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二話

「幸久が名前です。アルリーフさん」

「ユキヒサさんですね。大丈夫ですか? もう少しで解毒剤が出来上がりますので服用してください」


 アルリーフさんがそう言って薬研でゴリゴリと薬草らしき物を練り合わせ、最後に水を入れたガラス瓶に練り合わせた薬草を入れて溶かして俺に手渡す。

 これを……飲めと? 凄く苦そうなんだけど。


「簡易解毒剤ですが効果はあるはずです。どうぞ」

「あ、はい……」


 何か成り行きで付き合わされているけど体調に異変は無い。

 むしろ仮眠した影響で調子は良い位だ。

 いや、デスマーチ後のハイな状態が寝起きでも続いているのかもしれないけどさ。

 とりあえずアルリーフさんが手渡した謎の液体を見つめる。

 ……ん?


 簡易解毒剤 品質 並

 解毒効果のある薬。軽い毒素なら解毒可能。


 謎の矢印と共に謎のメッセージが出てきたぞ!?

 なんだコレ!?


「さあ、早く! 毒が回り切る前に」


 これが毒!? いやいや! ゲーム好きだった自覚はあるけど、幻覚を見る位まで好きだったとは俺自身も驚きだ!

 アルリーフさんに勧められて、出された簡易解毒剤を飲んでしまった。

 ミントみたいな後味と言えば良いんだろうか? スッとして、見た目よりは不味くは無い。


「解毒剤も服用したし、大丈夫なはずです。これで症状も改善すると思います」

「あ、ありがとうございます」


 親切心から俺を心配してくれるのはわかるんだけど、何かピントがズレている様な気がする。

 名前からして日本風じゃないし、どんな閉鎖集落なのかわからないけど、どちらにしても善意で俺を助けようとしてくれているのはわかる。


「あの……それでユキヒサさん? 簡易的な治療ですみませんが、ここは危険なので早めに安全な場所へ移動するのが良いかと思います」

「あ、はい」

「近くの村まで送りますね」

「何から何までありがとうございます」

「いえいえ、こう困った時はお互い様ですよ。さ、こっちです。大事を取って魔除けの香を焚いて行きましょう」


 そんな訳で俺はアルリーフさんの案内の元、謎の沼地から移動を開始した。

 何か良い匂いのするお香を焚いてアルリーフさんは案内してくれる。

 三〇分くらい舗装されていない山道を歩いて行くと村らしき場所に到着。

 こう……のどか……じゃないな。

 ちょっと廃れ始めた感じの閑散とした空気が漂っている様な気がしてならない。


「ここまでくれば大丈夫です。後は……ユキヒサさん、お金はありますか?」

「えっと、一応は」


 財布の中にお札は何枚かある。

 いざという時はキャッシュカードがあるし、何処かで引き出せばどうにかなるはず。


「じゃあ……大丈夫ですね。何かあったら、役場に行けばどうにかなると思います。それでは私はそろそろ……」

「え?」

「その、とても心配ではあるのですが、私も仕事がありますので……」


 ああ、山奥で倒れている人を見つけたから介抱して人里に案内したけど、アルリーフさんも仕事があるって事ね。

 美少女だからもう少し話がしたいと思ったけどしょうがない。


「何から何までありがとうございました。このお礼は必ず」

「いえ、気になさらず」

「そうはいきませんよ。後でお礼をしに行きますので連絡先を教えていただけませんか?」

「そうですか? じゃあ……私はこのニスア村で薬師をしています。あそこが家です」


 なんて感じでアルリーフさんは村の外れにある西洋風の家を指差した。

 おお、煙突がある。


「それじゃあ仕事があるので……」


 と、アルリーフさんは来た道を戻って行ってしまった。

 日本にも変わった地名があるんだなぁ。ニスア村って何処の村なんだろうか?

 俺はアルリーフさんが見えなくなるまで手を振り、村の方へと歩き出す。

 人里に着いたと思いつつ、村の人に声を掛けようとして躊躇われる。


 いや、だって耳がね。

 犬みたいな耳を生やした人がいるんだもん。

 あれってコスプレ? 野郎の犬耳コスプレはちょっと厳しくないですかね?

