返答で切り抜けよう!


「か、考えておきます」


 暗に断りしますを遠回しに告げる物であるが、この世界の人達にはどう伝わるか。


「ふふ」


 あ、笑われてしまった。

 く……どう対処すべきなんだ?


『貴様の姪など我は興味など無いわー! が良いと思うぞ』


 喧嘩売ってるだろそれ!


「呼び止めちゃって悪かったわね。いってらっしゃい。ムウちゃんも」


 おかみさんが気を使ってくれたのか見送ってくれる。


「ムー!」

「あ、はい。行ってきます」


 そんな訳で俺は宿屋を後にして薬屋へと向かった。



「あ、ユキヒサさん!」

 アルリーフさんが薬屋の前で出迎えてくれる。


「来たかコーグレイ」


 薬屋も若干忌々しそうな表情で俺を呼んでいるな。


「経過はどうなんですか? この村だけじゃなく……全体的に」

「大分流行り病は終息傾向にある。お前もわかってんだろ?」

「ええ、まあ……」


 と言う所で薬屋は深いため息を漏らした。


「さて……じゃあそろそろ本格的に報酬の件になる訳だがな」



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