 ネタでやるにしてもここはコスプレ会場じゃないでしょ。

 しかもガラも悪そうだし、話しかけて絡まれるのは避けたい。

 俺に起こった謎現象とか色々と纏めて行くと、随分と変わった夢を見続けているなって気はして来る。


 ……本当に俺は夢を見ているのか?

 こう……幾ら長い夢を見ているにしても、夢ならではのふんわりした感じがしない。

 見知らぬ場所の空気を感じるとでも言うのか、何かが違うんじゃないか?

 しかも道行く人の中で動物っぽい耳や尻尾を生やした人を見たら色々と思う所は増えて行くだろ。

 アルリーフさんの使っていた言葉も日本語には聞こえず、それでも意味はわかった謎の感覚。


 一体どうなっているんだ?

 なんて思った直後。


『おい。聞こえるか?』


 頭の中から声が聞こえてきたので、きょろきょろと辺りを見渡す。

 しかし声の主はおらず、というか誰も俺に話しかけていない。


『やっと声が届いたか。調整するのが中々に面倒であったぞ』

「だ、誰だ!?」


 いきなり頭の中から声がしたら誰だって驚くだろ。

 俺はどうなってしまったんだ? 夢? 夢なのか?


『落ち着け。下手に騒がれると我も困る。汝も死にたくかなろう』


 何? これで落ち着けというのは無理だ。

 しかし、ここで騒いでも周りに迷惑が掛かる。

 幸い声の主は何かをしようとしている訳ではなさそうなので従おう。


『それで良い。まずは我と汝の事情を理解するのが先決だ』


 いや、事情を理解しろと言われましてもね。


『驚くのも無理は無い。だがこのまま果てたくはないであろう?』


 果てるって大げさな。


『大げさではない』


 ――!? 思ってる事を聞かれている!?


『うむ、聞こえているぞ? チャンネルの感度が高すぎるか?』


 お前は一体何なんだ!?

 徹夜続きで幻聴が聞こえると言うが、ブラック企業勤務で俺もついにおかしくなってしまったとでも言うのだろうか。


『良いから落ちつけと言うのだ! ああもう歯がゆい……ふむ、若干貴様の脳裏に過った思い出を読み取ると……そう言った事情とは異なるから安心せよ』


 ああもう……俺の頭の中で謎の声が響き続ける。

 素直に従っていたらどんどん悪くなっていったりするんじゃないか?


『良いから落ちつくのだ! とりあえず出来れば人目を避けて欲しかったがしょうがない。ここでより現状を把握するために確認をするぞ』


 声がそう言うと同時に俺の視界にまるでゲームのステータスの様な代物が浮かび上がる。


 小暮幸久 ポイズンアース Lv1

 所持スキル 憑依リンク 毒吸収(弱) 毒放出


 なんだこれ!?

 さっきアルリーフさんが飲ませてくれた解毒剤で幻覚が治療されたんじゃなかったのか!?


『やはり勘違いをしておったな。これはこの世界の理にして自身の力を数値化、把握する力だ』

「ゲームみたいだな」


 思わず声に出してしまう。


『遊戯と述べるか……さすがは異世界の存在と言うべきか』


 異世界?


『ああ、汝が異世界人であるのは我も理解している。まずはそこから説明すべき事だ』


 人目を避けつつ、且つ危険では無さそうな、いつでも人目のある所へ逃げられる人通りの多そうな広場の隅へ移動する。

 まずは状況をしっかりと認識した方が良いとの判断だ。


『思ったよりも冷静に動ける様だな』

「一体何なんだこれは? 俺はどうなってんだ? お前は幻聴じゃないって事で良いんだよな?」

『立て続けに質問するのは良いが、しっかりと状況把握が出来るのか? ……まあ良い、どうせ知らねばならん事だ。多少の余裕はあると祈るしかないか』


 そう言ってから声は一旦間を置いてから説明する。


『最初の質問は先に言った通り、この世界の理、汝の認識でゲームのステータスの様な物で間違いない』


 いや、だからなんなんだと聞いてる訳で、答えろっての。


『そう言われても、我もそう答えるほか無いのだ。他に説明の仕方をしろとは……そう言えば昔、我の……知人が言っておったな。他世界には能力を数値化して把握する術がない所もあると。その場合は……なんで生きる為には息を吸わねばならないのか? と言うのと同じだと聞いたぞ。それがこの世界のルールなのだ』


 息を吸わねば死んでしまうからだが……わかった。

 そういうモノだと強引に納得するしよう。今はそれ所じゃないし。


『残りの質問の返答は同じ事情に関わってくる。まず汝はこの世界の人間が起こした悪しき魔法によって異世界から強引に招かれてしまった異世界人にして生贄、我を収める器にされてしまったのだ』


 生贄? 我を収める器?


『この魔法の名を強制憑依召喚。強者に勝つ為に努力もせず、英雄も廃し、正々堂々とは程遠い卑劣な儀式よ。彼の国の蛮行にもほとほと呆れる』


 声の主は投げやりな溜息にも聞こえる愚痴を零す。


『か弱き人間が強者である相手を容易く殺す為の術だ。相手に魔法を掛け、相手の魔力さえも利用して召喚魔法を発動、異世界の存在と強制的に接続し、召喚させる』


 異世界召喚?

 ……随分前に何個か見た覚えがある。

 勇者として召喚されたり、同時期に流行っていたロボットモノと合わせた奴もあったな。

 いや……どちらかと言えば最近のネット小説の方か?

 残念ながらブラックな労働環境の所為であまり見る機会はなかったが、○○○○万PV! みたいな帯のついた小説を本屋で見た事がある。


 ……思考が脱線した。

 強い相手に魔法を掛けて、その相手の力……魔力を支配して強引に魔法を使わせる。

 その魔法が召喚魔法で……異世界から人を呼ぶと……。

 オウム返し的な反応になってしまっているが、整理は重要だ。

 この場合、掛けられたのはおそらく声の主で、召喚されたのは俺って事……だよな?


『考えるよりも前にまず話を聞くのだ。そうして出てきた者には魔法を掛けられた相手が宿ってしまう。後は召喚直後のか弱き雛の様な異世界の者を殺せば……魔法を掛けた相手も共倒れして絶命する。そんな魔法だ。強制憑依召喚という名前以外にも代理対戦とも呼ばれたりする忌むべき魔法なのだ』


 代理対戦……代理戦争みたいな名前だ。

 だが、こっちの方がわかりやすいかもしれない。

 強国同士が冷戦時、戦争中の弱小国をバックアップし、勝った方の弱小国をバックアップしていた強国が何かしらの利益を得る戦争行為。

 デメリットを極力抑える事が出来るのが長所だ。


 この場合……声の主が強国で俺がバックアップを受ける小国って事になる訳だが……代理戦争との違いは俺が死んだら声の主も死ぬって事らしい。

 まあ、これを施したのは敵国って認識なら敵のデメリットは極力抑えられる。

 強引に相手を弱体化させて共倒れをさせようって事なんだろう。たまったもんじゃない。


『うむ……理解が早くて助かる。どうやら我の説明はしっかりと把握できた様だな』

「一応は……で? そんな魔法を掛けられたお前は一体何なんだ?」


 ふと、目覚める前に見ていた夢を思い出す。

 絶対的強者としか言いようがないドラゴンの視点での戦闘と敵の魔法に掛かった結末。


『お? 我が魔法に掛かる直前に、汝も予見していたと言う事で良いのか? これもまた奇妙な出来事よ。強制憑依召喚が起こした現象と言う事で間違いは無いのかも知れんな』

「……もしかしてお前」

『うむ。その場で殺される訳にはいかんのでな。持てる魔力、知恵の全てを振り絞って抗い、どうにかその場から脱出する事は出来たが……この様だ。我は汝等人間からしたらドラゴンと呼ばれる存在。知人からはヴェノ=イヴェバールと呼ばれた者だ』


 俺が夢だと思って見ていたのはこのドラゴンが魔法に掛けられる直前の状況だって言うのかよ!

 思わず頭を抱えたくなってくる。

 あまりにも現実感が無いけど、これ……夢じゃないって事だよな。

 ブラック企業から抜け出したいと思っていたけど、異世界召喚されたいとは思っていない。

 そういうのは俺よりも若い、十代の学生さんがやるもんなんじゃないのか?

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